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もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ :05/03/15 05:33:29 ID:NA3D0HzS
どーするよ?

137 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/03/31(木) 01:40:11 ID:/2URuZ33

…なんだか話が噛み合ってないような、その癖要望は叶ったような複雑な気分で俺たちは奥へと進んだ。
今は細かい事はどうでもいい。早く寝たい。もう足が棒なのだ。俺は子供の頃はスポーツ少年だったが今はインドア派なんだ。
ウォーキングなんぞ趣味じゃない。
はたして、そこにはベッドが一台、置いてあった。



そうして、今、俺は床に寝転がっている。
固い床。余りに身体が痛い。多分、明日は今以上に身体が軋んでいる事だろう。

これからどうしよう?
今日は俺、泣きながら眠ります。今日の事が、夢である事を信じて……。

HP:1
MP:0

装備:Eフリース Eパンツ

138 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/03/31(木) 09:34:46 ID:1iitBfB3
>>133-137
ギガワロスwww

139 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/03/31(木) 16:15:36 ID:6T/w9CH+
オモスロイヨ。イイヨ、イイヨー

140 : ◆WVtRJmfCVI :2005/03/31(木) 18:38:59 ID:A5kLVEBy
ワーカー親子と同行する事になった俺は、移送された宿屋で明け方を待つ事になった
何の宿命だか知らないが、俺は今知らない世界に生きている。恐らく俺の世界の常識はまったく通用しないと考えていいだろう。
現に常識ハズレの怪物や、致死の状態から回復させた薬草。軽くK点は越えている
実にリアルで、実にくだらない世界だ
しかし、そんな俺でも、夜になれば静々と明かりの消える世界に順応し、深い眠りへ落ちていった

カーン・・・・カーン・・・・
何の音だろうか、俺の安眠を妨げる
「出せー!出してくれー!」
小さな孤島、洞窟内の穴から、濁った声がこだまする
気味が悪い。ここはどこだよ
ふと、声が聞こえた
「煉獄島からは出られない。きっと、このまま・・・・」
煉獄・・・・島?
カーン・・・・カーン・・・・

141 : ◆WVtRJmfCVI :2005/03/31(木) 18:39:38 ID:A5kLVEBy
「起きろ!魔物が出たぞ!」
アーサー・ワーカーが鉄鍋を鳴らして俺を叩き起こす
空は闇。まだ夜中みたいだ
「魔物って・・・・聖水を弾く魔物はここには居ないってさっき」
「レベルが違うんだよ!山の主が出たんだ!」
「主?」
「そう、主だ」
俺は言われるがまま外に連れ出された、村は松明の明かりで照らされ、私兵団が慌ただしく動き、女性、子供を村の中心へ誘導していた
「ゼシカ様が居てくれれば・・・・」
「弱音を吐くな!たかだか二匹の魔物に何を・・・・」
「アークデーモンとボストロールのどこが「たかだか」なんですか!!」
シン・・・・ざわざわ煩かった広場に一瞬の静寂
「嘘・・・・お父さんが・・・・」
「ママー、パパの方が強いよねー?」
「・・・・」
馬鹿だな、何で自分から不安を煽ってるんだよ
「アツシ、俺も親父の所に行く、オマエはあそこで待っていてくれ」
「ハッ、冗談だろ?何で女子供しかいない避難所に、俺が居残らなくちゃならねーんだよ」
役には立たないだろうが、怪我人の避難くらいなら出来るはずだ
「・・・・分かった、革の盾とブロンズナイフ、忘れずに装備しておけ」
「あぁ、分かった」
腰に巻いたバックルから盾とナイフを取り出す
軽装で、俺でも知ってるあの怪物に対し、果たして何かの役に立てるのか
我ながら無謀な行為だが、今更だが馬鹿らしい、あのまま逃げればよかったのに

142 : ◆WVtRJmfCVI :2005/03/31(木) 18:41:06 ID:A5kLVEBy
山麓の道なき道を疾走する俺とアーサー
「ハッハッはっ」
「どうする?休むか?」
「ウルサイ、余裕だ」
しんどい。やっぱり逃げればよかった
と思っているうちに、林を抜けて、採掘所に辿り着いた
その場は正に惨劇。トラペッタ師団、ポルトリンクに着港していた兵士との連合軍をもってしても、ゆうに三メートルを越える化け物二匹に手も足も出ない状態だった
「アヘ、ニンゲン、ウマイ、バラス」
ボストロールは正に無邪気に暴れ、槍部隊を一閃でなぎ払い、よだれをバタバタ垂らしてケタケタ笑っている
「ムハハハハ!下らん!下らん!下らんぞぉぉぉ!」
アークデーモンは仁王立ちの姿勢で師団の攻撃を肉弾で弾き返していた
「剣が刺さらないぞぉぉぉぉ!」
「怯むなー!矢を絶やすな!」
山に囲まれた広い採掘所で、必死に戦うも、全くと言っていいほどダメージがない。いや、正確には目に見えた傷が付かないといったところか
「ウハッ、イダダキ!」
ボストロールがこんぼうを大きく振りかぶり、餅を打つ姿勢になった
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!」
見兼ねたアーサーが林から飛び出し、突撃した
「馬鹿野郎、盾を合わせてダメージを分散させるんだ!」
ダメだ、断末魔やモンスターのおたけびにかき消されて聞こえない
それに、的になっている兵士は士気がガックリ下がり、完全に腰が引け、一部の兵士は尻餅すらうっている

