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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら10泊目

1 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/01(水) 08:47:35 ID:SVgYayco0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目」
ttp://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1175450270/

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

657 :晴闘雨読【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/09(火) 02:50:35 ID:31EFKMrf0
「まぁたイサミはグジグジ言いやがって。お前の目的は何だ?言ってみろ!!
 お前がどんだけ甘い事言ってたって、モンスターにはそんな事お構いなしだ。
 むしろ、相手は無防備・無抵抗な人間を喜んで殺しに来るんだぞ?
 平和な世界を引き摺ったままの考えじゃあ、目的達成の前にモンスターの晩飯だ。
 それが嫌ならさっさと気持ちを切り替えろ!!」
いつも見せるおちゃらけた表情とは違う真面目な顔でヘンリーが俺に語りかける。

…そうだ、平和ボケした考えじゃあこの先を生き残れない。
負けない。強くなる。そう誓ったばかりじゃないか。

「イサミ。ヘンリーの言う通り、これがコッチの世界で生きるための最低条件なんだ。
 すぐには気持ちを切り替えられないかもしれないけど、でなければ生き残れない。
 それに、僕やヘンリーだって相手の命を奪う事に慣れてなんかいないよ。
 いや、人間なら誰だってそうじゃないのかい?」

俺は二人を見つめ、黙って頷いた。
…生き残る…そのためには、降りかかる火の粉は払わなければ…

「まあ…いきなりコッチの世界の常識に合わせるのはは難しいよなあ。
 もし俺がソッチに行って、『家の外に一歩も出ない生活がコッチの常識だ。』
 …なあんて言われたら退屈で退屈で死んじまうよ。」
「そうだよねえ。モンスターが出ない世界なんて羨ましいと思ったけど、
 そう考えるとイサミの世界で生きるのも大変なんだろうね。」

…やっぱり誤解されてるよ…

「だから、俺の世界ってのはそうじゃなくってさあ…」

―この二人に俺の世界の正しい姿を伝える―
…俺の旅にもう一つの目標が加わったが、自動車も電気もガスもコンクリートも…
そもそも科学の概念が通じない二人に説明するのは奴隷の救出よりも難しいのかも…

658 :晴闘雨読【8】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/09(火) 02:51:12 ID:31EFKMrf0
…ん?足元に何か…

ああ、ブラウニーの持ってたハンマーか。
どうしよう?


拾いますか?

ィァはい
  いいえ

イサミは おおきづち を手に入れた。





イサミ  LV 5
職業:異邦人
HP:35/41
MP:7/7
装備:E銅の剣 Eブルゾン

持ち物:カバン おおきづち

呪文・特技:岩石落とし(未完成)

659 :幕間の弁当時間 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/09(火) 02:54:14 ID:31EFKMrf0

今日の本編投下はここまでですが、ここまでの登場人物のまとめです。
名前の由来がメインです。幕間の幕の内弁当代わりにどうぞ。

主人公…村崎 勇 【ムラサキ イサミ】
(自分の中で)ドラクエ5のイメージカラーである紫→ムラサキ→村崎。
それにドラクエと言えば勇者→勇 …の流れで名前を決めました。
平和な現実世界から突然サバイバルなドラクエ5世界に飛ばされた大学生です。


サトチー 【本名?】
結構やった人いますよね?SFC版で主人公名を『トンヌラ』にした時のアレです。
パパスのセリフだけ見てリセットする人が大多数。
名前はアレだけど、優しい好青年です。
本来の主人公なのに書くことが少ないです。


ヘンリー 【ヘンリー=ブローマ=ベルデ=ド=ラインハット】
長いです。外人の名前はミドルネームとかあってただでさえ面倒なのに、
貴族・王族だとさらに大変な事になります。
ミドリ…じゃない、ミドルネームのブローマ(broma)はスペイン語で『いたずら』
同じくベルデ(verde)はスペイン語で『緑色の〜』が由来です。
また、〜=ド=ラインハットで『ラインハット王族・貴族の〜』という意味です。
"ド=〜"が、英語の"of〜"に近いニュアンスなようです。

専門知識がある訳ではないので間違ってるかもしれないのが怖いところです。

660 :幕間の弁当時間【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/09(火) 03:11:54 ID:31EFKMrf0
神殿に残った奴隷仲間や、修道院のシスター達。脇役達の名前の由来も…
主にスペイン語から拾ってます。

最初に、奴隷宿舎の室長。アルバニーのオヤっさん。
彼はスペイン語で『石工』(albanileria)から頭文字を抜きました。
屈強な石工職人をイメージです。

元踊り子のベイラルちゃんは、『ダンサー』(bailarin)から、
これは由来の言葉をチョットもじりました。

テルコ爺さんも同じく『頑固』(terco)からです。
照子だと婆さんっぽいんですけどね。

シスター・シエロのシエロは『空』(ciero)から。
空のように広い心をもった上品な大人の女性。

シスター・ビオレッタのビオレッタは『スミレ草』(Violeta)から。
道端に咲く小さくて可憐な花。

ほとんど全てスペイン語から取って、それらを名前っぽくいじってます。
キャラが増えたら、またその時に…


では、次回投下までしばしお待ちください。

661 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/09(火) 08:02:15 ID:khAhOaQd0
投下乙

いいもんだね、登場人物の名前にこだわるってのは。

662 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/09(火) 10:02:47 ID:d092SX8+0
乙!
面白かった〜!
名前の由来はサトチーしか解らんかったけど全員納得。
次回の投下期待してます

663 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/09(火) 12:06:48 ID:HtualGl3O
冒険の書、面白かったです。最後のダイドンデン返しにはビックリした。
イサミの冒険は名前が拘っているなぁ。次回もガンガレ!

