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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら五泊目

610 :591 ◆MAMKVhJKyg :2006/03/01(水) 22:20:52 ID:ZQyItkOQ0
少し書いたので更新

>>603-605 つづきから

会社に戻らなければならない。という観念はこのときすでに消え失せていた。
どうやらここは日本ではいようだ。
街をうろついてみたが、モンゴロイドは一人としていなかった。皆、目鼻立ちのくっきりした外人ばかりなのである。
夢ではない。私の体重を支える両手に触れる石畳。その質感は、あまりにもリアルに冷たかった。
ドッキリでもない。だって、私はまる一日半食べていなくて、道端にひっくりかえっても誰も助けには来てくれなかったのだ。

真夜中の街に人気は無い。相変わらず中世じみていて、私のさまよう限り、どこまでも古風な建物が続いていた。
私は道路の代わりに敷き詰められた石畳の上で横になっていた。
『飢え』ってこんなかんじだったのか。体中が熱くなったような感覚を覚えたかと思うと、唐突に虚脱感がやってくる。
何も考えたくなくなってきた。私の頭の中をさまざまな食べ物がよぎる。何より水、水が欲しい…。

水といえば…。私は気力を振り絞り体を起こす。
昨日、例の宿泊施設の窓から、湖を見たのを思い出した。
もうなんでもいい、水が飲みたい…。私はフラフラと立ちあがり湖へ向かう事にした。
方向感覚は危うかったが、こっちだとカンで思った方向へ進むと、城門らしきものが見えてきた。
さらにその向こうに森、そして木々の合間を縫うようにして、あの湖がかすかに見えた。


喉を潤す水は、かすかに草の匂いがした。
生き返った。こんなに水が美味いと思ったのは初めてだ。
あれから湖に辿り付いた私は、思う存分水を飲んだ。
ひと心地つくと、そのままボーッとして湖を眺めていた。
ここはどこなんだろう。とか、はやく帰らなきゃ。とかそういったマトモな考えは不思議な事に思い浮かばなかった。
ただ、静かな夜にひたっていた。
もう会社へ行かなくてもいいような気がした。空腹は困るけれど、胃に穴があくようなストレス社会にいるよりは、
こうして自然の中でアホみたく呆けている方が幸せのような気がした。

611 :591 ◆MAMKVhJKyg :2006/03/01(水) 22:22:10 ID:ZQyItkOQ0

ガサリ、と背後から音がして、唐突に沈黙が破られた。
反射的に振り向くと、信じがたい生き物がいた。
そいつと目が遭う。私は金縛りにあったように動けなくなった。
鬼というものが本当に存在するなら、こういう姿をしていただろう。
暗闇でもあざやかに映える真っ赤な皮膚をしている。血を浴びたように鮮烈だった。
下半身は人間ではなく獣のもので、つま先は頑健な馬のヒヅメで出来ていた。
顔は…見るからにアブない。二つの角を持った凶悪な面貌が、私を見てニタリと笑う。開いた口の隙間からびっしりと鋭い牙が見えた。
なにこの生き物、ヤバすぎる。やっぱりドッキリ?
なんで私の事を見て『これはうまそうな人間だ』と舌なめずりしているのよ。いくらなんでもやりすぎ…、
ここで私の思考は中断された。
鬼が私に向かって飛びかかってきたからだ。
おぞましい顔が迫る。

気が付くと私の左腕には数本の深い裂傷が出来ていた。…と、傷が見えなくなる。夥しい血が溢れかえり、傷を見えなくしたのだ。
「……!!」
声が出ない。人間は、あまりの痛み、あまりの恐怖に出くわすと、言葉を失うらしい。
悪夢のようだった。

そのとき、目の前を風のような速さで何かがよぎった。
私と鬼の間に出現したのは、炎のようなたてがみを持つ巨大な豹だった。
二抱えはありそうな太い喉から低い唸り声を発し、四肢を力強く地に付けている。
ああ、もう助からない。ただでさえ化け物に襲われているのに、新手がやってくるなんて。
失血からか、涙からか目がかすみはじめた。意識も朦朧としてくる。
だが、気絶する刹那に、見た気がするのだ。
この場にそぐわないリボンをつけた小さい頭、そして青いマントを翻す小柄な人物を。

 つづく

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