143 : ◆WVtRJmfCVI :2005/03/31(木) 18:43:31 ID:A5kLVEBy
流石に敵が強すぎるか
「チィ!そこをどけぇ!」
武器、防具を放り捨て、兵士を掻き分けて先頭に立った
「プッチンツブレロォ!」
振りかぶりはスローだったのが、振りおろしは異常なスピードだった
ゴァァァァァと空気を裂くこんぼうを、アーサーは
「大・・・・防御ぉぉぉぉぉぉ!」
両腕で受けとめた
衝撃波が数十メートル離れた俺の所にまで届いた
煙が巻きあがり、一瞬すべての戦いが止まった
爆心地にいるアーサーは死んだ。だれしもがそう思ったが、その煙を裂き、アーサーが吠えた
「せいッ拳・・・・突きイィィィィィ!」
煙が一蹴され、アーサーの右手がボストロールの腹部を抉り飛ばした
完全にカウンターを取ったアーサー。アーサーはそのまま支持を出した
「今だ!メラを集中させてぶつけろ!」
「行くぞ!メラ!」
「メラ!」
「メラ!」
「メラミ!」
十人の兵士のメラと、アーサーのメラミが合体し、一つのメラゾーマになった
「ウガ、ウガァァァァァ!」
メラゾーマは巨大な火柱を立て、ボストロールは黒焦げになってしまった
「ハッ、どーよ。おたくの木偶の坊は炭になっちまったぜ」
鼻で笑い。アークデーモンを挑発するアーサー
「フン、甘いな」
「何?」
「貴様の統率力は見事だ、しかし・・・・」
アークデーモンは指をチッチッチッと揺らし、いやらしく笑い飛ばした

144 : ◆WVtRJmfCVI :2005/03/31(木) 18:44:19 ID:A5kLVEBy
「貴様の父親は何処に行った」
「!?」
そう言えば、先程からオッサンの姿が見えない。まさか
「貴様・・・・まさか・・・・」
「綺麗に消えたな。イオナズンの破壊力には我ながらほれぼれする」
ドッ。地を蹴る鈍い音、アーサーは既にアークデーモンの懐に入っていた
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
再びせいけん突きのモーションに入るが、遠くから見ていた俺にはアーサーの危機が手に取るように分かった
アークデーモンのしっぽが、激しくスイングして、アーサーの横腹を抉る
「べふぅ」
血を吐き出し、アーサーは物凄い勢いで弾き飛ばされた
数メートル飛んだところで、指を地面に突き刺して無理矢理態勢を直すアーサー。しかし、口からは血がデロデロ流れている
「クソッ」
アークデーモンの注意がアーサーに向いていると感じた俺は、アーサーが捨てた剣を拾いに走る
だが勿論。アークデーモンにバレてしまった
「ゴミ虫が」
アークデーモンの右手が俺の方へ向いた
キュイィィィィン。右手に魔力が集まり。無慈悲にも、それは放たれた
「メラゾーマ!」
「に、にげぉ・・・・あつ・・・・しぃ」
「クッ」
剣と盾を拾う、だが、本物の剣はかなり重い。抱えて走るのはキツそうだ、そして、目線を上げると、俺に向かって赤い弾丸が迫ってきた
本物の火球が俺に迫る。体感は松阪のストレートより早い
「嘘・・・・マジかよ!」

145 : ◆WVtRJmfCVI :2005/03/31(木) 18:46:29 ID:A5kLVEBy
咄嗟に盾を構える。メラゾーマが直撃するが、何の奇跡かメラゾーマが消滅してしまった
「ま、マジかよ・・・・」
勿論俺のやったことではない
「フ、敵の死体を確認せずに勝利宣言とは、多少あさはか過ぎたのではないかね」
俺の背後の採掘洞窟から、トムが飛び出してきた
「ま、マジックバリアだと!」
「そう言うことだ!」
いつの間にか、俺が抱えていた剣が鞘だけになっていた
「はやぶさ・・・斬り!!」
疾。十字斬りが、アークデーモンのバトルフォークごと引き裂いた
「ば・・・・馬鹿な・・・・」
トムの猛攻は終わらない。剣を捨て、気合いをぶつけた
「ぬぉぉぉぉぉぉ!」
全力で真空波を発生させる。翼をもぎ、体をずたぼろに引き裂き、アークデーモンは俯せに倒れた
「・・・・すげぇ」
言葉に詰まる。確かにイオナズンを食らったのだろう。トム自身も大ダメージを受けている
それでこの大逆転。正に奇跡だ

