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もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ :05/03/15 05:33:29 ID:NA3D0HzS
どーするよ?

500 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 03:51:15 ID:Bggy5lXA
天空の兜がソフィアの頭にふわりと納まる。
これ、さっき俺が装備しようとしたらとんでもなく重いんでやんの。
首が折れるかと思った。
俺たちがわいわいと生命の危機に陥っている中、ライアンが戻ってきた。
城にいた詩人が、天空の盾はバトランドにあるとの噂を聞いたらしい。そして、ライアン自身にも朧げながらも記憶にあるようだ。
バトランドはライアンの故郷である。
これは良い感じじゃね?という訳で俺たちは再び船に乗り込んだ。

船での生活も長くなったものである。
というか、最近は時間的に殆どを船で生活していると言っても良いのでは無いか。
荷物を背負って歩かなくても良いのは楽なのだが、やる事も多くなっている。
今回は少し箇条書きにしてみた。

・マーニャと修行
・ブライの様々な事物、魔法に関する講義
・ライアンの剣術指導
・クリフト&ミネアの魔法講座
・アリーナの遊び相手

最後が一番死ねる。
これらは基本的にマンツーマンで行われる事は無い。マーニャとのそれ位か?
ブライの講義やライアンの指導にはソフィアやアリーナが同席する事も多いし、クリフトやミネアも顔を出す。
アリーナの遊び相手になる時も大抵ソフィアが一緒である。
突然やってきたアリーナが、襟首掴んで俺を連行していくんでこう書いたが。俺に限らず彼女の被害に遭う者は少なくない。
で、まあ炊事洗濯やら雑事やらも多い。
……俺、頑張ってるなあ……。
とは言え、彼女ら導かれし者たちはその道のエキスパートばかりだし、この環境って地味に凄いんだろうな。
これらは俺の都合がメインではなく、基本的に彼女たちの暇を見て行われている。ま、当然ですが一応。

501 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 03:52:09 ID:Bggy5lXA


「なるほど。その突きは良いですな」

ある日の剣術指導風景。
俺の所作を見てライアンが頷いた。

「教えたのはミネア殿で?お見事です。初めて剣を振るう時は、どうしても腰が引けてしまうもの。
届かない斬りや払いは余計な隙を生みますからな。動作も少なく済みますから、体力の消耗も抑えられます。
しかし……突きは死太刀でもあります。どうしたものか……」

うーむ、と唸るライアン。
俺は、どういう事かを訊ねてみた。

「突きは確かに、届かない斬りや払いよりはマシですが、避けられた時の隙は多大なのです。
一撃必殺、二の太刀は無い。故に、死太刀、などとも言われる訳ですが――。
これからの事を考えたときに、その突きを伸ばすか、それともより実践的・総合的な剣術を学ぶか、その方向性をどうするか」

いずれにしても総合的な技術を学ぶ事にはなるのだが、その上でどちらに重点を置くかという話らしい。
より攻撃的になるならば、突きを伸ばした方が良いし、
防御的な性格を考慮するなら斬りや払いに、より手を出していった方が良いとライアンは言う。
少し考え込む。
何かを守るという事。それには、攻撃的な力が必要なのだろうか?

「今慌てて決める事もありますまい。ゆっくり考えてからで良いですぞ」

502 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 03:54:58 ID:Bggy5lXA
俺はその言葉に甘えてすぐに結論を出す事を避けた。
この選択は少し慎重にすべきだと思ったからだ。
戦うという事に対する覚悟はあっても、明確に殺しに行くかどうかはまた話が別だ。
出会い頭に襲われ、抵抗した結果殺してしまったというのが俺の限界で。
自衛の為に力をつけるのと、自衛の為に相手を殺す力をつけるのとでは、少し違う気がする。
殺す事をソフィア達に任せてしまって、俺は自分の身を守る技術を覚えれば良いのか。
恐らく皆はそれで良い、と言ってくれるだろうが…。
何かを奪う力ではなく、何かを守るための力。
俺の世界では、こういう物語がよく好まれたなと思い出す。確かに、それは理想的な力の行使だ。
だが実際に選ばないとならなくなった今、考えてみればその理想は様々なものを棚に上げ、他人に押し付けているのだと思い知る。
それは正しい事だろうか。いや、正しい訳が無い。ただ、卑怯なだけだ。
と、言っても、俺自身に明確な、何かを殺さなければならないと言う意識が余り無いのも確かなのだ。
何故、戦うのか。
襲われるから、撃退する。自衛の技術だけで済む話では無いか。わざわざ相手を殺す技術を得る必要はあるのか。
自衛の為に――仕方がなく、結果的に殺してしまう。俺の覚悟は、そこで止まっている。



スタンシアラから東へ。短くない距離を船で走破する。
目的の大陸に上陸した俺たちは、バトランドの王宮まではもう少し距離があった為、途中にあったイムルの村へと立ち寄った。
なんでも、この村を中心に起きた子供が消える事件をライアンが解決したらしく、
戦士はちょっとした英雄になっているらしい。

「小さな村ですからな」

戦士が照れたように頬を掻く。
道行く人々に声をかけられ、それに一々律儀に応対し変わりは無いかなどを訊ねていった。

「ええ、それが事件という程の事では無いのですが――。
今は、宿屋に泊まるとおかしな夢を見ると言う話で持ちきりですよ」

503 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 03:59:18 ID:Bggy5lXA
おかしな夢、か。
ま、いずれにしても宿屋はそこ一軒だろうし、今から夜通し歩くってのもだるいし。
泊まらざるを得ないんだろうが――淫夢とかだったらどうしようハァハァ。

問題の宿屋にて、男女でそれぞれ部屋を取った後、再び集合し食事とちょっとした会議が開かれる。
とはいえ、差し迫った議題があるわけでも無いし方針も決まっているので、なんのかんのとだべるだけではあるが。
ライアンが宿屋の主人やその家族との会話を終えてこちらに戻って来た所で、クリフトが彼の事件について訊ねた。
今回の話題はライアンが語り手となる。

「それで、その事件はいつ起きたんですか?」

「そうですな…数年…前ですかなあ。宿屋の息子も大きくなったものです」

一応、この世界にも年という概念はあるようである。
しかし、そうなると…。

「じゃあ、それからずっと勇者ちゃんを探してたの?」

「まあ、そうなりますか」

問いかけるマーニャに、ライアンは事も無げに言い放った。
簡単そうに言うが、居るかどうかも解らない、居たとしても何処にいるのかも解らない、勇者を探す旅を長い間続けるというのはどういう心境なのだろう。

「大変ではありましたが、楽しいことも多くありました。
私はそれまでバトランドを出た事もなく、また出る事も無くゆったりとした時間の中で老い、朽ちて行くのだと半ば達観しておりました。
それが表にも出ていたのか、同僚にはのろまのライアン、などと揶揄される事もあったくらいで…」

戦士がカイゼル髭を撫でながら面映そうに笑う。
今のこの男が元昼行灯とか無気力症候群だったとか言われてもとても信じられんのだが…。

504 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:01:21 ID:Bggy5lXA
「城を出て、見聞を広める内に自分がどれだけ狭い世界に居たのかを思い知らされました。
これというのも、勇者殿の存在と、私の勝手な願いを聞き届けてくれた王のお陰…そこで、勇者殿。お願いがあるのですが…。
王に、貴女を勇者として紹介しても宜しいか?」

ソフィアはすぐには返答できなかった。
それでも、小さく頷きはしたが――今日の所はそれで解散となり、各々部屋へと戻っていく。
俺とソフィアだけが残った。――少女に、服の裾を掴まれていたからだ。
俺は少女がその意思を顕にしてくれるまでじっと待つ。
――そういえば、ここの所ずっとソフィアはどっかよそよそしかったっけ。
結局俺にはどういう事か解らず、時間が解決してくれるだろうと考えて、結果的には普通に接するくらいには修復されていたのだが。

『ライアンさんは…私にとても気を遣ってくれてる。重荷をただ背負わせる事のないよう、いつも配慮してくれてる』

頷く。そして、続きを促した。

『…勇者って、何?私は、別に勇者だから戦っているんじゃない。だけど、皆は私を勇者だと言う。
この天空の兜も、それを証明していると言う。
パノンさんはスタンシアラの王様に、私が世界を救い人々が心から笑える日を取り戻してくれるでしょうって言ったけど…。
もしかしたら結果的にそうなるかもしれない。だけど、私はそれを第一に考えている訳じゃない。
それでも――私は、勇者なのかな?』

少女は多弁だった。
いや、それまでずっと内に抱えていたものを少しだけ吐き出したと言った方が正しいか。
――これも、全てでは無い筈だ。

505 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:06:34 ID:Bggy5lXA
勇者の解釈。

この世界の人間は、俺が見た限り勇者とは人間を救ってくれるものだと無条件で信じている節がある。
俺の世界での勇者が、時に冗談のような使い方、アホな人間を揶揄する時にすら使われる事もあるのと比べると対照的だ。
人々は、ソフィアを勇者と呼ぶ。その中に悪意は無いだろう。しかし、好意しか無いというのも問題なのだが。
勇者だから人々に期待される。だがそれ以上に――ソフィアにとっては。
勇者だから、村を滅ぼされた。その度合いの方が強いのではないだろうか。
何故、ソフィアは勇者なのだろう?――誰が、決めた?
…此処で俺は既に一つの仮説を立てている。
ソフィアに勇者という過酷な運命を背負わせたのは、神、では無いか、と。

「もう少しで…その答えも出るような気がする」

その時、君は――もし俺の仮説が正しかったなら、一体どうするのだろう。

506 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:12:58 ID:Bggy5lXA




その夜、夢を見た。
人とは思えぬ陶器のような美しさを湛えた少女。
彼女は、すらりと高い塔に住んでいて、
そこに入るには笛を奏でなければならない。
太古の仕掛けが用いられた塔を訪れる銀髪の男。
男女は互いの名を呼び合う。
人間を滅ぼそうとする魔族の王と。
それを諫める麗しい娘。
ピサロと、
ロザリー。
魔王は、娘の言を聞き入れずにまた去(い)ってしまう。
少女は祈る。
誰か――ピサロ様を、止めてください。
届いて欲しい。この、想い――。





翌日、俺たちは皆が同じ夢を見た事を確認したが、夢の内容については積極的に検討しなかった。
ピサロの恋人のような娘。彼女の願いは、ピサロを止めてくれる者が現れる事。
だが――止める、とはなんだ。
つまり、ピサロを殺せと言っているのか――そうではあるまいな。
そしてそうでない以上、例えただの夢では無かったとしても、一行の中心であるソフィアが納得する筈が無い。
故に、不思議な夢の話はこの時それ以上膨らむ事は無かった。