664 :兎の耳にアイラビュー【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/11(木) 01:54:23 ID:rFp+6ggU0
LOAD DATA 第四話>>647-658

―商業都市オラクルベリー
北方大陸から隔てられた島の中央に位置するこの町は、交易の町として知られている。
東方と西方の大陸の中間に存在するこの島は、貿易船の物資補給の場として発生し、
西方大陸の玄関『港町ポートセルミ』〜東方大陸の大国『グランバニア王国』間の
海路の中継地点として繁栄した。―

ふーん…交易の町オラクルベリーかあ。道理で商人の姿が多いわけだ。


…さて、この活気溢れる都市で俺達はなぜ途方に暮れているのだろう?




…なぜ俺達は無一文なのだろう?




「………」 びしっ!
「痛!」
ヘンリーのチョップが俺の脳天に叩き込まれる。
はい、チョップの理由は俺自身よくわかっています…

「………」
わかっています。謝りますから何か喋ってください。
謝りますから…(#^ω^)←こんな顔で俺を見つめないで下さい。

「まあ…ね…過ぎた事を責めても仕方がない。問題はこの後どうするかだ。」
サトチーの気遣いの言葉の裏に感じる疲労感が重いです。

665 :兎の耳にアイラビュー【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/11(木) 01:56:50 ID:rFp+6ggU0
オラクルベリーに辿り着いた俺達は、武器の新調を考え、武器屋に足を運んだ。
攻撃魔法が使えるサトチーとヘンリーはともかく、近距離戦がメインの俺にとって、
武器の性能は死活問題。
(…岩を降らすヤツもマスターしてないし…てか、あれから一度も成功してねえ…)
また、サトチーのチェーンクロスも10年前に買ったという事でだいぶガタが来ており、
攻撃魔法が得意なヘンリーも、魔力が尽きた時を考えるとある程度の武器は必要。
てなわけで武器屋に訪れたわけだが…

「う〜ん…全然金が足りないなあ…」
「僕達は脱走した身だからね。何か売れる物あったっけ?」
「売れる物…さっき拾ったハンマーと…俺のブルゾン…結構気に入ってるんだけど…」

結局、ブラウニーが落としたおおきづちと、俺のお気に入りのブルゾンを売っても
145Gにしかならなかった。

内訳は汚いハンマーの売値が110G、俺のブルゾンが35G…

『はあ?下北沢で20000円もした俺のブルゾンが何で汚いハンマー以下なんだよ!
 旅人の服?何だよソレ?どこに目ぇ付けてるんだこの×××が!!』
…と、言いたかったけど武器屋の店主は筋肉隆々の覆面男。逆らったら多分死ぬ。
ガックリと三人で肩を落とす。俺チョット涙目。

コッチの世界ではファッション性よりも、武器防具としての性能が価値基準らしい。


「こうなったら勝負をかけるしかないな。」

最初に持っていた500G強と、今の145Gを合わせて700G弱。
この逆境から這い上がる方法は一つしかない。

「いざ行かん。俺達の未来を煌々と照らすあのネオン(カジノ)の下へ!!」

666 :兎の耳にアイラビュー【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/11(木) 01:58:09 ID:rFp+6ggU0
「ほら、止めなかった僕たちにも責任はあるからさ…」
むくれるヘンリーをサトチーが必死になだめる。

スロットには自信があったんですよ。
目押しには絶対の自信があるんでコッチでも何とかなると思ったんです。
世紀末の覇者だって何度も昇天させたしさ。
でも、コッチのスロットは目押しできねえの。自分でビックリです。

…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…



全額カジノのスロットマシーンにつぎ込んで、あっという間にスカンピン。
今夜の宿代も失い、暮れ行く都会の道端で佇む三人。

奴隷労働から逃げ出したと思ったら路上生活者か…世は無常だなあ…



ずっとむくれてたヘンリーは、カバンに入ってたガムをあげたら機嫌が直ったようで、
壁に背をもたれてクチャクチャやってる。
緑髪の男が道端でガムをクチャクチャやってる姿はどう見てもDQNだがあえて触れない。

店の主がマッチョな覆面だったり、バニーガールが普通に町を歩いてるような世界だ、
町の人もDQNには免疫があるのだろう。


…バニー?


ウサ耳、バニースーツ、フサフサ尻尾、網タイツのバニーを雑踏の中に見つけ、
俺の両眼がスナイパースコープのようにその姿をサーチする。

667 :兎の耳にアイラビュー【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/11(木) 01:59:28 ID:rFp+6ggU0
スキャン開始

顔偏差値…70
スリーサイズ…B91 W58 H86
足ライン…規格クリア
衣装ポイント…+500ポイント
総合偏差値…測 定 不 能
戦況…相手は重そうな袋を両手に下げ、さらに大きな箱を抱えている。

結論…
我々は今、このト・キ・メ・キ☆を結集し、バニーちゃんに叩きつけて
初めて真の愛を得ることが出来る。あのウサ耳こそ、男達全てへの最大の魅力となる。
俺よ立て!思案を煩悩に変えて、立てよ俺!バニーちゃんは俺の力を欲しているのだ。
ジーク・バニー!!
アホか俺…って、なんかコッチ見てる…え?向こうから近付いてきた。

「ねえ。ちょっとだけ私の仕事場に来てもらえないかしら?」

疾風の如くYES。
もうお兄ちゃん君の荷物を持っちゃうよ。

「ありがとう。それじゃあ箱は私が持つから袋をお願いてもいいかしら?」

(心の中で)高く飛び上がり、(心の中で)回転しつつYES。
なにやら食材が大量に詰まった買い物袋の重さも感じないぜ!