146 : ◆WVtRJmfCVI :2005/03/31(木) 18:48:56 ID:A5kLVEBy
死んでしまった兵士もかなり居るが、よくここで食い止めたものだ(俺は全く役に立ってなかったが
緊迫した空気が切れ。思わず尻餅を付いてしまう俺
「ハハッ、力が・・・・入らねぇ」
苦笑する俺を、生き残った兵士とアーサーは渋い顔で見ている
「・・・・どうしたんだ?」
「後ろだ!アツシ!」
「え?」
ズッ
後ろからキツイ衝撃が走る。ハンマーで背中を打ちぬかれた気分だ
地面を転がる俺は、俺を蹴り飛ばした相手の正体を見た
「ボス・・・・トロール・・・・」
そいつは黒焦げになっても、まだしぶとく生きていた

つづく

147 :>>137 ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/01(金) 03:22:24 ID:YC07m0qp
泥のような眠りからゆるゆると覚める。
夜の山を歩く、ただそれだけで体力を使い果たしてしまっていた為か、夢は見なかった。
眼を開ける。否、別に意識してそうした訳では無い。いつのまにか眼が開いていた、が正しい。
視界に入る、ふわふわとした緑色の何かをぼんやりとふかふかする。
そういえば、昔、似たような事があった。
小学生か中学生の頃。
三つ離れた妹が、何かを恐れて一人で眠れないと言い出した。確か、テレビか何かだったろうか。
仕方が無いなと思いながら、一緒に眠った記憶。
今、思い出すと、それは遥かな憧憬の中で色褪せながらも尚、消える事無く残っていた。

「…んん」

HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?
なんで!?どうして!?こんなに近いの!?
息遣いの音が聞こえる――こんにちわ犯罪歴。さようなら、真っ当な職業。
もうダメですか?誰も僕を使ってくれませんか!?
ついカッとなってやった。女なら誰でも良かった。今は反省している。
違う!何もしてないんだよおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ俺は男だよぉぉぉぉぉ!!!
認め難いものだな…若さゆえの過ちというものは…。

脳内で色んなキャラが大会議を開いている中で、目の前の娘がゆっくりと眼を覚ました。
もうだめぽ。きっと俺は夜這いをかけた最低男として明日にはインターネッツで顔写真が出回り世界の何処にも俺の安息の地はないのだろう。
だが、それが俺が一人の娘を傷つけた罰なのだとしたら、償おうと思います、刑事さん…。




148 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/01(金) 03:23:13 ID:YC07m0qp
今、俺と緑色の娘――名を、ソフィアというらしい――は、一日かけて山を越え、ブランカというお城の前にいた。
朝の一連の話は、どうやら彼女が床で寝ている俺を哀れんでくれたらしく、ベッドに引き上げてくれたのだそうな。
なんというか。力持ちな娘である。
そこかよ!?――ノリツッコミも寂しいな。
それにしても、目の前のお城がブランカという名前なのは良いのだが、つまり、どういう事なのだろう?
ブランカという国があるのだろうか?それにしては、なんというか、小ぢんまりとした印象である。
うまく伝える術が無いのだが、まるで城という家の中に人が引きこもっているかのような。
国民全員ニートかよwwwうはwww最悪wwwいや楽園かwww

城下町の宿を取った後、ソフィアは王様に会いに行くと城内へと消えていった。
一緒に行こうと誘われはしたのだが、丁重に断った。
そもそも、いきなり行って王様に会えるとも思えなかったし、それ以上に身体が動かない。
きこりの家からこの城まで、距離的には長くもなかったのだが…体力不足を思い知らされる。
それに比べて、ソフィアは強い。道中出会った青い液状のキモスなのもソフィアが一人で散らしてくれた。

「ねぇ、聞いた?」

ぐだぐだと宿屋の一階で飯を食っていると、別の客だろうか、何やらぼそぼそと喋っているのが聞こえた。

「山奥の村にいた、勇者様が魔族に殺されたんですって――」

はぁ?勇者って。ガオガイガーかよ。
腐女子ってのは何処にでもいるんだなと鬱になる。しかし、何で言葉が解るんだろう。
…ん?ゆうしゃ?そういえば、あの日本語がちょっと不自由な男の声の中に――。