507 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:14:25 ID:Bggy5lXA



バトランドで、勇者と呼ばれる少女は王との謁見をはたした。
ライアンの良き理解者であり、質実剛健を地で行くかのような王は、戦士が見事目的を達成した事を喜び、
一同を歓待してくれた。

まあ、肝心の天空の盾は無かった訳だが。
何でも昔、隣国のガーデンブルクの女王にあげてしまったらしい。
あげるってなんだ。献上?それとも贈呈?あー、いや、女王に、か。
ガーデンブルクという国の性質も考えるとこれはちょっと色々事情があるのかもしれない。

夜には小さな宴が開かれた。
ライアンが目的を達成したお祝いと、更に続く旅への壮行会のようなものも兼ねている。
そして、主賓にもう一人。勇者その人である。
事件を解決し、自国の村を救った英雄の帰還と、噂に名高い勇者の存命且つ、来訪は明るいニュースだったのだろう。
大々的にしないのは、配慮であるとも取れるし、相応のレベルかなとも思う。
今迄の城でこんな待遇を受けた事は無いし。サントハイムが正常な状態なら、違っただろうが…。
まあ、勇者と言っても山師的なのもいるだろうし、やはりライアンの存在なんだろうな。

俺たちはそれぞれ、正装をさせられた。タキシードだか燕尾服だかそういうの。
襟元が苦しい…しかし、トルネコのサイズもちゃんとあるんだから、王宮ってのは準備の良いものだなあ。
女たちはそれぞれにドレスを着ていた。
マーニャは相変わらず露出のでかい上にきらきらとした派手な衣装だし、ミネアはそれとは対照的に落ち着いた色の、控え目な装いだ。
ま、どっちも似合っているのだが。
アリーナは髪を結い上げて、スカートの大きなまさにプリンセスと言った感じのドレスを着ている。
彼女自身は動き難いと嫌がったそうだが、ブライの泣きが入ったらしい。
ソフィアの方は青緑を基調としたドレスが髪とマッチして可愛らしかった。
頭にはティアラではなく天空の兜をそのままつけていたが、あれは兜って感じでも無い為それほど違和感は無い。
とりあえず、うちの女性陣は美人揃いで非常に見目麗しいのだが、男どもはダメだなあと思った。(主に俺とトルネコとブライ)

508 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:16:45 ID:Bggy5lXA

アリーナとクリフトが危なげないダンスを披露している。
こう見ると、やっぱりお姫様だよなあ。クリフトの作法も実に堂に入ったものだ。
ライアンがソフィアを伴い、フロアの中央に進む。
…ソフィアは確か、田舎者の筈だが…大丈夫だろうか…。
俺の心配通りに、少女のステップは滅茶苦茶で、少し場の空気が変わる。
だが、それを無難にまとめ見事なリードをしてみせたのが王宮戦士であった。
鎧姿を見慣れてしまった俺たちにしてみれば、彼の正装はちょっとおかしかったのだが、こういう場に立ってみると馴染んでいるなと思わせられる。

「へー。中々やるじゃない。だけど、まだまだねー。私のレベルについてこれるいい男はいないみたい」

マーニャさんが酷評なさる。
…誰にも聴こえてないだろうな?何で俺がびくびくしないとダメなんだろう。

「…ふん。宮廷のきの字も知らない小娘が…宮廷ダンスの奥深さも知らぬと見える…」

ヒイ!?
なんでこう、マーニャとブライは衝突するんだ!?
二人は俺を挟んで火花を散らしている。何で俺は挟まれてるんだろう。今度からはもっと立ち位置をチェックしないと…。

「あーら。お爺ちゃんが私のステップについてこれるかしら?」

「やめておけやめておけ。おぬしの足がもつれてすっ転ぶだけじゃ」

「……私が足をもつれさせるですって?上等じゃない……年寄りだからって容赦しないわよ!?」

睨み合う二人はそのままずんずんとフロアに降り立ち踊り始める。
その、竜虎相打つと言った――主に表情に出ている鬼気迫る雰囲気に、周りからもどよめきが起こる。
パフォーマーがするようなその大袈裟な表情が怖いと言うか、面白いと言うか。笑いが我慢できないというか。

俺とミネアとトルネコは壁の花だ。
ミネアの方は、何度か誘われているようだが全て断っていた。

509 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:27:05 ID:Bggy5lXA
「私は、こういうのはちょっと…」

苦手らしい。ま、それっぽいっすね。
俺とトルネコにはそういう浮いた噂は無い。
ああ、この恰幅の良い親父の隣という位置。実に落ち着く。もしかしたら、此処こそが、俺の真のポジションなんじゃないか?

「何ぼーっとしてるの?踊ろー!」

突然にゅっとアリーナが顔を出してきた。
驚いてのけぞる俺。TU−KA庶民の俺が踊れる訳ねーだろーが。アホか。っかー、これだから王族とか貴族ってやつぁー困るぜぇ。
俺のやさぐれをアリーナは全く気にせず、フロアの中央へとずるずる引き摺っていく。
クリフトが姫君を止められないのを謝るかのように両手を合わせているのが見えた。

「大丈夫よ。皆最初から踊れる訳ないんだから。基本ステップだけ覚えて、後は曲に合わせて動けばそれでいいの。
別に難しい技とかしてかっこつける必要なんて無いし」

そうは言っても。
人前で下手を晒して恥をかきたくないし、周りの視線が気になるのは最早病気の域だ。
――笑われている気がする。これだけでもう、身体が動かない。

「此処にいる人達は別に貴方の粗を探して喜ぶ為に来てる訳じゃないでしょー?
中には性根の腐ったのもいるかもしれないけど、そういうのは極少数!基本的に皆味方だから!
それに相手が典型的な貴族の娘とかならアレかもしれないけど私なら別に足踏んでも大丈夫よ」

アリーナらしい強引な理屈だなと半ば感嘆しながら、結局流される意志薄弱な俺。
基本ステップ…を覚えるのですら大分手間取った。それから先は、主にアリーナがくるくる回るのに合わせて、身体の位置をずらすといった程度である。
それでも踊っているように見えるんだろうか?よくわかんね。それより、この身体の密着具合が鬱で死にたくなる。

「ね?大丈夫でしょ?ダンスはね、踊っている人が楽しいと感じる事が一番大事なのよ」

510 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:28:51 ID:Bggy5lXA
満面の笑みを浮かべて少女がそう言った。
彼女も元気になったものである。やはり、父の残した言葉というのが偉大だったのだろう。
ようやく解放され、アリーナ姫も気が済んだのかなと思いきや、今度はトルネコにレクチャーするようである。
全くもって元気の塊のようだ。
俺が再び壁際に戻ると、ミネアに声をかけられた。

「見てましたよ。お上手じゃないですか」

彼女の世辞に素直に礼を言う。

「折角ですし、ソフィアさんを誘ってみたらどうですか?」

お前な。
何が折角なんだと。
その折角の遣い方は絶対におかしい。コンバット越前の『せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ』並におかしい。
あのな。折角だからってのは割といい加減な表現なんだよ。
ソフィアを誘うって。女の子をダンスに誘うってのはそんないい加減にできるもんじゃねーだろ。
どこぞのホストでも池面でもない俺になんでそんなハードルの高い要求してくれてるのか小一時間問い詰めたい。

「……何だか凄い必死ですね……ですが、アリーナさんと踊ってソフィアさんとは踊れないんですか?」

は……あ、そうか。これは所謂、社交辞令……礼儀的な一面って事か?
あーなんかそんなのありそうね。貴族社会の通例なんてしらんけど、誰か一人をやたらちやほやするのってジョンブルっぽくない。
別にアリーナをちやほやした覚えも無いんだが…引き摺られただけだし…うーむ。
なんかやだな。何かの罰ゲームで隣にいる女の子グループをナンパする位に嫌だ。
けどまあ、相手がソフィアなだけ気が楽かもしれないが。

「うだうだしてないで行け!」

マーニャにぼかんと尻を蹴っ飛ばされる。
なんか汗だくではーはー荒い息を吐いてるぞ…ブライは倒れてるし。魂出てないだろうな?
どうやらかなり白熱した好勝負だったらしい。種類の違うダンスとは言え、踊り子と渡り合えるのだからこれはブライを褒めるべきだろう。

511 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:31:43 ID:Bggy5lXA
ソフィアはライアンと踊り終えた後は、フロアを見ているだけで誰とも踊っていないようだった。
誘われはするものの、丁重に断っている。
断ってくれると逆に、恥をかかずに済むかもしれない…あれ?断られるのはいいの?まあ、ある意味当然の結果だと思えるし…。
ネガティブな思考で逃げ道を作りつつ、ソフィアに手を差し伸べる。
少女は少し驚いた顔をした。

あああああああああああああああああああああああああああああ死にたい。いや、死のう。

驚かれるってどうしたらいいかわかんないけど微妙だよね!!
腰が砕けにそうになる俺。そんな俺を哀れんでくれたのか、少女はそっと小さな手を添えた。

手袋をしていても、解る。少女の手はその容姿や年齢に似合わず、酷く荒れていた。

毎日行われる鍛錬により豆ができ、潰れ、治りきらぬ上から鍛錬を重ねる毎日の証。
少女と同じ手をしている女性は、この場では恐らくアリーナだけであろう。
今度は少女がしまったという顔をして、手を引っ込めようとした。
それを咄嗟に掴み止める。
これは、哀れみでは無い。少女の荒れた手が嫌だなんて、俺は思っていないのだから。
では少女が俺に手を添えたのは哀れみだったのだろうか?
俺はそんな事はどうでも良いと思った。そんなのは、どちらでも良い事だ。

512 :イムル〜バトランド  ◆gYINaOL2aE :2005/05/07(土) 04:36:46 ID:Bggy5lXA

つたない足取りでステップを踏む。
勇者と、その従者のような者のダンスは、とても見れたものでは無かった。
だが、二人は楽しそうであり、それをハラハラと見守る周囲の人々にもまた、暖かい笑顔が浮かんでいた。



HP:78/78
MP:36/36

Eはじゃの剣 Eみかわしの服 Eパンツ

戦闘:物理障壁,攻勢力向上
通常:

513 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 08:23:17 ID:8Jurkoi7
>>497
タミさんキターーーーーww