「ねえ、あのターバンのお兄さんもお友達でしょ?一緒に来てもらえないかしら?」

あ…なんだか一気に袋が重くなってきたなあ…

仕事場まで一緒に来て欲しいと言うバニーちゃんの後を、俺たち三人がついて行く。
…俺だけが重い買い物袋を両手に下げて。

668 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/11(木) 02:04:29 ID:rFp+6ggU0
第四話の前半部分を投下しました。
戦闘時以外のイサミは色んな意味でオトコノコです。

ちなみに、イサミのブルゾン(旅人の服)は売ってしまいましたが、
中にTシャツを着てます。全裸ではありません。
旅人の服→布の服って感じですね。

669 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/11(木) 07:54:49 ID:5jEci5k20
乙です

イサミスカウター吹いたwww

670 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/11(木) 13:06:30 ID:eusw/VKNO

ガムで機嫌を直すヘンリーカワイス

671 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/11(木) 21:04:22 ID:DAkYNxYrO
乙。もしやイナッツちゃんか?
俺の嫁ktkr

672 :兎の耳にアイラビュー【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:17:50 ID:5ytk/+MG0
「ただいま〜☆」
バニーちゃんの仕事場は町の一角の地下。

中にいたのは…爺さん一人?あれ?地下バーじゃなかったの?

「おかえり…おや?その人達はどなたかな?」
「町で見付けた旅の人なんだけど…どうかしら?」
「ふむ…」
爺さんが俺達の顔を交互に眺める。

「どうなの?おじいさん。」
「うむ、良くやったのイナッツや。合格じゃ。」
「きゃー☆ついに見付けたのネ☆」
「あの〜…さっぱり話が読めないんですけど…」

サトチーが不安そうに、キャーキャーはしゃぐ二人の間に割って入る。
ヘンリーは…話を聞いてない…てか、まだクチャクチャやってる。
ガムがよっぽど気に入ったんだな。

「おお、初対面の方に失礼じゃったな。スマンスマン自己紹介がまだじゃった。
 ワシの名はエントレ。『モンスター爺さん』と呼ばれておる。
 モンスターと人の共存をテーマに、ここで日々研究をしておる。」
「そして私はイナッツ。モンスター爺さんの助手よ。ヨロシクネ☆」
「はぁ、よろしく…」

モンスター爺さんがサトチーを見つめ、話を続ける。
「ワシ等は、研究の一環として『モンスター使い』の素質のある人間を探しておった。
 本来、人間にとって敵であるモンスターを手懐ける事のできる能力者じゃ。
 イナッツが町で素質のありそうな人をスカウトし、ワシが判定しておったんじゃが、
 やはりモンスターへの恐怖心や敵対心が強すぎる者ばかりでのう…
 どうしても、モンスターが味方になるとは信じられないと言う者ばかりじゃった。
 じゃが、お主の目は違う。お主はモンスターをただ敵としては見ておらん筈じゃ。」

673 :兎の耳にアイラビュー【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:19:31 ID:5ytk/+MG0
何か思案に耽る顔を見せていたサトチーが口を開く。
「…仰る通りです。僕は子供の頃にベビーパンサーと旅をしていました。
 理由あって、そのモンスターの子とは離れ離れになってしまいましたが…
 モンスターと人とが通じ合う事は可能だと思っています。」

静かだが、力強い答えにモンスター爺さんがうんうんと頷き返す。
「うむ、お主ならば旅の中で多くのモンスターを手懐ける事が可能じゃろうて。
 モンスターへの愛を持って戦えば、モンスターはその心に応えてくれよう。
 どうじゃろう?ワシの研究の手助けをしてくれる気はないかの?
 心配せんでも、お主等の旅が終わった時に旅の話が聞きたいだけじゃ。
 その話だけで充分に研究の助けになる。」

そのくらいなら…と、承諾するサトチー。



モンスターへの愛を持って戦う…かあ。

難しそうだな。

情熱的に『アイラビュー!』とか、叫びながら剣を振る?
それとも、控えめにラブレターを剣でモンスターに突き刺す?
組み伏せた相手の耳元でロマンチックに愛のポエムを囁きつつ絞め落とす?
遠くから激しいラブビーム(メラ)でモンスターの心臓(ハート)を狙い撃ち?

もしくはこうか?

674 :兎の耳にアイラビュー【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:21:07 ID:5ytk/+MG0

\愛のイオナズン! スライムさんに届け!!
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  ⊂二 ̄⌒\  ハァハァ          ノ)
     )\   ( ∧_∧         / \
   /__   )*´Д`)    _ / /^\)
  //// /       ⌒ ̄_/
 / / / // ̄\      | ̄ ̄
/ / / (/     \    \___
((/         (       _  )
            /  / ̄ ̄/ /
           /  /   / /
         / /   (  /
        / /     ) /
      / /      し′
    (  /
     ) /                          人
     し′                      Σ (∀・)<ビクッ!!



……違うよな。わかってる。

「ねえ…おじいさん…」
イナッツちゃんがモンスターじいさんにヒソヒソと耳打ちする。
何やら俺をチラチラ見てる。さては惚れられたか?

