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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら四泊目
- 252 : ◆4Ga38uI4wg :2005/10/31(月) 13:48:42 ID:1uMbFn9L
- 急がなければ。刻々と日は傾き朱色を増していく。
途中足を止め、剣を背負った鞘に収めた。片手で持ち歩くにはかなり重かったからだ。
これがなかなか…サッと剣を後ろ手に回すまではいいが、鞘の穴に差し込むのがどうも上手くいかない。
なんでこんな器用な真似をこの世界の奴らはやってのけるのだろうと、小走りになりながらも考える。
風が背中の切り傷にチクチク染みる。
船着場に着いたら腰に下げる型の鞘を買おう……。
そう考えた矢先、前方からのガサリと草を揺らす音に私はあわてて剣を抜いた。
ブルドックだ。相当でかい上に、二本の足で立っている。
犬はこちらをヒタと見つめたまま動かない。そしてその視線に捉えられたまま、私も動けない。
出た。どうする?どうするよ??剣の柄に汗が溜まり、何度も持ち変えた。
両膝が凍りついたように動かない。
やばい、やばい、怖い。なぜ、私は一人で外に出た?
犬が足を上げるのが見えた。来る!
私はとっさに犬より先に飛び出した。考え無しに突っ込みながら気づく。剣ってどう使うんだ?!
力まかせに両手で左から右に大きく振った。
重い!切っ先は見当違いに回転し、体が後ろに引っ張られた。
よろけ尻をついた私の一歩先で、犬は何をするでも無く笑っている。
くそ!!
左足をバネにして飛び上がった。その勢いで今度は下から上へ切り上げる。
刃が犬の顎を裂く。血がパッと弾かれる様に飛び散った。
同時に剣が勢い余り手からすっぽぬける。
すかさず犬が私の脇腹に食らいついた。
「離せえぅdうぁあfdfあ!!!!」
無我夢中で犬の頭を何度も殴りつけたが、強く食い込んだ牙は離れようとしない。
それどころか、ますます噛み締める力は増していく。腹がグチャリと嫌な音を立てた。
やばい。確実に脇腹をまるごと持っていかれる。
っていうか 食わ れ る ・・
- 253 : ◆4Ga38uI4wg :2005/10/31(月) 13:51:14 ID:1uMbFn9L
- 「メラ!!!!!!」
咄嗟に手の平を犬の鼻に押し付け叫んだ。
犬が飛びのいた。必死に地面に草に顔を擦りつけ消火を始める。
できたのか?ほんとに?手探りで背後にあるであろう剣を探った。
指先が刃に触れる。手を怪我するとか生ぬるい事考えている余裕は無い。
刃をつかんで剣を引き寄せた時、消火に必死だった犬が一瞬顔を上げた。…あっ!
事態に気付いたのは相手とほぼ同じ瞬間だった。
メラは発動してなんかいなかったのだ。
ビビッた犬が勝手に火がついたと思い込んだだけ。
犬の顔に怒りの色が現れた。恥から来ているのだろう。あまり頭は良くなさそうだ。
こちらに突っ込んで来る。やばい、立ち上がろうと左腕をついたが、膝が立たない。
「メラミ!!!!!」
犬が飛びのいた。必死に全身を地面にこすり付ける。
もちろん火などついている筈もない。
私は唖然とした。馬鹿だ。こいつ、本当の馬鹿だ。
やがて火がついていない事に気づいた馬鹿犬は、さらに怒りの炎をたぎらせた。私は続けた。
こうなりゃハッタリしか手は無い!
「メラゾーマ!!!!!!!!!!!!!」
馬鹿犬の体が硬直し、そのまま背中から地面に倒れた。そして、動かない。
何だ?どうした?私は剣を杖がわりに、立ち上がった。
馬鹿犬の体が光に包まれ、丸い小さなキラキラする物に形を変えた。
何が起きたのか私にはしばらくわからなかった。
金貨だ。犬は金貨に姿を変えた。
手に取り「G」というアルファベットが刻まれているのを確認して、ようやく、
「勝った……?」
安堵のあまり膝が崩れた。次いで、上体が地面に落ちる。
痛みは感じなかった。ただ体が熱い。額を油汗が流れていく。
あおむきになり、視線を落としてぎょっとした。
薄緑だった服の前面が赤く染まり、腹部には牙の形そのままに大小の穴が並んでいる。
穴のさらに奥の物が目に入りそうになり、あわてて顔をそらした。
傷口は見たくない。見たら、もうそれだけで逝ってしまえそうだ。
- 254 : ◆4Ga38uI4wg :2005/10/31(月) 13:52:41 ID:1uMbFn9L
- 手探りでポケットから草を取り出す。修道院を出るときに譲りうけた薬草だ。
口に押し込むと血の味がした。必死に顎を動かし噛み砕いて飲み込んだ。ツンとした匂いに涙がでる。
そっと腹部に手を伸ばす。手にはベッタリと血がついたが、傷口が消えていた。
薬草スゴス。
フラつく頭を抑えて身を起こした。
転がり落ちているゴールドを拾い、ポケットに押し込む。
ハッタリは馬鹿相手にはザキにもなるのか…。
納得のいかない勝利だが、勝ちは勝ち。
でも、もし相手が馬鹿じゃなかったら私は間違いなく夕食になっていただろう。
背筋が凍った。こんなんじゃ命がいくつあっても足りない。
それでも勝利の興奮は冷めやらなかった。
血のついたまま剣を鞘に押し込め、胸がドキドキする。
死の狭間で快感を感じてしまうのは……きっとヤバイ事に違いない。
頭を振って剣を背負う。
残る道は走った。全力疾走だった。
船着場の宿に付く頃には日はとっぷりと暮れていたが、幸いこれ以上魔物に遭遇する事は無かった。
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