>>◆gYINaOL2aE氏
これからもがんがって下さい

514 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 09:04:41 ID:2xnU1zy6
>>497
ターミネータープギャワロスwwww

515 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 11:09:13 ID:dGe8kNi1
http://k.pic.to/r1vc

516 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 19:01:05 ID:gzKEIz52
>>書記の人
まとめサイトの現行スレのとこ
×宿 ○宿屋
なので、修正よろ。

517 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 19:39:35 ID:mTpZVmNx
>>◆gYINaOL2aE氏
設定をただ使うだけじゃなくて綺麗に活用してみせてる辺り凄いなあと思う。
キャラクターが実にいいなぁ。トルネコの隣は落ち着くだろうなぁw
次はリアル「その歳で童貞なんて(ry」の国だ(多分)!頑張れ主人公!w

518 :497の続き :2005/05/07(土) 20:33:35 ID:mF9/Wcwq
目前の裸のジョークに
他の客はおろか、対峙していた戦士もたまらず声を上げて笑った。
張り詰めた空気から一変、店内を爆笑の渦が支配する。
だが当の全裸男は意に介さずといった様子で、
目の前の戦を直視したまま、戦士の返答を待っていた。

「力ずくで奪ってみな。」

それが戦士の返答だった。
すると彼の仲間とおぼしきターバンを巻いた男が、
持っていたひのきの棒を全裸男の後ろから背中めがけて振り下ろす。
その衝撃にバキリと折れるひのきの棒。
だが殴られた全裸男は微動だにせず、ゆらりと振り返り男を一瞥する。
そして次の瞬間、折れ残った柄を持ったターバン男の右手を素早く掴むと、
あっという間にテーブルに組み伏せ、表情ひとつ変えずにその腕をへし折った!

「ギャアアアアアーーー!!!!」

ターバン男の悲鳴で店内の雰囲気が一転する。
店の客から笑顔が消える。
その内の数人がエモノを携え全裸男を取り囲み、そして一斉に飛びかかった!

軽やかなフットワークで全裸男の目前に踊り出る武道家。
だが全裸男はその拳をやすやすと受け止め、強烈なボディを見舞った。
その一撃で活力を失った武道家は力なくその場に崩れる。
他の者も同様だった、成す術なく返り討ちにされ、
彼を取り囲んだ5人の猛者はあっけなく床に転がった。

519 :497の続き :2005/05/07(土) 20:34:39 ID:mF9/Wcwq
全裸男が先程の戦士に歩み寄る。
派手な立ち回りにも関わらず汗ひとつかいた様子は無い。
その表情は依然、無表情のままである。
既に余裕を失った鎧姿の戦士。
だが次の瞬間、彼は懐から一振りのブロンズナイフを取り出すと、
全裸男の脇腹に突き立てた!

「見たかこの変態野郎がぁ!!」

そんな戦士の突然の暴挙にも動じず、全裸男は己の身体に刺さったナイフをちらりと見るや、
すぐに視線を戻し相手の胸倉を掴むと、身長2mはあろうかという巨漢の戦士を片手で高々と持ち上げた!

戦士「うおっ・・・!?離せ!!離しやがれ!!」
全裸「離してほしいのか?」

そう言うと全裸男はロクに相手の返答も待たずに
宙に浮いたまま足をバタつかせる戦士の巨漢を、その鬼人の如き豪腕で放り投げた!!
まるで人形のように宙を舞った戦士の身体は店のテーブルを2つ飛び越え
緩やかな弧を描いた後、壁に激突した!
背中をしたたかに打ちつけ、うめき声を上げて床にうずくまっている戦士を
全裸男がその傍らに仁王立ちで見下ろす。
すると戦士はすぐにたちあがり、なんとなかまになりたそうにこちらを見ている!!
なかまにしますか?

全裸「・・・いいえ。」
戦士「お・・・オレが悪かった!!・・・な?許してくれよ!」

必死の形相で許しを乞う戦士。
だが彼はまだ全裸男の要求に応えてはいない。
おびえる彼の顔と彼の身に付けている鎧とを交互に見つめる全裸。
ようやく全裸男の本心を察した戦士が、身に付けていた鎧を全裸に託す。

520 :497の続き :2005/05/07(土) 20:35:50 ID:mF9/Wcwq
全裸男「ありがとう。」

無表情のままそれを受け取り、礼を述べる全裸男。
今まで戦士が身に付けていた革の鎧は、まるで測ったかのように全裸男のぶ厚い胸板に収まった。
目的を果たした元全裸男がくるりと振り返り店の入り口へと歩き出す。
だが店を出て間も無く、納得のいかない一人の男が彼を呼び止めた。

覆面「このクソ野郎!!店をメチャクチャにしやがって!!」

どうやら店の関係者らしい。
顔面を角の生えたマスクで覆い、下半身はビキニパンツ一丁といういでたちで
手に持った棍棒を今にも振り下ろさんとしている。相当興奮しているようだ。
詫びすら入れずに無言で近付く元全裸。
だが先程の全裸男の立ち回りを目の当たりにした覆面は、元全裸と相対し完全に腰が引けている。
しかも今度は鎧付きだ。もう全裸じゃない。とてもじゃないが覆面に勝ち目はないだろう。
そして元全裸は覆面の目前に立つと、目にもとまらぬ速さで覆面から棍棒を取り上げた!
唯一の武器を一瞬にして奪われた覆面は一気に戦意喪失し、その場にへたりこむ。
覆面の顔にゆっくりと手を伸ばす元全裸。おびえる覆面。

覆面「駄目だ・・・殺される!!」

だが元全裸は覆面の被っているマスクの角を掴み、そのままゆっくりと引き上げ自らそれを被った。
覆面から取り上げたマスクを自ら被り第二の覆面となった元全裸。
こうして革の鎧のみならず棍棒、さらには角マスクまで手に入れた二代目覆面は新たな世界へと旅立った・・・

T-1000 
しょくぎょう ふくめん おとこ

E こんぼう
E かわのよろい
E ふくめん
ブロンズナイフ

521 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 20:49:53 ID:k5SKnPJZ
和露誰

522 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 20:58:52 ID:Tx9q5fhG
>・・・いいえ。
バギワロ

523 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/07(土) 21:11:05 ID:jPJrbDYc
DQターミネーター、マジワラタ
一発ネタだと思ってたけど続くのか、楽しみ
>>◆gYINaOL2aE氏
あいかわらずおもしろいです
次は女の花園か…楽しみにしてます

524 :冒険の書庫の書記 ◆nUtX8ZK/82 :2005/05/08(日) 00:31:11 ID:YJZw/u3X
ここまでセーブしました
http://www.geocities.jp/if_dq/

525 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/08(日) 07:12:37 ID:vgkhzBjw
てか刺さったままじゃんW

526 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/08(日) 09:34:35 ID:8w0e3Z75
 

527 : :2005/05/08(日) 10:19:02 ID:la7SEAN1
俺がたてたスレでここまで勢いがあるのは初めてだ

528 :497 :2005/05/08(日) 14:38:58 ID:tAmCQ02W
T-1000・・・×
T-800・・・○

勘違いスマソ


529 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 00:43:42 ID:bZ6+lrAM
T-1000だとジェリーマンになってしまうな

530 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 00:53:04 ID:KCxLfGkL
俺は今、












              *ろうやのなかにいる*















531 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 00:53:38 ID:KCxLfGkL
ああ…。石壁が冷たいのよぉ…。
なんかもう俺の人生設計は完全に瓦解したな…。
常に限りなく白に近いグレーを歩み、決して犯罪はしないで細々と欲求を満たしつつ、
平々凡々とした一生を送りたかったのに…。
獄に繋がれるっていよいよもうダメじゃん…。気持ち的にダメになる…。
ソフィアちゃんが隣に寝てた時以上に悪い状況やよね…。

そもそも、何で箪笥を開けたら怒られるんだ。
ずっとそうしてきた!それでも何も言われなかった!!
下着を被って遊んでいたんだ何が悪い!!

……。
悪い事だね。



バトランドから更に東へ進む途中、巨大な岩が道を塞いでいた。
だが、サントハイムの宝物庫にあったマグマの杖をブライが設置すると、岩はたちまちどろどろに溶けてしまった。
武器や鎧には特殊な力を持つものがあるという。俺の持っている破邪の剣もそうらしい。詳しくは後の講義でブライが教えてくれる事となった。
ガーデンブルクは女性の国。
と、言っても女しか居ないという訳でもないようだ。ま、当たり前と言えば当たり前だが。
ジェンダーとかあんまり好きくないし、俺は女に対して極端な被害妄想が発症するものだから最初は気が乗らなかったのだが、
女性陣がこぞってピンクのレオタードを購入し、装備し始めた当たりから色んな所のテンションが妙に上がってしまった。
それが失態である。
此処までの旅の道中で、ソフィア達が結構好き勝手に壷を割ったりしていたのを見ていた俺は、調子に乗ってしまいある部屋の箪笥を開けてしまった。
そして、つい、下着を発見してしまったのだ。
考えてみると此処は異世界である。現実の法など適用される事も無いのではないかと今更ながらに思ったから。
網タイツを履いて準備完了。

532 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 00:57:14 ID:KCxLfGkL
クロス・アウッ!!!(脱衣!!)