「うむ…その話は後でよい。…で、その箱は何じゃ?」
モンスター爺さんがイナッツちゃんの持っていた箱を指差す。

675 :兎の耳にアイラビュー【8】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:22:14 ID:5ytk/+MG0
「そうそう、さっき町外れで泣いてるモンスターの子を見付けてね、
 可哀想でココに連れて来ちゃったの。何かワケありの子じゃないかしら?」
「ふむ、話を聞いてみようかの。どれどれ?」

爺さんが箱の中を覗き込み、なにやらブツブツと話し掛ける。
箱の中からはギュイギュイと意味不明な声が聞こえる。
あの箱の中身はモンスターだったのか…持たなくて良かった。

「ふむふむ…なるほどのう。この子が大事にしていた武器を人間に奪われたそうじゃ。
 可哀想に…酷い人間がいるもんじゃ。」
「はぁ〜…とんでもねえ人間がいるもんだ。同じ人間として恥ずかしいや。
 ホラ、チビスケ。ガムやるから泣きや…め…??」

箱の中のモンスターにガムを差し出した俺の手がピタリと止まる。

箱の中で泣いていたのは、さっき戦闘でぶっ飛ばしたブラウニー。
やあ、久しぶりだね。

ん〜?て事は、こいつの武器を奪った酷い人間って俺?
こいつの武器って確か…

「あぁ〜…ゴメン。あのハンマー売っちゃった。テヘッ☆」

―!!!?!?!!!!―

「だからゴメン…痛!!暴れるなって、な?もう泣くな。ホラ、ガムやるから。」
カバンからガムを取り出そうとした俺の目に、とある物が映る。

676 :兎の耳にアイラビュー【9】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:22:51 ID:5ytk/+MG0
「…なあ、サトチー。魔法効果があるアイテムって、いくらくらい?」
「魔力がこもったアイテムは高いよ。消耗品の爆弾石で600Gくらいするし、
 破邪の剣とか炎の爪みたいな魔法武器になると5000G以上はするね。」
「小さな火が出せるアイテム…高く売れるかな?」

俺の手に握られていたのは『100円ライター』

コッチの世界ではさしずめ、
―メラの効果がある道具。何度か使うと壊れる。(コッチの世界では)非売品。―
…って所か。結構いい値段で売れるんじゃねえ?

「へえ〜、初めて見る物だけど、それなら相当高く買い取ってくれそうだ。
 …でも、売ってしまって良いのかい?珍しいアイテムじゃないの?」
「いや、俺の世界では安く買えるんだ。さあ、早く武器屋に行ってみようぜ。
 コイツのハンマーも買い戻さなきゃいけないしさ。」
大人しくガムを噛んでいるブラウニーを挟んで、顔に希望を浮かべるサトチーと俺。

「…なあ、その前に教会に行かないか?」
唐突に、さっきから黙っていたヘンリーが口を開く。
「え?どうしたヘンリー。毒でも喰らってた?だったら毒消し草が…」
「…いや…(クチャクチャ)このキャンディー呪われてるらしくてさ。
 いくら舐めても、いくら噛んでも全然なくならないんだ。(クチャクチャ)
 もうさ、顎が疲れて泣きそうだぜ…(クチャクチャ)」

いや、ソレはガm「呪いだって?大変だ。すぐに教会で解呪してもらわないと!」
説明する俺を無視して、血相を変えたサトチーが半泣きのヘンリーを教会へ引っ張る。

…コレが異文化交流の難しさってヤツかね?

677 :兎の耳にアイラビュー【10】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:23:33 ID:5ytk/+MG0
三人(+ブラウニー)が出て行き、静まり返った地下室。
三人を見送ったイナッツが、モンスター爺さんと向かい合っている。

「ねえ、おじいさん。さっきの男の人…」
「彼は良いモンスター使いになろうて…心配することはない。」
「ううん…違う。」

チラチラ揺れるランプの炎と、その炎によって揺らされる二人の影以外、
この場所で動く物はない。

「…魔王の魔力によって歪められた存在。それがモンスターじゃ。
 そして、魔王の魔力は生きている人間の魂を歪める事はない。」
「……うん。でも、あの人の魂はモンスターより…」
「…モンスターを超える魂の歪み…魔王の魔力によらない歪んだ存在…
 どちらも存在するはずはない…のじゃがのう…」

爺さんの座る椅子が、キィ…と小さな音を立てて軋む。

そして、再び無言の時間が流れ出した。




イサミ  LV 5
職業:異邦人
HP:41/41
MP:7/7
装備:E銅の剣 E布の服
持ち物:カバン(ガム・ライター他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成)

678 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:29:14 ID:5ytk/+MG0
第四話投下終了です。
イサミの妄想癖が凄い事になってる…orz

※仲間モンスター一号としてブラウニーが加わりました。


679 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:37:50 ID:5ytk/+MG0
470KBを超えたので、新スレを立てました。

もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目
ttp://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1192116918/

680 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/12(金) 03:05:22 ID:TzTj8vPI0
>>678
投下&スレ立て乙!
魔物のえさ代わりになったり、呪いアイテム扱いだったりガムすげえwww
大人しくガム噛んでるブラウニーカワイス。
さてさて100円ライターいくらになるかな

681 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/12(金) 22:20:24 ID:M7KxrfsgO
もう次スレがたったのか・・・
◆IFDQ/RcGKI氏のアリスちゃんとか
埋め用短編くるかなwktk

682 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/14(日) 23:17:39 ID:DTVvJAoB0
斬殺勇者マダー?