『デスピサロさま! ゆうしゃ ソロを 捕らえ ソフィアを しとめました!』
『よくぞ でかした! では みなのもの ひきあげじゃあ!』



149 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/01(金) 03:23:55 ID:YC07m0qp
m9(^Д^)プギャーーーッ
思い出しただけで笑えるが今はそれどころでは無い。
勇者ソロが捕らえられ――勇者ソフィアを仕留めた?いや、違う。ソフィアは生きている。しかし、という事は…。
あの村を破壊したのが、魔族…魔族は、勇者を殺したい…もし、ソフィアが生きている事を知ったら…?
嫌な汗が出てくる。ヤバイ。あの娘と一緒にいるのはヤバイ。
道中出会った青い液状の何か。不気味に蠢き、一瞬、俺たちの身体ごと飲み込もうと大きく広がり波のように襲い掛かってきた。
あんなものに狙われたら…命がいくつあっても足りない。
他人の巻き添えで死ぬなんてまっぴらごめんだ。そういう、煩わしいのは俺は大嫌いなのだ。
宿屋を出る。時間はまだ宵の口か。ソフィアは未だ城から戻ってきていない。
俺は道行く人間に近くの町へはどういったものかを訊ねた。
どうやら、トンネルを抜けてエンドールという街に行くのがいいらしい。
エンドールは都会らしいから、恐らくは入ってしまえばソフィアには二度と出会わないだろうし、食い扶持も手に入れられるだろうし、
何より――元の世界に戻る法があるかもしれない。
一石三鳥の妙手を得た俺は、一目散に駆け出した。
一度だけ、自分より年下の娘の姿が脳裏を掠めたが、俺の足は止まらなかった。

筋肉痛が臨界点を突破し足がぎしぎしぎしぎし軋む。
周囲は異常な程に暗い。街灯など無いし、空は曇っているのだから当然か。最早、形容抜きで一寸先は闇が覆っている。
突然、ガツン!と、目の前で火花が散った。
どうやら、何かに頭を殴られたらしい。ズキズキと痛む頭を抱えて後ろを振り向くと、かろうじてその何かを判別できた。
それは、スコップを持ったもぐらだった。
大きさは、もぐらにしては明らかに大き過ぎる。それでも、いいとこ50cm前後といった所だろうか。
それが、二匹。巨大もぐら、という存在、一度も目にした事のない物を見る際の不気味さはバリバリだが、それでも何とかなるか。
あの娘にできたのだ。俺にだって――。

ザクン。

あれ?

150 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/01(金) 03:38:26 ID:YC07m0qp
背後に回った一匹のスコップが、真っ赤に染まっている。
なんか、耳元でプシューって音が。っつか、スコップを立てるなスコップを。危ないだろう。
がくりと膝が落ちる。ざくん、ざくん。ぶしゅー。無機物が有機物を切り裂き真っ赤なトマトがぶしぶしと漏れ出る。
赤い。紅い。朱い。銅い。いつのまにか世界の黒はアカに取って代わられ最早見る影も無く兎にも角にも儚く淡い。
ずごっと頚椎を砕く音をさせながらスコップらしきものが俺の首にめり込んだ。
ギィー。ギィー。ギギギィ。ギィィィィィィィィィ!ギヒ、ギヒヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィィ!!!
不気味な鳴き声。歓喜の声が辺りに響く。まるでこれから宴が始まるかのよう。
ああ、歌え、踊れ。メインディッシュはこの俺だ。ふは、ひひ、ウヒヒヒヒ。
この展開はあれだろうか。きっとあれなのだろう。ああ、あれさ。









ざんねん! わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!



151 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/01(金) 03:39:41 ID:YC07m0qp
そこは何処であったろう。
見覚えなどある訳も無い空間。そこに、銀髪の男がいた。
例のDQNだ。こんな所にまで出てくるとは、余程俺はヤツにビビリが入っているのだろう。
DQNは何やら兜のようなものを持って歩いている。
やがて、前方に現れた人影に、その兜を被せた――。


意識が覚醒する。
すると同時に、緑色の塊がぶつかってきた。
俺はただ、呆けたように少女と、目の前の神父を見た。
薄気味悪い笑顔を浮かべた男だった。その笑顔が、いつも自分が浮かべるそれに酷似しているような気がして余計にキモスだった。
そして、自分にしがみついたまましくしくと泣く少女を見て、俺は深く後悔する。
この娘は――故郷を滅ぼされ身寄りも無くたった一人、放り出されて。
たまたま出会った旅人(だと、ソフィアには説明している)と行程を共にする程に――寂しかったのではないか。
それなのに、俺は――言葉の喋れない娘から、逃げ出したのだ。
これほどの後悔は母親が買ってきたデジカメの使い方が解らず俺に訊いてきた時にぞんざいな対応をしてその数日後母親が死に遺品のデジカメのデータを見ると俺の画像が沢山残っていた時以来だった。

いや、おかんはまだぴんぴんしているが。

HP:18
MP:0

装備:Eフリース Eパンツ

152 :>>151  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/02(土) 01:17:01 ID:3FUHnVaB
教会を出る。
ソフィアはブランカ〜エンドール間のトンネルを抜けた辺りで俺を見つけ、
そのままエンドールの教会に運び込んだらしい。
神父が死人を蘇らせる。はっきりいって、よく解らない。じゃあソフィアは村の人達を生き返らせれば良いだろうに。
制約があるらしいのだが、その辺りは神官にしか解らないのだそうだ。なんだかふに落ちない。