                    ,_,..,ィヽ,、       |
                   /;;::r‐〜-ミ、     |   ウ ェ ル カ ム
                 4~/へi::::::;/,ヘミ7     |  W E L C O M E !
                 '-l|<>|:::::|<フ1|i'    ノ  ( よ う こ そ )
                    l! '" |::::l、~`リ    へ
              /`ー、  ハー;";::i:::ヾイl! ,r'~`ヽ、 \
           ,.ィ" ri l i ト、 1:|`丶:;;;:イ' ill!7、 、 y;  ヽ、_` ー―――――
      ,. -‐''" 、 くゝソノリ~i | - 、 , -‐'7ハ ヾニト-    ~` ー- 、_
   , ィ ´      ,ゝ、_ `r'   l |  、レ // `テ三..ノく _ `       ヽ、
  /       , -' ,、  `、_)   l,i,  i //  (/  ...,,;;;;:` 、        ヽ
 ;'       '" ノ ;;;;::::      i !  : //    .....:::::;;イ、_、_\ _    _ノ
 l ..,, __,ィ"-‐´ ̄`i::::: ゙゙゙= ...,,,,,. l | ,//  - = ""::;; :/       ` '''' '"
            ヾ :;;;,,     ,i l,//     ,,..," /         _,,.....,_
   ,. -- .,_        \ :;,.   ;'  V ;!   `;  /;: ノ      ,.ィ'"XXXXヽ
  /XXX;iXXミ;:-,、     ヾ  '" ''' /./!  ヾ   /    ,. - '"XXXXXXXX;i!
 ,!XXXXi!XXXXX;`iー;,、  i   、. / ;:::゙i   ;: , |  ,. r'"XXXXXXi!XXXXXX:l!
 |XXXXX;|XXXXX;|::::::::|`ヽ、    ,! ,': : :|    ,.レ"::::|XXXXXXX|XXXXXXX;l!
 !XXXXX;|XXXXX:|:::::::::i  `   ;! : :  i!  / !:::::::::|XXXXXXX|!XXXXXXX|
 XXXXXx|XXXXX;!:::::::::::!   `. /::    | '"   l:::::::::::|XXXXXXX|XXXXXXX |
 XXXXXx!XXXXxリ:::::::::::!    |::     |    i:::::::::::ゞXXXXXツ1XXXXXXX|
 XXXXX/ \XXソ::::::::::/     i!::    ノ     i!::::::::::::ゞXX:/  lXXXXXXX|
 XXXX:/   `ヾ::;;;;;:ツ      ヾ;::: ; ノ      ヾ:;;:::::::ゝ'"     ヾXXXXX |

533 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 00:58:13 ID:KCxLfGkL
…もう、語るのすら辛くなってきた…。
今、思えばどうして脱いだのか全く持って自分でも解らない…いくらソフィア達より先行していたとは言え…俺が俺じゃないような…俺って誰だ…。
テンションが上がるのって怖いな…これが俺のスーパーハイテンション?それとも更に高みがあるのか。
そのままの姿で連行された俺は周りから大分冷たい眼で見られたが、何故か興奮してる自分が居たりして余計に涅槃に赴きたくなる。
女王の前まで引き立てられた俺達に、主な罪状はロザリオの強奪だと言い渡される。(下着は別に盗もうとした訳では無い、というのが認められた。何故?)
無くなったらしいロザリオについて、こっちは知らんから濡れ衣である。
その旨を訴えると女王は、信用するから犯人を捕まえて見せろとか言い出した。
これだからヒステリックな女は嫌いなんですよー。
濡れ衣だと言うなら自分達の無罪を証明してみせろってその理屈なんかおかしくねー?その前に証拠がねーだろう証拠が!
そんな真っ当な反論も、この姿では形を成す訳が無い。変態って辛いね…。というか俺自身が証拠になりかねんよな…。



現在の俺は、人質というわけである。全員で捕まえに行ったら、そのまま逃げちゃうしね。
人質を選択する時に、微妙な牽制の仕合があったのだが、俺に決まった時のトルネコの顔が忘れられない。

諦観から意外、そして歓喜へと変わる一連の変化…。

俺の悲しい慟哭が地下に響く。
なんだか虚しくなってきたので、この機会に本でも読む事にしよう。
十分な灯りがあるとは言えないが仕方があるまい。
ソフィア達が冤罪を晴らしてくれるまでの我慢だ。
この本は、例のエドガン秘密研究所にあったものを拝借した手記のようなものである。
とりあえず、最も気になっていた『進化の秘法』について、何か解らないかとぱらぱらめくっていく。
あったあった…。



534 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 01:03:32 ID:KCxLfGkL

『進化の秘法が及ぼす変質についての考察。

勿論、ここでは具体的な内容などは言及しない。
あれは封印すべき邪悪なる法であるからだ。
見つけてしまった私の責任において破棄するとして、此処では、何故進化の秘法が邪悪なそれかという簡単なメモを残しておく。
いずれまとめて後の世の警鐘としたい…が、それすらも残さない方が良いのかもしれない。
そういった存在があるという事を知ってしまえば、好奇心を強くもつ人と言う種族にとって不幸な知識になってしまうかもしれないからだ。
結局私自身の手で燃やす事になり、徒労となるかもしれないが、それはそれで良いだろう。
だがこの手記が存在している間は、記しておかなければならない事がある。
この法は、唯、単純に力が手に入ると言った類のものでは無いという事を。

進化の秘法の使用に際し、起こる現象として最も注目されるのが肉体的変質である。
見た目にも解りやすく、外部への影響も大きい。
これは別の項でまとめるとして、此処では私が最も懸念する現象を記述したい。

それは、精神的変質である。

肉体的な変質は進化の秘法の進行具合や資質にも依るのだが、元に戻れるケースがある。
だが、精神的変質が元に戻る事は――奇跡などが起こらぬ限りありえ無い。
まず、欲、そして強い感情などが増幅される。
肥大化した欲を満たす為、肉体の変質が始まるが、元の身体を維持する事は当然ながらできない。
優先順位が変わるのだ。…こんなものに手を出すとするなら、その程度の事は覚悟の上で望むものかもしれないが…。
力は強くなり、炎や吹雪を操る化け物となる。だが、それでも欲は決して満たされない。
満たされた時こそ、進化の終るときだからだ。
延々と無間地獄のように続く進化の中で、止められない欲を満たす為あらゆる倫理観が崩壊し、己の法でのみ活動するようになる事が、
この進化の秘法の邪悪さの根源と言えるだろう。

錬金術において進化とは――』

535 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 01:04:31 ID:KCxLfGkL

あれ?ここで切れてる…うーん、まあ、なんだろう。
あんまり解ったことってないな。
それも仕方が無いか。エドガン自身の為のメモのようだし、バリバリ解るものが残っていたらそれはそれで問題だろうしな。
進化の秘法の困るところっていうのが、倫理観の崩壊であるって事なんだろうけど…。
欲、欲か。
食欲、性欲、睡眠欲…。それ以外にも、何かしらの欲というものを人…いや、意思、意識あるものは持っている。
同時に大なり小なり我慢して生きていく。そうしなければ、社会は成り立たないだろう。
…進化の秘法を使うと、その欲が我慢できない位に増幅されてしまう。『手段』による『目的』の変質…。
『目的』に達するための『手段』なのに、永遠に『目的』が達成される事が無くなる『手段』でもある…。
それは殆どの目的にとって、相応しい手段足りえない。
肉体的な力も強くなってるから、周りにとっては傍迷惑な事この上なくなってしまう、と。

「何を読んでるんですか?」

っぷぉあ!?
耳元に響いた声に、俺は驚いて跳ね上がる。
疚しい事は何も無いのだが、寝床の下に本を隠す。まるでエロ本を隠すかのように。
声の主はミネアだった。な、なんでこんなとこに居るんだ。確かガーデンブルク南の洞窟に盗賊を追いかけてるんじゃ…。

「ええ、少し思うところがありまして。人質になる事にしました。
普通に兵士の方に鍵を開けてもらって、入ってきたんですけど…何か集中して読んでいたようですね」

全く気付かなかった。
っつか、ミネアが人質やるなら俺はいなくても良いんじゃ…。

「そうでしょうけど、まあ良いじゃないですか」

536 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 01:05:24 ID:KCxLfGkL
…良いのか?いや、どうなんだろう…。
ちらりと羽織った外套の裾から太ももが覗く。
あ、あぁーーっ!?ミネアもレオタードじゃん!?
£ヽレ)£ヽレ)£ヽレ)£ヽレ)!!!!!!!!!!ギャル文字使っちゃう位無理だよ!!
――こんな狭くて薄暗い所で、レオタード着た美人と二人きり――。
俺は慌てて煩悩を退散させる為の呪文を唱え始める。

(落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…俺に勇気を与えてくれる。
2…3…5…7…11…13…17…19…)

「それにしても、私たちも長い付き合いになりましたね。
あのエンドールで出会ったのは、もうどの位昔になるでしょう」

少し不自然な話の振り方に少々戸惑いながらも、
俺もまたあの頃へと思いを馳せる。

そう――どの位になるのだろう。
一年?二年か?それ以上かもしれない。

「貴方は――少し、逞しくなりましたね」

そうだろうか?――そうかもしれない。
腕も足も大分太くなってしまっているし、肌も少し日焼けしている。
大地を歩き続けることで体力もついた。元々、体格はそこそこだったのでそれなりに見れるかもしれない。

顔以外は('A`)

「以前の貴方は、とても弱々しかったけれど。
そういえば、出会う前の貴方は何をしていたんですっけ」

537 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 01:07:38 ID:KCxLfGkL
……。
それは、その。まあ、旅とか。旅人だった訳で。

「ええ、そう仰られてましたね。
あの細腕で、この物騒な時に一人旅を」

……。

「私…。貴方を責めているのではありません。
ですが、少々納得できないのも事実なんです。疑念という程のものではありませんが、すっきりしたい。
覚えてますか?サントハイム城で、バルザックによって貴方が斃された時…」

ああ、と小さく頷いた。
頷きながらも、どうしたものかと頭を回転させていたが、妙案は浮かばない。

「擬似蘇生(ザオラル)という呪文は、体組織の再生の後、意志――魂とは少し違うのですがそれに近い――を引き戻す必要があります。
完全蘇生(ザオリク)との違いはそこにあるのですが…あちらはより、洗練された知識と現界力が必要になり、高度なんです。
…意志を引き戻すという行為の途中、術者は対象の精神に直接触れます。それで――まあ、その……色々と、視えるんです」

なんで顔を赤らめてるんだろう?
……おま、バカ、何視たんだ!?