683 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/16(火) 08:39:19 ID:I0H0VcixO
保守

684 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/17(水) 19:04:42 ID:mU7lhTRe0
保守?
埋め?

685 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/17(水) 20:10:51 ID:wK/yMBxp0
新スレあるから埋めだろ

686 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/18(木) 00:50:02 ID:CvBUJuQE0
あともう少しでしなのさん編投下出来るので僕も埋めに協力しようと思いますw

687 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/18(木) 07:34:47 ID:6mImZhmvO


688 : ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/18(木) 10:34:11 ID:iUhOjIkY0
現在アリスちゃん執筆中。
なるべく間に合わせたいとは思いますが、
埋まっちゃったら新スレに投下します。

689 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/19(金) 10:41:58 ID:dhZo5XLU0
うめうめ

690 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:32:05 ID:ziCgFva70

    〜作り合わされし世界〜


     → 冒険をする
       → 1:しなの  Lv10
          2:ヨウイチ Lv7
          3:タロウ  Lv6

691 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:35:44 ID:ziCgFva70
○第十一話
   『気持ち』

ひんやりとした空気が少しずつ私達の体を包んでいく。
吐く息が白いのだから洞窟の中には寒い空気が蔓延しているはず。
実際アレフ達は時折体を擦り、体温を保とうとしていた。

しかし私自身は洞窟が寒いと思わなかったし、自分の肌に触れても熱いとは思わなかった。
通常の体温としては熱を持ちすぎているとアレン達は言うのだが、
呪いのせいで感覚が狂っているのかもしれない。
まぁ感覚も何も既に私には痛み以外はよく分からなくなってるようだったが。
そのうち思考するだけで頭が悲鳴を上げだすかもしれない。

三日間も気を失った上に、ようやく辿り着いた教会でベッドを使わせてもらった私。
けど少しも体調が良くなるという事はなく、むしろ体の不調は増していくばかりだった。
動かせば動かす程にボロボロと崩れ落ちていく砂の体。
すっかり弱ってしまった私にはそんな表現がぴったりだと思う。

しかし聖水によってその身を固めて形を保つ事ももはや出来ない。
その程度の応急処置では返って私の中の呪いが過剰反応を起こし、
返って辛さが増すだけだからだ。

呪いを解く為にはこの洞窟にある勇者の泉で清めてもらわなくてはいけないらしい。
しかしこんなにも呪われたパーティーはきっとここだけだろうな。
そんな私達を快く受け入れてくれた神父には感謝してもしきれない。
喋る事の出来ない今の私にそれをきちんと伝える事は出来なかったが。

私が話せないのとは別に旅の疲れも溜まってか沈黙が多くなっていた私達だが、
いつしか四人の息遣いだけがお互いのコミュニケーションになっていた。

692 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:38:13 ID:ziCgFva70
痛みはあるか?  何か見つけた。
水が飲みたい。   休憩しようか?

そんな風な会話を言葉を交わさずに成していく。
それが成り立つのは幾らかの時間を共にしてきたからだが、
そこにある種の安堵感を見出していたのは私だけではないと思う。
苦しい時に頼れるものがあるのは嬉しい事だ。

アレンとアレフとアレル。
私と同じように呪われた身でありながら魔を退け続ける強き者達。
私の心が砂漠のように枯れてしまわなかったのは彼らのおかげだと思う。
彼らと出会わなければこのような苦しい状況になる事はなかったのだろう。
でもその代わりに私はどこにも行けず、ただモンスターに食われていたに違いない。
そして何よりこの辛く楽しい旅を経験する事も出来なかったはずだ。
だから彼らには感謝している。

もしこの三人が兄弟なら、アレルが兄、アレンが次男、アレフが三男という感じだろうな。
問題は名前が似過ぎて覚えづらい事か。
あとはアレルもアレンやアレフと同じように勇者だったら完璧だったのになぁ。
呪いを解いた後に世界異変の原因を突き止めようとしている三人だ。
勇者だらけのパーティーなんて強そうだし、何でも解決できそうな気がする。
まぁアレルが勇者でなくても、それだけの力が彼にはあると思う。

世界異変の原因、それが分かれば私も元の世界に帰れるのだろうか。
けどそれを待つまでもなく、ある石版があれば元の世界に帰れるという噂もある。
正確には、石版を神殿に持っていく事で願いが叶うという事みたいだが。
もっとも石版や神殿がどんな物でどこにあるのか全く分からないし、
その噂自体が本当に信じていいものなのかも判断しかねる。
嘘を付く事を許されない教会で訪れる者皆がみんなその話をすると言うのが
噂の信憑性を高めているとアレンは言っていたような気がする。
そこに望みを託してみるかどうかは考慮しなくてはいけないな。

693 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:41:27 ID:ziCgFva70
しかしそういった問題に平行して私を悩ますもう一つの問題があった。
今肩を貸してくれているアレンの事だ。
彼は出会った時から私を良く思ってくれていたようだが、
昨日初めてしっかりと好きだと聞かされた。
それを問題だと認識しているのは、
彼に対しての自分の気持ちがどういうものか分からないからだと思う。

決して嫌いな訳ではない。
だからアレンの告白は、嬉しかった。
好き、なんだろうな。
でもどのように好きなのかが分からなかった。
だからアレンの告白にどう答えればいいのか分からなかった。
アレン……私は君を利用しているだけなのかもしれないんだよ……