まあ、それは置いておくとして、とりあえずはこの言葉を操れない娘の手助け位はしなければならないので。
しかし、お互い特に当ては無い。暫くは、この街に居る事になるのだろうか。
教会から大通りに出た所で、突然俺たちは声をかけられた。

「もし…旅のお方。占いはいかがですか?10ゴールドで貴方の未来を視てあげましょう」

ぐあ!流石都会、いきなり変なのに遭遇してしまった!
ソフィアが興味津々と言った風に占い師を見ている。
どうせこの手のなんて当たるも八卦当たらぬも八卦。俺は細木○子が大嫌いだ。

だが、ソフィアが引っかかってしまっている。
田舎から出てきた小娘に任せていては、カモにされる可能性も無くは無い。
様子を見る、という事で、間に割って入りとりあえず俺が占ってもらう事にした。

「解りました。では、今日のあなたの運命をこのタロットに聞いてみましょう。
……。……。
あなたの運命を示すカードは――きゃあっ!くさった死体の正位置!
な、なんて事なの……。
探しものが見つかりますが、腐っています。
ラッキーナンバーは7837029849375843ラッキーカラーはくさった卵色です。
あの……お気を落とさないでくださいね?占いは道を示すだけ。心がけや行動次第で――」



153 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/02(土) 01:18:00 ID:3FUHnVaB
  ( ⌒ )
   l | /
  ∧_∧
⊂(#・д・)  心がけや行動次第で運命は良くも悪くも変わりますとか
 /   ノ∪  もうやってらんないっすお!
 し―-J |l| |   
         人ペタンッ!!
       □ 
     )   □   (
    ⌒)   (⌒
      ⌒Y⌒

カードを奪って地面に叩きつける俺。
腐った死体ってなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおそんなカードねえええええええええええよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
ダメだダメだ!この占い師はインチキ占い師だ!
俺が暴れ狂っている間に、インチキ占い師はいつのまにかソフィアを水晶玉で占っていた。

「貴女のまわりには7つの光がみえます。
まだ小さな光ですが やがて導かれ大きな光となり……。 えっ!?
も もしや貴女は勇者さま!貴女をお探ししていました!
私の名前はミネア。導かれし者たちの一人です!ああ、これが運命なのですね!
さあ、光の導きのままに邪悪なるものたちを倒す旅に出発しましょう!」

俺は物凄い勢いで逃げ出した。勿論、ソフィアの腕を引っ張ってさ。
代金なんてしった事じゃない。それ以上に、アレはヤバイ。
まさか真性のきち○いに遭遇するとは思わなかった。インチキ占いとかそういうレベルじゃないヤバサ。
ああいうヤツラが神の名の下に突然大量殺人とかやりだすんだ。あーやだやだ。




154 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/02(土) 01:19:06 ID:3FUHnVaB
何処をどう走ったものか。
軽く道に迷ってしまったので、ソフィアの提案でとりあえず此処からでも見えている馬鹿でかい城に一度行ってみる事にする。
なにやら、結婚式が開かれているらしい。
それも、ずっと。
なんでだ?そもそも、結婚式を何日もやるという感性が信じられない。アホか?アホなのか?
おめでたい席という事もあり、また、そうでなくても城は開放されているらしい。なんでよ。暗殺とかテロとかねーの?
もう解らない事ばかりで嫌になるんだが、此処をぐっと堪える。
ブランカでの分の償いもあったからだ。
結婚式はコロシアムで行われていた。何で、コロシアムで?いやまあ、行事をやる広場として存在するなら間違っちゃいないが、
話によれば武道大会とかもあったらしいのに、そんな血生臭い場所でいいのか…。
観客席からは、幸せそうな男女が見えた。
俺は他人の幸福を見ると不愉快になる人間だったので、
「できちゃった婚おめでとー!お腹の子供は誰の子供かな?」
と、叫んでやった。言ってやった言ってやった。
兵士らしき人影が鬼の形相で迫ってきたのでマジ逃げした。


日が落ちて、夜。
宿屋兼酒場の一階で飯を食っていると、なにやらこの地下にはカジノがあるという話を聞いた。
かくいう俺は、アミューズメント施設を利用する天才だ!だったので、一も二も無く行ってみる。
スロット、ポーカー、もんすたーばとる(って何よ?いや、システムは解ったんだが…うーむ…)
種類は少ないものの、娯楽があるだけマシなのかもしれない。
俺は折角なんで、コインを10枚入手しソフィアに遊ばせる事にした。
俺の運勢はくさった死体らしいし、彼女の眼は目新しいものを見る度にキラキラとしていたので。
コインを握り、何に使うか物色し始めるのを見届けてから、ふとスロットの方に眼をやった。
そこには痴女がいた。
うはwwwwwwヤバスwwwwwwリアル痴女なんて始めてみたよwwwwwwwみwなwぎwっwてwきwたw
上半身はまるでビキニの水着を着てるようだ。いや、肩紐すらない。
下半身も深いスリットから太ももが丸見えで、殆ど足の付け根まで見えてしまっている。