「いいんです!何も視てません!いえ、視えたんですけどそういうのは見て無いんです!!
ですから、私が言いたいのは――貴方には、背景が何も視えなかったんです。勿論、全て視えしまうなどと言う事は無いのですが…。
貴方はまるで、ソフィアさんと出会った瞬間に、産まれたかのように……ソフィアさんや私たちと居る時が全てのようで……。
いえ、それも事実ではありません。…視えた事を信じ、伝えてきた私がこんな言い難い事は初めてです。
私自身が、信じ難い――あまりに荒唐無稽な。
笑わないでください。貴方に、私は――まるで、異世界を視たんです」

――――。
……そう、か。あの時の、あの視線は……そういう意味の……。

538 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 01:09:15 ID:KCxLfGkL
「貴方にとってはきっと荒唐無稽なんかじゃない、真実なのだと思います。
だけどあまりに突飛だから――誰にも話さなかったとしても、不思議ではない。
……今迄一緒に旅をしてきて、今更貴方を疑う事などありません。
ですから、貴方から聞きたいのです」

……それを聞いて、どうするんだ。

「どうもしません。望まれないのであれば他の人に話しもしません。
だけど、私は視てしまったから――。視てみぬ振りをしたくなかった。
…私では貴方と同じ世界を共有することは出来ないかもしれない。それでも、少しは耐性があるつもりです。
ずっと、お独りで居らしたのではないですか?心の内では」

ああ、そう、かも、しれ、ない。
ずっと、ずぅっと独りぼっちだったのだろうか。
思い出を共有する相手も、常識を共有する相手もいない。
知識を共有できる相手もいないし、目的を共有する相手もいなかった。

遥かな異世界で唯ひたすら日々の忙しさに眼を向けて、まるで現実を見なかった。
幸いなことに言葉は通じた。食うに困るという事も余り無かった。出会いが良かったと言えるだろう。
それを良い事に――考えてこなかった。考えずに済まさなければ、足が止まってしまいそうだったから。
ふとした瞬間に脳裏を掠める度に、それっぽい理屈をつけて隅へ、奥へと押し込めて。
それを――他人に指摘されただけで、こうも簡単に揺らいでしまうものなのか。

「私は、貴方の力になりたい。
貴方は、私達を助けてくれたから」

だが――それでも。やはり、遥かに遠いのだ。この地で眼が覚めたあの瞬間は。

「……大丈夫だよ、ミネアさん」

かりかりと鼻の頭を掻きながら、そう答えた。
俺は彼女から少し視線を外す。

539 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 01:10:48 ID:KCxLfGkL
「俺は…確かに、見た事も聞いた事も無い世界に突然放り出されてしまったけど…。
だけどやっぱり独りじゃなかった。ソフィアが居てくれたし、すぐにあんた達にも出会えた。
それに、今はほら、竜の神さまとやらに会えれば何とかなるかもって気もしてるし。
……けど、もし戻れないって言われた時は……」

その時は、また、泣いてしまうかもしれないとそう思う。
だから、続く彼女の言葉は、俺にとって本当にありがたく、最も聞きたい言葉だったかもしれない。

「……そうですか。解りました。その時は、思い詰めずどうかお話してください。
――ええ、これでいよいよ私達は空の城へと赴かなければなりませんね。
導かれし者達だけではなく、貴方も一緒に」

細い指を折り畳み、くっと拳を握る。
そうして、ふんわりとした笑みをこちらに向けるのだった。
その慈愛に満ちた表情を見ていると、鼻の奥がつんとしてくるのを感じて、俺は必死に堪えた。

540 :ガーデンブルグ  ◆gYINaOL2aE :2005/05/09(月) 01:13:18 ID:KCxLfGkL
数日して、ソフィアたちが戻って来る前に一足速く、彼女達が無事、盗賊を捕えたと言う報告が入った。
それまでは牢屋で治療呪文について集中講義を受けていたのだが、掌を返したかのように賓客として遇される事となり戸惑う。
玉座の前で再会した俺たちは、お互いの無事を喜び合った。
その時に気付いたのだが、俺は牢屋に居る間ソフィア達が戻って来ないのでは無いかとまるで考えなかった。
ミネアが居たのも理由の一つなのだろうが――。バカだな、と自嘲する。だが、それは悪い気分では無い。

女王からは天空の盾がソフィアへと授けられる。
トルネコがしきりに感心しているのを見る限り、良い武具なのだろう。
これで、二つ目。天空の名を冠する武具が揃った事になる。

そして、女王は最後にこう告げた。

「此処から南、ロザリーヒルにはかつて魔族が住んでいたそうです。
何か解るかもしれません。行ってみると良いでしょう」



HP:78/78
MP:36/36

Eはじゃの剣 Eみかわしの服 Eパンツ

戦闘:物理障壁,攻勢力向上
通常:


541 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 02:34:10 ID:EpAtc7//
乙!
やっぱりミネアたんはいいな(;´Д`)ハァハァ
しかし最初のギャグから転じてのシリアス
繋ぎ方がとてもうまいとおもう
すごいよ、尊敬しちゃう

542 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 02:35:05 ID:uyd+374o
>>540キャラをバランスよく出すところが良いね〜






543 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 03:05:00 ID:XcdjL/7V
をををを…感動した!!
こんなに物語に引きずり込まれる事あまりないからホント凄い…!!
しかし言い回しが上手いなぁ…

ああ、でも、次はロザリーヒルか…ピサロナイト…(ボソ)

怖いけど、楽しみだ…!!

544 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 16:29:30 ID:EUsjjtAv
おもろいよ
うん

545 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 18:26:57 ID:GDzyI1Kl
トルネコとのコンビもいい味出してるな

546 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 19:24:47 ID:F2uPv5jV
ネタ交じりな言動にある意味親近感を感じてしまう駄目俺w
ほんと、ドラクエでありながらオリジナルである事に心から尊敬する。
それぞれのキャラとの関わりもあって、なんか嬉しいよなぁ………。なんか。
初めの頃に比べてちょっとはかっこよくなったよな、主人公。頑張れ!

ギャル語読めねぇw

547 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 19:24:49 ID:aSJvT8O6
俺は>>530を見た瞬間に「あ、今回はトルネコの目線なんだなw」って思ったら違ってたw
普通はあの場面だとトルネコが牢屋逝きだからてっきりw

牢屋での会話はかなり(・∀・)イイ!!すね

548 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/09(月) 23:15:12 ID:jSEYnrYF
>>547
俺は予想通りだった。

549 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/10(火) 00:32:59 ID:L9VXMpYE
ギャル文字解読サイトまで行ってしまったよ(w
£ヽレ)£ヽレ)£ヽレ)£ヽレ) → むりむりむりむり

550 :冒険の書庫の書記 ◆nUtX8ZK/82 :2005/05/10(火) 00:41:42 ID:zufUL+xb
ここまでセーブしました 
http://www.geocities.jp/if_dq/ 
>>516さん、ありがとです。

551 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/10(火) 19:18:24 ID:wUB1uo82
あげ

552 :海鳴りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:39:55 ID:tGLVNMiz
「――お主の思考はどうも凝り固まっておる所がある。発想を転換させてみる事じゃ。
剣が炎を出す訳が無い。そうではなく、炎を出す、出せる剣がある。それは何故かと考えていく事が大事なのじゃよ。
そうでなくば、新たな発見はなくなってしまうからのぅ――ほれ、聞いておるか!?」

「ブライせんせ〜い。アリーナが寝てま〜す」

「人の事はよろしい!それに姫には最初から期待しておらん」

教育係りが匙を投げてる!?あんまりな物言いだが、彼女は講義中常に眠っているのだからそれも仕方が無いか。
俺がいなければ、無理矢理にでも起こすんだろうが…。
アリーナが寝る度に起こしてたんじゃまるで進まないから、妥協してるんだろう。

「もう少し詳しく説明したいのじゃが、やはり良い教材が手元に無いのが痛いのぅ。
破邪の剣や炎の爪などと言ったものは、少々勝手が違うからの――」

卓の上に置かれた破邪の剣をしげしげと見た後、ブライは小さく溜め息をついた。
特殊な効果のある武具を中心とした講義であったのだが、良い範例が無いようで難航している――。

どすん、と何かにぶつかる音がした気がした。
…まさか座礁したんじゃないだろうな?
俺は一度ブライと示し合わせて様子を見に行く事にする。
アリーナは全く起きる気配を見せないので放置だ。

甲板に上がるとマーニャを除く全員が既に集まっていた。
あいつもどうせ寝てるんだろう。
早速、何かあったのかとクリフトに訊ねてみる。

「それが…どうも、この先に洞窟があるようなんですよ。
小船でしか入れなさそうなのですが…」

「…この先には魔物の気配がします。
ですが、奥に何か…大切なものがあるようです」

553 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:42:55 ID:tGLVNMiz
なるほど。ミネアの占いか。
こうなってくると、やはり探索するしかないのだろうな。
流石に慣れてくるよね!

「アリーナ姫はもう、お休みで?なら、私が前衛を務めましょう」

「講義が途中ですからな。中で続けますぞ」

ライアンとブライがそれぞれ志願した。
…ん?中で講義するって、俺に向けてっすかね?俺も確定っすか?
当然ながらソフィアも赴くとして、後一人はクリフトかミネアと言った所だろうか。

「では、私が。ミネアさんとトルネコさんは、船をお願いします」

こうして、海側から入る比較的珍しい洞窟への探索が始まった。
慎重に小船を進ませる。櫂を操るのは俺とライアンだ。
前方に大きな――あれは、扉か?――が、見えてきた。
こういう場所にあるという事は、水門か何かなのかもしれないが。

クリフトが迷い無く、最後の鍵と呼ばれるガーデンブルグの女王から譲り受けた鍵を取り出す。
身を乗り出して鍵穴に差し込み、回すと、ずずず、という重い水音と共に扉が左右にスライドする。
…今、スライドしたぞ!?なんだ…此処は、人工的な洞窟なのか。
いやまあ、扉がある時点でそうかもしれないが、妙に凝った仕掛けだ…まあ、こういうのに遭遇するのも、少ない事ではないんだが…。

俺とライアンは再び、慎重に櫂を動かす。
小さな上陸地点に、降り階段を見つけたが、一応先に他の地点も探ってみる事にする。
何かお宝があるかもしれないしね。ああ、トルネコさんがいればそれもさくっと解るのに。

554 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:43:24 ID:tGLVNMiz
「――さて、今日の予定は座標融解現象についてじゃったな。
これを説明する前にこの空間について、学者たちの認識を説明しておかねばなりますまい。
この、我々の目の前にある空間。これには、極小の単位で『座標』と呼ばれる数値で表す事ができるという説があるのじゃ。
例えば、こう、手を翳す。この手が存在する空間――座標には、今、ワシの手が存在し、他には何も存在していない。
厳密には手の構成要素じゃがな」

――おいおい、爺さん、敵が出ないからってマジで講釈垂れ始めたぞ。
音が響いて寄ってきたらどうするんだよぅ。
俺は軽く慌ててクリフトに眼で助けを求めた。

(たーすけてーポッパーイ)

(何ですかポパイって。まあ…ブライ様も久しぶりに張り合いがあって嬉しいのでしょう。
どうかお付き合いしてあげてください)

あっさりと見放された。
老い先短い老人には優しくしても良いんだけどよー…それにしても、ちんぷんかんぷん過ぎるんだよ!
しかも脈絡がねえ!って、あー。そうか、これについては俺が訊いたんだっけ。
言葉自体はどっかで見たんだが、意味が解らなかったんだ。