  「よくぞここまで辿り着きました」

水の上に立つという事が奇跡であるならば、
私は今それを目の当たりにしている事になる。
洞窟の一番奥までたどり着くとそこには泉があり、
人とは思えない程に端正な造形をした女性がその上に浮かんでいた。
水面は微かに揺れ、波紋が絶えず綺麗な円模様を描いている。
その紋様を崩さないように浮かぶ女性は目を閉じたまま無表情に佇んでいる。
何とも不思議な雰囲気を醸し出しているその姿を見るだけで、
彼女が精霊であると信じてしまえた。

  「アンタがここの主って訳か。
   んじゃあさっさと呪いを清めてくれや」

疲れているとはいえ、アレフが何とも失礼な言葉使いで頼む。
例え相手が神様であったとしてもこの態度は変わらないんだろうな。
しかしようやく呪いから開放されるという希望はすぐには叶わなかった。

694 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:44:19 ID:ziCgFva70
  「あなた達が真に勇気ある者ならば、その証を今ここに示して下さい。
   さすればその呪いも解かしてみせましょう」

そう言うやいなや、精霊がその腕を横に軽く振る。
すると反論する暇も与えられない間にアレン達の前に靄のようなものが吹き出し、
そこからモンスターが出現して襲ってきた。

   「――!!」

さすがの反射神経で彼らはモンスターの攻撃を受け流し、三匹のモンスターと対峙した。

  「何なんだよっ!」
  「……ソードイド、サラマンダー、マントゴーアか」

骸骨に、龍に、ライオンの形をした怪物達。
六本の腕がある骸骨、ソードイドがかぶっている兜はアレルの不幸の兜と同じもので、
その中から骨むき出しの顔と不気味な目を輝かせている。
青いたてがみに緑の体をしたライオン、マントゴーアは羽を持っており、
振っている尻尾はアレンが装備している悪魔のしっぽと同じ形だった。
とすればアレフの呪いのベルトはあのサラマンダーに関係しているのだろうか。

  「呪いの具現化、か」
  「はっ、龍の皮で作ったベルトって訳だな」

アレルの言葉から推測した事実にアレフがニヤリと楽しそうに笑う。
つまり皆の呪いがモンスターの形をして襲って来たのだろう、という仮説。

  「倒して呪いに打ち勝てって言いてぇのかよ!」

怒りを込めて吠え、サラマンダーに向かって斬り付けるアレフ。
硬い印象の龍の鱗に見事傷をつける事に成功する。
同じようにしてアレンとアレルも電光石火の一撃をモンスター達に食らわせていた。

695 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/19(金) 14:46:35 ID:kHGSeP9/0
リアルタイム遭遇きたぁぁぁ。
支援でございます。


696 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:47:15 ID:ziCgFva70
  「弱い弱い!」

得意気に、そして勝利を確信したかのように言い張るアレフ。
しかし彼らが傷つけた箇所は蜃気楼のように霞んだ後、
幻から覚めた時のように元通りになっていた。
見ている限り回復呪文は使っていないはずだった。

多少驚愕しつつ再度攻撃を試みるが、敵の傷がまた勝手に癒えてしまう。
三人の巧みな剣術は多大な結果を伴ってはいるのだが、
何故かその結果自体が消え去って最終的には振り出しに戻ってしまっている。
いや向こうの攻撃はこちらに通るし、攻撃するにしても疲れが発生するのだから、
振り出しに戻るのは常にモンスター側の方だけで、
こちらは後退しているような反則的な状況だ。

威厳を見せ付けるように唸り、火を吐くサラマンダー。
その激しい炎をかわしながら再び攻撃に転じようとするアレフ。
しかし急に彼の動きが鈍り、避けきれなかった炎に足を焼かれてしまう。
そしてベホイミを唱えようとする前にサラマンダーはその牙でアレンに噛み付いた。

  「チッ!」

アレンと対峙するマントゴーアは威嚇するようにして口を大きく開け、
そこから巨大な火の塊、メラゾーマを唱えた。
その威力がいくら大きくても真っ直ぐ飛んでくるものを避けない理由はない。
アレンはメラゾーマを飛び越してマントゴーアにカウンターを狙う。

だがマントゴーアの顔に斬りかかろうとした瞬間、
背後からメラゾーマがアレンの体を直撃した。
確かに避けたはず、という思考はマントゴーアの二撃目の中に消えた。

  「そんな……」

697 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:49:58 ID:ziCgFva70
そしてアレルと対峙するのは六つの剣を怪しく動かしているソードイド。
六対一と数の上では負けているがアレルの方が逆に押している形だ。
しかし決め手の一発がどうやっても外れてしまい、
体勢を立て直そうとしたところを何度も斬りつけられてしまう。

不幸としか言いようがないアレルの運の無さ。
そう言えばアレルの呪いは不幸の兜によるものだった。
呪いの具現化と先ほどアレルが言っていたのが関係あるのだろうか。
考えようとしてもアレルの腕に剣が刺さるのを見れば頭が真っ白になる。

  「くっ……!」

血が流れ、傷跡を炎が焦がしていく。
衣服と人と土の焼ける臭いが鼻を突き刺した。
これでは勝てない……
そう思い始めた時、精霊は再び語りだした。

698 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:52:50 ID:ziCgFva70
○第十二話
   『勇者ってなぁに?』

  「あなた達の勇気、こんなものですか」

さも残念そうにして言葉を紡ぐ精霊。
アレン達がモンスターを倒せない事を本気で嘆いているように思えた。

  「僕達の勇気が、足りないと言いたいんですか……」
  「いいえ、この戦いであなた達に勇気などない、と証明されたのです。
   勇気とは何ぞや? それは絶望への糧でしかない。
   少なくともそういう答えしか用意出来ないのであれば、
   いくらその問いに理性で反論しようとも無意味です」
  「なら用意して突きつけてやるよ!!」
  「ベホマズン!!」