155 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/02(土) 01:19:57 ID:3FUHnVaB
  ∧_∧    
 ( ;´∀`) ヤバスwww勃ってきたwww
 人 Y /
 ( ヽ し
 (_)_)



156 :  ◆gYINaOL2aE :皇紀2665/04/02(土) 01:20:35 ID:3FUHnVaB
軽く前傾姿勢を取りながらもそしらぬ顔で口笛なんぞ吹いてみたり。
すると突然、ソフィアが視界に入って来、痴女の隣に座りコインを投入し出した。
好機(チャンス)!
俺は通常の三倍の速さでソフィアの傍により、へ〜これに決めたのか、などと白々しい事を言いながら鷹のような鋭い視線を横に走らせ必殺のちら見を開始する。
乳デカスwwwけど俺はもう少し小さい方が好きwww背中もお腹も丸出しっすかwww
童貞には刺激の強い展開に幸福な右往左往をしていたのだが、不意に肩を叩かれる。
振り向くと、にっこりと笑った昼間の電波女がいた。

いかん!俺ともあろうものが女の色香に惑わされたか!?
逃げようとソフィアの方を見ると、コインが無くなりしょんぼりとしていた彼女に、痴女がコインを渡していた。
最初は戸惑った表情を浮かべ小首を傾げていたソフィアだったが、痴女がにっこり笑うと嬉しそうに再度コインを投入し、絵柄をじっと睨んでいる。
お、おのれ、余計なマネを――って、この二人肌の色も髪の色も似てる――。

「姉さん、お願いね」
「はいよ。任せといて」

NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
くそ、この痴女…!俺を騙しやがったな!?返せよ!?俺のときめき!!!

「はぁ?エロイ顔でじっと見てた癖に何を返せっての。というか、お代を払いなさいよ。タダ見は許さないわよ?」

知るかバカ!阪神優勝!
違う!
えぇい、こうなったら俺だけでも逃げ――ちゃ、ダメだよなあ……。
これからどうなるのだろう。おかしな宗教に入信させられた挙句にマインドコントロールされて修行しちゃうんだろうか。どうせ似たような事になるなら毒電波が使える方が良いのだが。
俺が自分の将来に絶望している間に、ソフィアは(うんのよさは低いくせに)777を叩きだし、痴女と一緒に喜んでいた。はぁ。


HP:18
MP:0

装備とかかわんねーよ!

157 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/02(土) 14:25:47 ID:2PbH6cAt
◆gYINaOL2aE 天才かww
バギワロスwww

158 :[ :2005/04/04(月) 02:40:32 ID:PGukuRml
「………………。」
「………。」
俺は体に重みを感じながら目を開き体を起こした。
「ウ〜ンまだ眠ぃ」と思いなんとなく辺りを見回し二度寝しようと体を倒した。
ボフッ!
「ん…?俺の家には枕があるはずがないのにこの柔らかいのはなんだ?」
そう思いながら枕を触ってみる。
俺はすぐさま体を起こした!
「なんで枕が!?てか俺のベッドじゃねぇぞ!?」
俺は混乱したまま静止してしまった。

159 :>>156  ◆gYINaOL2aE :2005/04/05(火) 01:19:40 ID:Uxyi+lOO
電波女ことミネアが先頭に立ち、その後ろにマーニャ、ソフィアと続く。
俺は最後尾。とはいえ、名誉あるしんがりを務めている訳では無い。
一人、大量の荷物を背負わされた為に足取りが遅々としているだけだ。
その上、無理やり装備させられたこの鉄のかたまりが重い。しかも格好の悪いことにまえかけときている。
…ま、鎧はこれ以上に重くて俺にはとても装備できなかったのだが。
前の糞女どもはさっきからピーチクパーチク五月蝿く俺の神経を逆撫でする。
いつの世も、女三人寄れば姦しいとは良く言ったものだと舌打ちをする。(ソフィアは喋っていないが)
それが前二人まで聴こえたのか、ソフィアは心配そうにこちらを見、マーニャはまるで下等生物を見るような視線を俺に向けた。
俺はマーニャみたいなギャル系は苦手なのだ。あまつさえ格好が格好だからまともに眼も合わせられない。
そして、あの女はそういった機微に聡い。それを理解し、自分が優位な立場にいる事を自覚している。
これが、最もタチが悪いのだ。