「さて、手と手とこう合わせてみる。力を入れても、二つの手が重なる事は無いじゃろう?
これはつまり、一つの座標に別々のものが同時に存在する事は無いという一つの法則じゃ。強い力が込められれば手の方が先に壊れてしまう。
じゃが――時に、この法則は歪んでな」

ブライはいよいよ乗ってきたのか俺の方を放置して語り始めている。
座標。そういえば、MMOなんかでは自分の位置をXとYで表す機能がついていた気がする。
…とはいえ、あれは二次元――3Dのゲームでも大抵は空間を認識せずキャラの立っている位置を記録するのが精一杯だった筈だ。
ゲームじゃない、この広い世界で縦と横だけじゃなく高さまで細かく数値が振り分けられているという概念が理解できない。
ただ単に数字が小さいか大きいか、という問題でも無いと思うのだが…どうなのだろう。
いや、実際に数値が振られてる訳じゃないのか。学者たちの、考え方の一つという事かもしれない。

555 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:44:03 ID:tGLVNMiz
そんな事を考えながら相槌を打つ俺を見て、ブライはそこはかとなく満足そうに頷く。
なんだかんだ言って俺は真面目に考えてしまうから、それが気に入られてるのかもしれない。

「本来存在し得ないもの――全くの、同質の存在――そして、時にその強力な属性ゆえに――。
理由は様々あるものの、現実にはほぼ存在し得ぬレアケース。決して存在してはならぬ筈の同一存在」

ぴくっとソフィアの肩が震えた気がした。

「aという物と全く同じaが存在するとする。その二つが同座標に存在しようとしたらどうなるか。
まるで融け合ってしまうかのように、何の抵抗も無く重なってしまう。
aという物体の形を今まで三角形だと世界は認識しておったのに、急に角が4つできてしまう。それも、何の力も働いていないのに。
世界は歪みを嫌うと言われておる。故に、反発が起こるのじゃな。
簡単に言ってしまえば爆発じゃ。じゃが、この爆発は超新星のそれに匹敵するとすら言われる。――これは大袈裟じゃが。
兎に角、両者を離そうとする訳じゃ」

「なるほどねえ。…けど、お目にかかる機会って少ないんでしょ?」

「さて?それはどうかのぅ」

ブライがもったいぶるかのようにゆっくりと顎鬚を撫でる。
なんだそりゃ。さっき自分で言ってたのに。

「…これは比較的最近の話じゃ。
人の手で、真なるコピーを作り上げる術を編み出した者がおる、とな。事実なら、レアケースとも言えなくなるやもな。
そして、その術に深く関連するのが――錬金術という訳じゃ」

――錬金術。これも、か。

556 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 01:44:59 ID:WMuqnQx+
晒しage

557 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:46:40 ID:tGLVNMiz
「まあ、この話の講義をしたのは――。
そうさな、お主に訊ねられたから、が八割。残りの二割は、その噂を思い出したからじゃよ」

満足したのか、語り終えた老人はまるで好々爺と言った風に笑った。
そうか、座標融解現象という言葉を見たのも確かエドガンの隠し部屋だった。
錬金術師の部屋に、錬金術に関する本があるというのも頷ける話である。

話の内容は全く頷けるものでは無かったがー。

それにしても、ブライの博学ぶりには恐れ入る。
伊達に長生きしていないと言った感じだ。智謀沸くが如しってか。

「――それにしても、キリが良い所で助かりましたな」

前方を見据えていたライアンが不意に声を発した。
俺はその時点で軽く嫌な予感がしていた。もう、ミネアの占い並に外れる気がしなくなっている。良い予感は外れるけど。

ドラゴンに乗った人影――水の上を走る巨大とかげ――まるで恐竜のような青い物体――。

「では、始めるとしましょうか」

ライアンの声と同時に、
すらりとソフィアが腰の剣を抜いた。

558 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:47:23 ID:tGLVNMiz



「……あの。今のって、敵一グループっちゅうか……数は全部で5匹だったよね」

「ええ、そうですね…っ!」

「なのに何で全滅しかかってるのよ!?」

俺は必死で覚えたての治療呪文をソフィアに施していた。
クリフトは俺の愚痴に返事をする余裕も無いようだ。彼は、一人でライアンとブライの傷を癒している。
ソフィアの身体がどんどん冷たくなっていく――俺は焦りながらも、治癒(ホイミ)から、上位治癒(ベホイミ)へと切り替える。
この洞窟の敵の強さは異常だと思った。
特に、あのドラゴンライダーがヤバイ。何で十把一絡げ的な魔物があんな速いんだ。しかも、一撃が重い。
はしりとかげは魔物全員の傷を、一瞬で治してしまうし。
俺はと言えば、竜が吐くブレスのせいで何もできずひたすら薬草を食って命を繋いでいた。

「ソフィア…ソフィア!しっかりしてくれよ!」

外傷は何とか消す事ができた。
ぺちぺちと少女の頬を軽く叩く。
腕の中で、僅かな身じろぎをした後、長い睫が震え、ゆっくりとまなこが開かれる。
安堵の余り思わず表情を崩した。
それを見たソフィアがくすっと笑う。よほどおかしな顔をしていたのだろう。
――少女が此処まで傷ついている間、俺は薬草を齧る事しかできなかった。
俺が死ねば、彼らにとって余計な負担になっただろう、というのは勿論ある。
だが――だからといって――。
自分の身だけは少なくとも守る。そういう、戦闘技術を手に入れる。それはつまり――こういう事を繰り返すだけじゃないか……!

559 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:48:01 ID:tGLVNMiz
「……これは、中々参りましたな」

ライアンがゆっくりと身体を起こした。
――もし前衛が彼でなく、アリーナだったなら恐らく持たなかったであろう。
誰一人斃れる事無く切り抜けられたのは、敵の真正面で踏ん張り続ける戦士の功績が多大だった。
治療を受けた老魔法使いが、腰をとんとんと叩きながら勇者に進言する。

「どうでしょうな。一度、引き返すというのも手かもしれませんぞ」

確かに、戦士の言うとおりだ。
慢心があったとは思いたくないが、それに近いものはあったかもしれない。
俺はソフィアの意志を確認する。

『ブライさん…遺跡脱出(リレミト)は大丈夫ですか?』

「…うむ。無論、可能じゃよ」

『では…先ほどの階段を降りましょう。その先の深さにもよりますが、いよいよとなった時は遺跡脱出で』

――そうだった。
この程度であっさりと引き返すような性格をしていないのだ、この娘は。
猪突猛進とまではいかぬものの、限りなくそれに近い――猛々しき魂を持っていると思う。
だからアリーナともあれだけ気が合う訳で。
あの姫君の場合全滅するまで退かない気がするがー。

560 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:49:05 ID:tGLVNMiz
「――御意。では、進むとしましょうか」

「仕方がないのぅ。ま、姫様よりは退き際を心得ておられるじゃろうからその点は安心じゃが。
クリフト。ワシ等も余力を惜しまず常に補助を展開して行くぞ」

「解りました、ブライ様」

導かれし者たちは、簡単に打ち合わせた後すぐに立ち上がる。
俺もまた、少し遅れる形にはなったが、それでも彼らの後に続いた。



階段を降りた先に、光苔が生えているのか薄ぼんやりとした広場が見える。
辺りに魔物の気配は無い。中央に静かに佇むのは――天空の盾に刻まれた文様と似た装飾の施された鎧だ。それに向かってソフィアが、一歩足を踏み出した――。

ギャオォォォォ!!

背後から響く雄叫びに縮み上がる俺。
うわわわわ、きたきたきたきたあああ!!

「勇者殿!ここは我らが食い止めます故、鎧を!」

ライアンが臆する事無く一行の殿に入り、怒鳴った。
俺は、戦士の背中を間近で目の当たりにする。――なんと、逞しく、雄々しくて、頼もしいのか。
同じ男である事に誇らしさを感じ、それと同時にこの境地にまで至れて居ない情けなさ、達したい憧れ。
様々な葛藤を胸に抱きながら、俺はライアンの隣に立った。
半歩下がった位置に居るのは、身の程というものだ。まだ――並び立つ事はできない。ライアンにも、アリーナにも、ソフィアにも。
だけど、やはり俺はあの時強くなりたいと思ったから。ホフマンは、きっと強くなれると言ってくれたから。

561 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:49:56 ID:tGLVNMiz
「ソフィア!行ってくれ!」

俺の声に意を決したか、少女の駆けて行く音が聞こえてきた。
クリフトが、ライアンを挟んで俺と対照の位置に立つ。
ブライとクリフトの呪文の詠唱を聞きながら、俺もまた物理障壁(スカラ)と攻勢力向上(バイキルト)の魔法を己に施す。
この二つをかけた状態でも、素のライアンに敵わないのだから泣けてくる話ではあるが。
少女を先に行かせ、魔物の群れに立ち塞がる。おおおなんか無駄に燃えてきたぁぁぁ!

「そうでしょうそうでしょう。これが、醍醐味というものでしてな」

にやりと笑うライアン。
ブライがくつくつと低く笑い、クリフトもまた緊張に強張っていた身体を解す。

この場を俺がただ、切り抜けようと思うなら、戦闘は彼らに任せて先ほどのように薬草を食んでいれば良い。
だけど、それは余りに悔しいから…!

「ライアンさん――俺、やっぱ、突きを教えて欲しい。
俺は――これから、どうなるか解らないけれど、皆と一緒に居る時は、誰に言われるでもなく戦わなきゃならないと思うし、戦いたいと思う。
あんたたちにばっか、苦労させたくないもんな!」

「――良いでしょう。厳しくいきますからな。此処を切り抜けたら覚悟しておくのですぞ!」

戦士が一歩踏み出す。
その圧倒的な圧力で地がへこみ、突き出された斧は巨大な原住民の面のような魔物を叩き割った。

勇者には、なれない。
あの大灯台からこれまでの道のりで、ソフィアとの力の差は埋まる所か開きっ放しだったから。
勇者と呼ばれる存在に、ある種の疑念を抱いてしまったから。
覚悟はしていた。俺みたいなのが、勇者と呼ばれる者と同じ位強くはなれないだろう、と。
それは諦めに近い感情。だが――今、再び俺は目的を掴み取った。
クリフトとの会話に、ミネアの慈愛に、ライアンの背中に、そして駆けて行くソフィアの気配に、あるべき俺の姿を視る。

562 :海鳴りの祠  ◆gYINaOL2aE :2005/05/11(水) 01:50:59 ID:tGLVNMiz
「俺は――俺は、ソフィアの、剣になりたい。決めた。今、決めた!!」

破邪の剣を水平に振るう。
接敵した水竜の返り血が、俺の頬を染め上げた。

「全く…青いのぅ。じゃが、若いとは良い事じゃな」

ブライがやれやれと嘆息しながら、遺跡脱出(リレミト)の準備に入った。



HP:63/88
MP:21/42

Eはじゃの剣 Eみかわしの服 Eパンツ

戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒

563 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 02:11:51 ID:y1rsZ/VQ
>>562
新作乙!