アレフがいきり立ち、アレルが両手を天に掲げて呪文を唱える。
すると私達の体を光が包み込み、その傷を完全に癒していった。
メラゾーマの火傷を、魔の牙にえぐられた咬創を、六本の剣による切創を。
その全てを完璧に復元した勇者達は魔物に三度戦いを挑む。

まずアレフがマホトーンでマントゴーアの呪文を封じ、
ラリホーでソードイドを眠らせる。
次いでアレンが会心の一撃でサラマンダーの首をはね、
ソードイドの腕を切り落とし、マントゴーアの翼を引き千切る。
最後にアレルがありったけの魔法力を込めたギガデインを放った。

動きの鈍いアレフは後方支援、
敵の呪文の心配が無くなったアレンが直接攻撃、
そして攻撃の当たらないアレルは呪文による全体攻撃という
時間にして十秒にも満たない素晴らしいコンビネーション攻撃。
見ていただけの私にも感じ取れるくらいに三人には手ごたえがあった。

699 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:57:07 ID:ziCgFva70
  「グググ……」

それなのに、モンスター達は無傷の姿で土煙の中から現れてきた。
あの凄まじい攻撃を受けてなお無傷。
心が折れる音が聞こえた気がした。

  「呪いのベルトは体を締め付ける鎖。
   悪魔のしっぽは無条件で呪文を受け入れる磔。
   不幸の兜は悪運を呼び込む器。
   それらを背負いし弱き勇者達よ、いや愚か者達よ。
   あなた達の心を私が食ろうてやろう」

発せられた言葉と共に精霊を包んでいた不思議な雰囲気の色が変わる。
彼女の雰囲気は神聖さを感じさせるものだと思っていたが、
今思えばそれは神聖さとは真逆な邪悪さだと気付いた。

彼女の顔が醜く崩れ、とうとう本性を現したというところだろうか。
女の本性は怖いというが、女の私でも怖く感じる程に精霊はおぞましかった。
いや、もう精霊と呼ぶより悪魔と呼ぶべきだろう。
ストレートだった髪が今や乱れに乱れ、眼つきは鋭く口からは牙が見え始めた。
水面が落ち着き無く波立っていた。

  「さてさて、ロトの血肉はどんな味がするのかのう」

舌なめずりをする悪魔の顔は紅潮し恍惚としていた。
このままではアレン達が……
しかし私は呪いで動く事も出来ない。
いや、それが出来たところで私に何が出来るというのか。
結局呪文も使えるようにはならなかったし、
勇者に勝てない怪物達に私が対抗出来るとは到底思えない。
呪いを解く希望の地であったこの場所で旅は終わりか。
そんな思いが私の頭をもたげた。

700 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 14:59:31 ID:ziCgFva70
その時、微かな金属音を耳が捉えた。
アレンに貰ったスライムのアクセサリーだ。
そのピアスに意識が及ぶと、教会でアレン達が見舞いに来てくれた事が思い出された。

素直になれと言ってくれたアレフ。
君の真っ直ぐさを全部真似する事は出来ない。
けど私の持っている問題を解決するには素直になるのが一番なんだろう。
切羽詰った今なら出来そうな気がする。
いや、あの時のようにまた後悔するよりは素直になった方がいいと教えてくれたんだな。

髪を切って私の気持ちを後押ししようとしてくれたアレル。
アレルと同じように強い精神を持つ事は私には出来ない。
けどアレルの話してくれた女性のように私は変われるだろうか。
いや、変わってみせようか。
無口なあなたは私の心を軽くし、変われると教えてくれた。

そして好きだと言ってくれたアレン。
君の隣はとても居心地が良いと私は感じている。
この何も分からない世界で私の居場所を作ってくれた君の優しさに
思わず甘えてしまうくらいに私は君に心を許しているみたいだ。
だから君には一番死んでもらいたくない。
だから私は勇気を出すよ。

私に出来るのは、私の気持ちを伝える事。
私の気持ちをアレン達に伝える事――

  「アレン! アレフ! アレル! 頑張れ! 負けるな!!」

声が、出た。

701 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 15:04:39 ID:ziCgFva70
そしてアレン達の体に小さな光が降り注ぐ。
私が唱えた回復呪文だ。
数字にすれば10も回復したかどうか分からない程の効果だろう。
アレルのベホマズンには到底及ばない。
だけど、しっかりと私の光は彼らに届いたんだ。

  「な、なにぃ?!」

うろたえる悪魔をよそにアレン達はしっかりと立ち上がる。
呪いが呪いを呼ぶなら、勇気は他人へと伝播する。
そして元々持ち合わせていた勇気と合わさりさらに大きな勇気を生む。
私の勇気と彼らの勇気が溢れ出す。

  「これは……」
  「よっしゃぁ! ナイスしなのっ!!」
  「行きますよっ!」

アレン達は剣を交差するように掲げ、同時に振り下ろす。
その切っ先から放たれた聖なる光がモンスター共々悪魔を飲み込んだ。
まばゆいけれど、暖かい光が呪いを打ち消していった。
悪魔の断末魔さえもその光が包み込んでしまった。
勇気ある者達の勝利だった。