「それで、あんたは勇者ちゃんとどういう関係なわけ?」

宿の一室。マーニャの値踏みするような視線に、俺は耐え切れず目を逸らす。
ミネアはミネアで、訝るような、疑うような、少なくとも絶対に良い印象は抱いていないであろう。
俺は自慢じゃないが、女に好意的な視線を送られた事など一度も無い。
無職童貞ニートですからwww本当は人と喋るのも億劫なんですよwww
成長した妹は目の周りを真っ黒にして、事あるごとにキモイという女に成長した。
姉は、出来た人で母と二人なんとか俺を人間と見てくれてはいたものの、やはりそこには壁がある。
しかも、ミネアとマーニャは姉妹、二人だ。二人というだけで、いつ、

160 :  ◆gYINaOL2aE :2005/04/05(火) 01:20:21 ID:Uxyi+lOO
         し!     _  -── ‐-   、  , -─-、 -‐─_ノ
  小 童    // ̄> ´  ̄    ̄  `ヽ  Y  ,  ´     )   童 え
  学 貞    L_ /                /        ヽ  貞  |
  生 が    / '                '           i  !? マ
  ま 許    /                 /           く    ジ
  で さ    l           ,ィ/!    /    /l/!,l     /厶,
  だ れ   i   ,.lrH‐|'|     /‐!-Lハ_  l    /-!'|/l   /`'メ、_iヽ
  よ る   l  | |_|_|_|/|    / /__!__ |/!トi   i/-- 、 レ!/   / ,-- レ、⌒Y⌒ヽ
  ね の   _ゝ|/'/⌒ヽ ヽト、|/ '/ ̄`ヾ 、ヽト、N'/⌒ヾ      ,イ ̄`ヾ,ノ!
   l は  「  l ′ 「1       /てヽ′| | |  「L!     ' i'ひ}   リ
        ヽ  | ヽ__U,      、ヽ シノ ノ! ! |ヽ_、ソ,      ヾシ _ノ _ノ
-┐    ,√   !            ̄   リ l   !  ̄        ̄   7/
  レ'⌒ヽ/ !    |   〈       _人__人ノ_  i  く            //!
人_,、ノL_,iノ!  /! ヽ   r─‐- 、   「      L_ヽ   r─‐- 、   u  ノ/
      /  / lト、 \ ヽ, -‐┤  ノ  キ    了\  ヽ, -‐┤     //
ハ キ  {  /   ヽ,ト、ヽ/!`hノ  )  モ    |/! 「ヽ, `ー /)   _ ‐'
ハ ャ   ヽ/   r-、‐' // / |-‐ く    |     > / / `'//-‐、    /
ハ ハ    > /\\// / /ヽ_  !   イ    (  / / //  / `ァ-‐ '
ハ ハ   / /!   ヽ    レ'/ ノ        >  ' ∠  -‐  ̄ノヽ   /
       {  i l    !    /  フ       /     -‐ / ̄/〉 〈 \ /!

161 :  ◆gYINaOL2aE :2005/04/05(火) 01:21:25 ID:Uxyi+lOO
などという暴言を吐かれるかと戦々恐々としてしまう。
俺が黙っているので、マーニャは苛々したのか持っていた鉄扇をバチン!と締めた。
何故、黙っているのか。どうも俺はこの状況が不愉快なのである。
子供の頃万引きで捕まり、泣きが入った時のような。
恐らく、俺という異物――ミネアに言わせるとつまり導かれし者では無い者――の存在を彼女たちも持て余しているのだろう。
このままなら、俺は彼女達からはお払い箱となり放り出されるのは明白だった。だが、それも良いと思い始めている。
それにしたって――それにしたって、酷い話だ。
俺は何も好き好んでこの場所にいる訳じゃない。
こんな――コンビニも無ければ本屋も無い、パソコンも無いまるで異世界じゃないか。
どうして、何故、こんな事になったのか。解らないのは俺だし、訊きたいのは俺の方じゃないか。
俺が導かれし者(この言い方からして、タチが悪いと思う。まるで選民思想だ。壷を買えと言い出したところで俺は驚かない)じゃない事は、俺の責では無いだろうに。
俺は半ば自棄になり、放り出すならそうすればいいと考えていた。
ソフィアだって、考えてみればいくら俺が彼女より弱いからと言って年頃の娘が男と旅なんてするもんじゃない。
女同士の方が都合の良い事は何かと多いだろうし、ソフィアがまだあの化け物達に狙われる可能性は以前消えていない。
そう、俺としてもこのまま訪れる結末は願ったり叶ったりの筈なのだ。

「はぁ。ま、いいわ。この娘は、私たちと一緒に魔物を倒す旅にでる。それは良いのよね?」
「姉さん。私たちの旅は、魔物を倒す旅じゃないわ。むしろ、世界を救う旅になるでしょう」
「――世界を、ねえ。ミネア、私はどうもそれは良く解らないわ。勿論、あんたには別のものが視えてるからそう言うのだろうし、私はあんたを信じてはいるけどね。
 で、勇者ちゃんは良いのよね?」