564 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 02:23:06 ID:dgJdUeYz
  はい
  いいえ
>おつ

565 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 04:15:22 ID:8IB1XTQK
オシ!!

566 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 12:55:13 ID:tYoEz17R
批評スレが落ちたか。
いいことだ。


567 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 13:17:15 ID:lcfNid5m
…何で「いいこと」なんだ?
別に、ここの作品が批判されてた訳でもないのに

568 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 15:33:33 ID:Lktl+7sI
>>566
批判が怖い作者乙

569 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 17:53:21 ID:TtomK/PF
乙!
主人公が段々と格好よくなっていく気配がするよう。集中講義も役に立ったようで何よりだな。
役割とか、関係とか、透けて見えるのがいいね!

なんか強烈に伏線張られた気がする………(悶々)w

570 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 20:12:40 ID:bQOaGOE/
乙!

小説の更新、楽しみな自分がいてなんか毎回ドキドキさせられて良いなホント
キャラも偏りが無いし、皆魅力的に書かれてて、何より主人公が身近に感じるのがイイ(・∀・)!!


あー確かになんか伏線ぽいのがあった感じがしてまさかなー…って今思ってるw
なんにせよ続きが楽しみだ…!!

571 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 21:49:42 ID:KRGweQKo
とりあえず学校さぼります

572 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 22:20:57 ID:g7B8ivKb
何もかも捨てて俺も冒険の世界に旅立ちてぇなw

573 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 22:33:54 ID:EppR3QOG
>>572
旅立っちゃえよ、ホラ!

574 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 22:49:51 ID:f47+R9UA
>>572 まさに旅の扉はここにある!!

575 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/11(水) 23:18:41 ID:uTbiaG+G
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576 :冒険の書庫の書記 ◆nUtX8ZK/82 :2005/05/12(木) 00:26:05 ID:krEMqXMR
ここまでセーブしました  
http://www.geocities.jp/if_dq/  


577 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 00:48:25 ID:4QdWqNwl
晒しage

578 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:10:41 ID:YOl66ZLc
ガーデンブルクの南、アネイルの東。
大河を挟んだその先に、一つの大陸がある。
手強い魔物が住み着いていた。地理的に人の侵攻し難い難所でもあった。
様々な要素と諸々な理由が噛み合い、その大陸は人の殆ど住まない土地となっていた。

この大陸の川沿いに、ホビット達が作った一つの集落が存在した。
彼等は日々を穏やかに、まるで時が止まっているかのように過ごしていたが、
とある日に来訪した二人の男女が、彼らの生活に色と、華やかさを与える事となる。
それはホビット達が望んでいたもの、という訳でも無かったのだが、彼等は二人を歓迎した。

一人は、魔族の青年。
もう一人は、エルフの少女。

集落の近くの丘に、朽ちかけた塔が立っていた。
それは、遥かな古代の技術が用いられ、造りに仕掛けが施されていた。
青年はそれに目を付け、少女の為にその塔を蘇らせた。

魔族の青年は冷たい瞳をしていた為に最初はとても恐れられた。
だが、エルフの少女は村人に分け隔てなく接し、とても優しくて、綺麗な声で詩を歌ってくれたので、
ホビット達はやがて少女の住む丘の塔の周りに新たに家を造り住み始めた。
青年が、少女と話す時にとても穏やかな顔をするのも、次第に伝わっていった。

やがて、ふらりと訪れた魔物や動物、そして人まで住み着くものが現れた。
ホビット達は余所者に平和が脅かされるのを恐れ、困惑した。
だが、移り住んできた者達は一様に、誇り高き魔族の青年の前では秩序を乱す事など到底できず、
美しきエルフの少女の前ではどんな者もまるで毒気を抜かれたかのようになってしまう。
それは、青年と少女、どちらが欠けても維持できないであろう一つの理想郷であった。

ホビット達と他所から移り住んだ者達は、この素晴らしい集落に改めて名を付ける事にした。
少女の住まう丘――ロザリーヒル。

579 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:11:51 ID:YOl66ZLc



「…むむむ!これは、中々…」

トルネコが唸り声を上げる。
彼は一本の大剣をあらゆる角度から検分しようと大きな身体を左右に揺らしていた。

「これは、私にも解りますな。良い剣です」

ふむう。トルネコとライアンが言うからには、かなりの物なのだろう。
俺?いやいや、そう言われれば良い物のような気はするけど、はっきりは解らない。

「此処でしっかりと準備をすれば、きっとこれからの戦いの役に立ちますよ」

にこにこと笑いながらトルネコがそう言った。
願ったり叶ったりだ。実力不足を武器のせいにするつもりは毛頭無いが、
不足しているからこそ、武器で補う事もまた必要だろう。

「…ほう。それは、ひょっとするとドラゴンキラーでは無いか?」

珍しく、ブライが武器に興味を示した。
店主の老人(この店主は、他にも道具屋、防具屋、神父の真似事までするマルチな爺さんだ。一々口調まで変えるこだわりっぷりである)が、軽く頷く。
俺は、その大剣がどうしたのか訊ねてみる。

「うむ、これこそ特殊な武装として最も顕著な例と言える。
…見る限り、少し大きな普通の剣じゃろう?じゃが確かに、この剣を使えば竜族をより屠れる。
それは何故か?炎が出る訳でもなく、氷が出る訳でも無い。
もしかすると、別に竜に限らずその切れ味を発揮するやもしれぬ。唯、単純に強い剣かもしれぬじゃろう?」

580 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:12:30 ID:YOl66ZLc
ドラゴンキラー…竜にだけ特化した大剣。
だけどそれが本当に竜にのみ優れた剣なのか、それとも総合的に強い剣なのかを証明するのは難儀だ。
だが、それでも、この剣はやはり竜に特別な効果を発揮するとブライは言う。
それは使ってみれば『なんとなく』感じる事ができるかもしれない、らしいのだ。
眼に見えて強い、とまでなるかどうかは人に依る。
言い方を変えればその程度の武器でしかないのだが――これを侮るのは、少々考え物だなと思った。

「まあ、総合的に見てもこの店随一の物じゃなかろうかな?
のう、トルネコ殿?」

「ええ。仰るとおりだと思います。これを、ソフィアさんとライアンさんに…貴方は、どうします?」

「……けど、ちょっと、高いねえ」

俺はかりかりと頬を掻いた。
値札を見ると、他と桁が一つ違う。
次に高いまどろみの剣の、およそ二倍の値が張るのだ。恐ろしい話である。

「一端の剣士になるには、やはり武具も大事です。
選ばず済むのは、達人でなくば。…今までずっとお下がりを使っていたのですから、それで得られるモノは十二分に得たでしょう。
戦いへの意志も決まったようですし、此処は一つ扱って見てはどうですか?」

うーん…。
別に、ソフィアのお下がりが嫌だった訳では無いのだが、確かに…新品の剣、というものに、僅かながらも憧れが無いと言えば嘘になる。
ちらりとソフィアに視線を走らせた。
少女は何処と無く、寂しそうな眼をしている、気が、するうううう。
いやいやいやいや、それは俺の勝手な思い込みではないか。
ううーむ。別にソフィアから巣立つとかそういうんでも無いのだが。
――しかし、そう。俺が彼女の剣になるのだとしたら、財布の事情が苦しいとかならともかく、
俺の方から背中を向ける訳にはいかないと思う。

581 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:21:04 ID:YOl66ZLc
腰に新しい剣を帯びる。
なんだか異常なまでに気恥ずかしい。トルネコが、お似合いですよ、と言ってくれた。いい人だ。
ソフィアもまた、笑みを向けてくれる。俺はそれにほっと安堵の息を吐くのだった。

結局、ソフィアとライアンにもドラゴンキラーを。
後はクリフトとミネアにまほうの法衣、そしてライアンにドラゴンメイルが渡された。
魔法使いが扱うような武具は無かったのだが、マーニャが後でごねるかもしれない。
ちなみに、ソフィアの防具に関しては既に彼女は天空装備で身を固めている。

「あの…」

アリーナがトルネコに何かを手渡した。きらりと光る小さな物である。

「ふむ?これは…キラーピアスですか。
ですが、今のアリーナさんには炎の爪の方が恐らく良いですよ?」

「うん。私もそう思う。
…だけど、ね。ちょっと、色々戦い方について考えることがあって――これって、両手に装備する物でしょう?
もしかしたら――なんだけど」

余り歯切れが良くないアリーナというのも中々お目にかかれない。
確信は無いが、自信はある。そういった雰囲気だ。
しかし、どうしてこそこそしてるんだろう?

「だって、ブライにピアスが欲しいなんて聴こえたら何言われるか解らないじゃない」

…あの爺さんは喜ぶんじゃないかな?
お洒落に目覚めたとか、勘違いして。それとも、耳に穴開けるなんて持っての外!って感じなんだろうか?
お姫様ならその位ありなんじゃないかなあとも思うが。

「…解りました。では、これも購入しましょう」

582 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:22:28 ID:YOl66ZLc
トルネコが、まるで娘に相対するような表情を浮かべる。
アリーナがトルネコの出っ張ったお腹に抱きついた。全く。微笑ましい光景である。
…けどこれって、俺の世界じゃ下手したら援助交際とかそんな風に見られる可能性もあるよな。
なんだろうねえ。大人と子供ってのは、俺は目の前にある光景のような感じであるべきだと思うのだが。
大人が悪いのか、子供が悪いのか。それとも、何かが悪いと言うような問題でもないのか。
まあ、いいか。今は目の前の事を考えねばならないし。



「むううううううぅぅぅぅぅぅ……」

夕食の席にて。
マーニャさん、ご立腹である。
こういう場合、触らぬ神に祟りなしを決め込むのが常道なのだが、この時は新しい剣のせいで気が大きくなっていたか、つい触ってしまった。

「あの…マーニャさん…じゃなくて師匠(マスター)…一体どうしたん?」

途中、石化してしまいそうな凶悪なメンチを切られたので慌てて敬称にするヘタレ。
それが俺だ!