  「勝った、のか……」
  「ざまーみろ! てめーら何かに負けるかっての!!」
  「やりましたね、しなのさん!」

あぁと言おうとした時、聖なる光が消えていきその中から何かが地面に落ちた。
拾い上げるとジグソーパズルのピースのようにいびつな形をした石の板。
これは……

702 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2007/10/19(金) 15:05:25 ID:kHGSeP9/0
再度支援ですぅ

703 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 15:07:58 ID:ziCgFva70
それが何なのかを調べようとした時、澄んだ綺麗な声と共にまたもや女性が現れた。

  「ふぅ……ようやく出れました……
   ……あぁ、そう構えないで下さい。
   私は本物の精霊です。
   迂闊にもあのモンスターに閉じ込められてしまったのです」

彼女はあの悪魔と同じように泉に立っていたが、以前のように水面に波紋は現れず、
泉はまるで鏡になったかのようにぴたりと動きを止めていた。

  「信じられないのなら、呪いを解いてみせましょうか?」
  「チッ! もう遅ぇんだよ……」

精霊は私達が自分の力で呪いを解いた事を分かった上でそんな事を言ったのだ。
先ほどの悪魔よりは好感が持てた。

  「ありがとうございます。
   人間にお礼を言うのは久方振りで少し恥ずかしいですが……」

こんな風に顔を赤められてはこちらが困ってしまうな。
可愛い精霊だ。

  「礼なんかいいから何かくれよ」
  「そうですね……では何か希望はありますか?」
  「……しなの」

え? わ、私か?

  「そうだな、今日のMVPはお前だ!」
  「僕もそれに賛成です」

ありがとう。それじゃあ――

704 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 15:11:06 ID:ziCgFva70
○第十三話
    『さよなら、ばいばい』

  「ではでは、乾杯!」
  「イエー!!」
  「乾杯」

乾杯!
その声をかき消すようにグラスを叩き合う。
晴れて呪いから開放された私達は、いの一番に飲み屋へと直行して祝杯を上げた。
アレフのテンションはいつもに増して高く、ビールを一気飲みしてしまった。
けれどアレンやアレフもまた嬉しそうにグビグビと酒を飲み干す。
久し振りの人間らしい食事と飲み物にありつけた事もそうだが、
やはり苦難を乗り越えた後というのは達成感でいっぱいになる。
それはグラス一杯では到底満たせるものではない。
だから今日はたくさんたくさん注いでやろう。
酒の席を共にしようという約束がようやく果たされた訳だしな。

  「いや〜それにしても楽勝だったな! 一発で消し飛んでやんの」

戦いに勝ったから言える台詞だとツッコミを入れる者はいない。
酒の力も手伝ってか、そんな冗談が心地良い程に私達の気分は高揚していた。

  「あそこで君が呪文を使うとは思わなかったよ」
  「そうそうそれそれ! よくやったぞしなの!
   やっぱ俺の指導が良かったんだな!」

まったくその通りだな、ありがとうアレフ。
と、おだてるように言うとアレフはうんうんと満足そうに頷いた。
ホントに面白いヤツだ。

705 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 15:14:27 ID:ziCgFva70
いやしかしアレルの呪文には到底適わないよ。
あれは凄かった……

  「そりゃそうだろー、何たって伝説の勇者ロトの称号を持つお方だぜ?
   ベホマズンにギガデインの二連発だなんて俺でも適わねぇよ」

え?! アレルが勇者?!
アレルに目をやるが、黙って酒を飲むだけで否定しなかった。

  「そうですよ、しなのさん知らなかったんですか?」

……誰もそんな事言ってくれなかったじゃないか。
そうやって拗ねてみせると三人に笑われてしまった。
しかしその割にはタメ口で話すんだな。
とても敬ってるようには見えないが。

  「まぁ同じ勇者としてそういうのはあんまり好きじゃないって分かってるからなぁ」
  「血の繋がった親子関係にあるのに、どういう訳か歳も離れていないようですしね」
  「私としては孫の孫が目の前にいるというのはとても不思議に思うよ」

そんな風にして目を細めるアレル。
伝説の勇者か、どうりで強い訳だ。
しかし勇者だらけのパーティーに私が入っていたなんてな。
場違いにも程があると今更ながら思ってしまった。

  「しかしなぁ、もうしなのとはお別れか」

時が経ち、馬鹿騒ぎも落ち着いたところでそんな話になった。
あの悪魔が落としていった石版は、例の噂の石版のようだった。
この石版を神殿に持って行きさえすれば願いが叶うという。
その神殿がある場所は精霊さんに教えてもらった。
それはつまり私は私の世界に帰る事にした、という事だ。

706 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/10/19(金) 15:17:32 ID:ziCgFva70
  「けどその噂、本当なのか?」

ん……まぁその真偽を確かめる為にも神殿に行ってみたいと思う。
そう遠くはないしな。

  「そっかそっか、んじゃあ明日キメラの翼を山ほど買ってやるよ。
   それがあればまた会えるだろ」
  「キメラの翼で世界を行き来できる訳ないでしょう」
  「そうなのか? じゃあしなのがルーラを覚えてだな」

もう二度と訪れない四人の夜が更けていった。



宿屋への帰り道。
アレフとアレルは疲れたと言って先に帰ってしまった。
だから今はアレンと二人きりだ。
彼の手を取ってみる。

  「……しなのさん、酔ったんですか?」

うぅん、私はそうそう酔わないよ。

  「でも顔が赤いですよ」

そうか、それは誰かに見られたらマズいな。
隠さないと。
そんな事を言ってアレンに身を寄せた。

  「そうやって心の中も隠しちゃうんですか?」

それはきっと返事を聞きたいって事なんだろうな。

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