「…さっき、あんたたちと分かれてミネアと宿取ってた時。この村じゃ珍しく人がいたもんだから話しかけてみたのよ。
そうしたらそいつ、何て言ったと思う?
『オレはルビーの涙を流すというエルフを探してこの村にやってきた。
もし、そのエルフを見つけて捕まえる事ができたなら、きっと大金持ちになれるぞ!』
って、こうよ!?ほんと、あさましいにも程があるわ。同じ人間であることがイヤになってくるわよ…」

583 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:23:35 ID:YOl66ZLc
一気に捲くし立てられ、俺は飛んでくるご飯粒を避け、防ぐので手一杯である。
そんな事自慢げに話すヤツって頭大丈夫なんだろうか?――エルフを攫うって事に罪悪感なんて微塵も無いのかもしれない。
マーニャは特にその手のタイプの人間を嫌う傾向がある。
俺にしてみればカジノで豪遊するマーニャさんも軽く危ないのでは無いのかと思うのだが、
彼女の中では明確に線引きがされているらしく、エルフを捕まえると言うのは完全にアウトらしい。
まあ、俺も考えるまでも無くマーニャに同意だ。

「全く。けしからん輩がいるものですな」

ライアンが憤慨したように呟いた。
しかし――具体的にどうにかしよう、というのも中々難しい話である。
その男を見つけてボコにするのは可能なのだろうが…。
そいつをボコにした所で根本的な解決にはならないし、それにまだ何もしていない人間を痛めつけるってのも…。
とはいえ、放っておいたらエルフはどうなる?今の所お目にかかっていないが、本当にいるのだとしたら…。
…ん?エルフ?

「うむ?エルフとは、か?お主の言うとおり、白い肌に尖った耳が特徴の種族じゃな」

「ここは、ホビット族の村のようですからエルフは居ないでしょうね。
ホビット族は、言い方を変えると小人さんたちです。服が可愛いですよね」

ブライとミネアが説明してくれた。
ふむ、やはり、そうか――。

584 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:30:04 ID:YOl66ZLc



夜の帳が降りた後、俺は宿を出た。
どうもこの辺りは見覚えがある――ゆっくりと、丘を登っていく。
そこには、塔が立っていた。

――既視感(デジャヴュ)

そう、この場所は見た事がある気がする。あの塔から顔を覗かせるエルフの娘――。
訪れたのは間違いなく初めてだ。それなのに、どうして――。
……いつか見た、夢か?
あの時は確か、銀髪の男が何か笛のようなものを吹いていた筈だ。

常に背負っている荷物の山を降ろす。
笛なら何でも良いという訳でも無いだろうが、とりあえず試しに吹いてみようかと思ったのだ。

「なにしてるのー?」

ホワッツ!?
だから急に声をかけるなっつーの!この姫さんは俺を驚かして楽しんでるな!?
俺にだってそんな沢山引き出しないんだからさあ…。

「なんかね。皆、眼が冴えちゃってるみたいで。すぐに来るわよ。
私はクリフトと一緒に先に来てみたんだけど――まさか、貴方が先に居るとはね」

585 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:31:04 ID:YOl66ZLc
何故か悔しそうな姫君を放って置いて、
俺はクリフトに捜索を手伝ってもらうことにした。

「何を探せば良いのですか?笛、ですか。――ああ、これなんてどうでしょう?」

おお、凄い。ごちゃごちゃした荷物の中からクリフトが一発で取り出した笛は、少々奇妙な笛だった。
何が奇妙なのかと言われると答え難いのだが、管の部分が曲がってる時点でまともに音が出るものなんだろうか。
いつ手に入れたんだったかな?俺が拾ったもんじゃないから、ちょっと解らない。

やがて、ぞろぞろと導かれし者達が集う。
いい感じに挙動不審だ。夜だし。職質されたら一発でアウトだな。

「誰が吹きますか?」

クリフトが何気なく訊ねると、それはやはり奇妙な程に――自然な動作で、ソフィアが笛を手にした。
それは元から少女が吹く事を定められていたかのように。

「…あやかしの笛ですか」

トルネコの小さな声は、すぐに響きだした音に掻き消された。
物悲しい――落ち着かない、余り心地良い旋律とは言えない、音色。
何処と無く、不気味さすら感じさせる――。

586 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:33:54 ID:YOl66ZLc
ガコン。

足元の地面がへこんだ。
こ、今度はなによ!?――あ!そういえば、夢でもなんか地面に沈んでってた!
――そうか、しまった、ボッシュートか…!

    ⌒ ⌒ ⌒
   _⌒ ⌒ ⌒__
  /:::::Λ_Λ:::::::::::::::/
 /::::::(∩;´Д`)∩ :::::/
/:::::::(  >>俺  /::::/  チャラッチャラッチャーン

俺のスーパーヒトシ君がぁぁぁぁぁぁ!!!
と、一人緊張感の無い事を考えている間に、柵の無いエレベーターみたいなものが終点についたようだ。

「…とりあえず、進んでみる?」

「うん!行こう!」

587 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 02:35:45 ID:WimkDXLD
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588 :ロザリーヒル  ◆gYINaOL2aE :2005/05/12(木) 02:36:27 ID:YOl66ZLc
マーニャに対しアリーナが元気に答え、歩み始める。
うちの女たちは非常に積極的なので、男たちはそれに唯々諾々と従うのみだ。いや、そんな事も無いけど。
通路を進むと、やがて登り階段が見えてきた。なるほど、塔だからな。登っていくわけね。
…ここにもエレベーターつけてくれよ…。
空気の読めない建築家を非難してから一歩ずつ階段を登る。
登りきった先に、また出現する階段。どれだけ登れって言うんだ…。
もう帰りたくなってきていたのだが、泣き言を言う訳にも行かず必死で喰らいついていく。
…おお、目の前に大きな扉が現れた。やった、なんとかてっぺんにこれたようだ。
アリーナとマーニャが一度視線を合わせた後、ゆっくりと扉を押し開く。

通路が伸びていた。
その先には、もう一枚の扉。構造から推測するに何かしらの部屋があるのだろうか。
そして――。

「――まさか、此処に入り込める者がいるとはな。……しかも、よりにもよって人間か」

煩わしそうに、不愉快そうに。
苛立だしげに響く男の声。
邪悪な鎧兜に身を包んだ黒い騎士が、最後の扉を守護するかのように立ちはだかっていた。



HP:88/88
MP:42/42

Eドラゴンキラー Eみかわしの服 Eパンツ

戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒

589 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 03:04:04 ID:btdtSjeh
>>◆gYINaOL2aE 言うまでもないけどGJ!

590 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 03:08:39 ID:udB8FPbv
乙かれ!!
更新早くて感動する!
そして何回も言っているがやはり描写が素晴らしい…!!
いよいよピサロナイトが出て来てドキドキだ…どうなるのか分からなくてちと怖いが楽しみだ!

591 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 03:46:39 ID:iXDHi1H5

予想ではソ…が複線か?
それにしても他書いてないな…3書いてた人面白くなりそうで期待してたんだが…退院したのか?

592 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 09:45:23 ID:32DHy3rR
◆gYINaOL2aEさん、グッジョブっす。
毎日楽しく読ませてもらってます。

DQ4はファミコン版しかやってないからPS版がめっさ欲しくなってきたですよ。


593 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 11:03:31 ID:ymxUsmnG
乙!
>>591確かに他いなくなっちゃったね

594 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 13:56:29 ID:faJmla/4
おれも3好きだったんだが…
このままだと4の人が終わったら一気に過疎るな

595 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 14:12:58 ID:wcoZQ8IH
今のも面白いけど最初の頃のノリで書く奴いないかな。
いかにもゲームの世界にリアル人間を無理矢理ねじ込んだような
ちぐはぐ感が妙に生々しくて、何となくSFっぽい感じが好きだった。

596 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 14:55:03 ID:KURzZnE0
とりあえず今おかれた状況を確認しようと頭を抱える。
最後にした行動は……あぁ、そうだ。授業中に居眠りをした。
ならば居眠りをする前は?
制服は暑いとか、男子の学ランは大変だよなとか、そんな事を考えていた気がする。
今となってはどうでもいい。問題は何故自分が今こんなおかしな所にいるか、だ。
―――せめて財布をもっときゃよかった。帰りに定期買うから1万以上入ってるのに…。
どうでもいい考えが頭を廻る。こんな時でまでお金の心配をする自分の貧乏性が腹立たしい。
いや、そんな場合じゃない。とにかく今をどうするか。

私は辺りを見渡した。先程と変わらない光景が目に映る。
カウンターに立ち身動きしない親父。
動物園の熊のごとく同じ場所を行ききしてるおばさん。
どちらも気味の悪いほど笑顔を浮かべている。何がそんなに可笑しいのだ。

窓から外を見れば、元々人通りの少ない通りなのか、それとも人口が少ないのか、あまり人影は見えない。
ただ、入り込む日差しからは今が朝なのだということは分かる。
重い口を開き、恐る恐る親父に話しかける。

「あの…」
「お泊りですか?それとも夜まで休まれま…」
「失礼しました」

私だって馬鹿じゃない。このやり取りは既に16回も行われたのだ。
親父の言葉はそれ以後も続いたようだったが私は構わず宿を出た。
開放的な青空。澄んだ空気。やたらと派手な色使いな気もするが、すぐに慣れるだろう。

―ーとりあえずの目標は、生きる。どんな状況に陥ろうとも。

固く心に誓い、私は新しい世界の新しい一歩を踏み出した。
私の長所は、どんなに絶望的な状況に置かれても、決して諦めない事だ、と思う。

597 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 15:41:46 ID:L7h/Lp/B
◆gYINaOL2aEさん
導かれし者達が米食だったことが今回一番の衝撃ですたw

598 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 18:37:12 ID:UgKr12+o
作者いるんなら挙手汁







599 :冒険の書庫の書記 ◆nUtX8ZK/82 :2005/05/12(木) 19:26:26 ID:TmzcSUD/
ここまでセーブしました   
http://www.geocities.jp/if_dq/

600 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/05/12(木) 19:31:24 ID:3u6Ri1qe
>>◆gYINaOL2aE氏
乙です!さあ、一つの山場、期待の伏線、楽しみにしてますよ!
きっとアレも伏線なんだろうなと予想を膨らませているのが一番楽しいw

他の作者の人も気兼ねなく上がって欲しいよね………。
結構楽しみにしてたのもあるし、遠慮なく上げてくれて構わないのに。

>>598
書きたい。ネタはある。時間はないw

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