162 :  ◆gYINaOL2aE :2005/04/05(火) 01:24:12 ID:Uxyi+lOO
ソフィアは、こくん、と小さく、だがはっきりと頷いた。
その眼には、何処と無く暗い光が宿っているように俺には感じられた。
考えてみれば、ソフィアは両親を、育った村を、大切な幼馴染を魔物に殺された事になるのだから、
これは当然の選択なのだろう。
――それが復讐かどうかは解らない。恨むのは当然だと思う。だがそれ故に、陳腐だ。
いずれにしても、今すぐには解らずとも、ひょんな事からもしソフィアの無事が魔族に知られたら、またあの破壊と殺戮が再現されるという事でもある。
ソフィアには選択肢など殆ど無いのだ。
そして、助けてくれるという人間が現れた。これは渡りに船というヤツなのかもしれない。

「で、あんたはどうするの?――私たちの旅は遊びじゃないし、相手はバカみたいに強いヤツラ。正直な話、あんたじゃみたとこ足手まといだわ。
 無駄死には、あんたも望む所じゃないでしょ?」

それは、そうだ。
俺は死にたくない。もう、あんな思いは御免だ。
死、という感覚。あれは、ヤバイ。あの時はたまたま頭を最初に割られてしまった為か前後不覚に陥ったけれど。
思い出しただけでも身震いが止まらない。

「…お前たちみたいな胡散臭い連中に任せられるかよ。
 世界を救うだなんて、頭のねじが緩んでるとしか思えねえ。ソフィアをおかしな宗教に入信させられちゃ夢見が悪い」

だが、口を出た言葉はそれだった。
俺なりの打算はある。この世界の事を知り、そして俺がこれからどうするか、どうすればいいのかを考えようと思ったら、一つ所に留まっているのは良くない。
一人になってこの街に置いていかれて、そして元の世界に帰れなかったら俺は本気で此処に骨を埋めなくてはならなくなる。
俺一人では、もぐらにすら勝てないのだから。
だが、それもソフィアに拒絶されたなら難しいだろう。姉妹の方は、俺の存在は邪魔でしか無い筈だから。
だから、ソフィアを見た。彼女は――俺の言葉を聴いて、嬉しそうに微笑んだのだった。
しかしその笑みは何処か――何処へのものだったろう。
それは、『俺を通して俺じゃない誰かへ向けた笑み』のような。そんな気がした。



163 :  ◆gYINaOL2aE :2005/04/05(火) 01:24:48 ID:Uxyi+lOO



ビキリッ!

「はぉう!?」

幼い姪と戯れていたときに間違ってか故意にかは知らないが少女の正拳突きが股間に入った時のような声を上げる俺。
いかん…持病の椎間板ヘルニアが…。
極端な話、俺の場合はギックリ腰になり易いというだけであるが。
ズキンズキンと大地を揺らすような痛みが腰にリズミカルに打ち鳴らされる。
これは…も、もうダメだ…。

「なによ。もうへばったの?ま、良いわ。今日の目的地は、ほらあそこに宿屋が見えるでしょ?きりきり歩く!」

前方にはなるほど、宿屋らしき建物が見える。
…どうもその奥には、砂漠が広がっているかのように見えるのだが、俺は夏休みの宿題は最終日にまとめてやるタイプだったので見なかった事にする。
死に物狂いでそこまで歩く。途中からどうやらランナーズハイに入ったらしく、痛みが気にならなくなりまた一つ人体の神秘にお目にかかってしまった。
宿屋の主人に代金を払い、部屋を取る。マーニャが仕切り、大部屋を一つ借りたようだが…嫌な予感がする。
荷を置いた後、俺たちは二手に分かれる。
野宿をしていた時もそうなのだが、ソフィアはミネアに剣を習い、俺はマーニャに(途中からミネアも混ざり)魔法を教えられていた。
ソフィアの腕は中々のものらしく、ミネアには余り教える事はできないらしいのだが、それでもまだミネアの方が強いらしい。
人は見かけによらない感じだ。
そして――本来、マーニャもミネアもソフィアに魔法を教えるつもりだったらしいのだが、彼女が喋れない為に急遽俺にお鉢が回ってきてしまった。
はっきり言って、ちんぷんかんぷんで俺はこの時間も辛いのだが、足手まといは悔しいし、身を守る術はやはり欲しかったので素直に師事を仰いでいる。
だが、マーニャも理論は苦手なのかそれとも俺の覚えが極端に悪いのか、余り眼を見張る成長ができているとは言い難い。


164 :  ◆gYINaOL2aE :2005/04/05(火) 01:27:10 ID:Uxyi+lOO
「はぁ。あんたダメだわ。才能ないよ」

らしい。鬱出し脳。
俺がOTZしていると、マーニャはけらけらと笑いながら足で小突いてきた。

「あ、そうだ。そういえば、勇者ちゃんっていつから言葉が喋れないわけ?」

突然の問い。
――いや、それは解らない。言われてみると、確かに少し気にかかる。
あの失語症は、先天的なものなのか、後天的なものなのか。
俺が解らないと答えると、マーニャはふーんと言ったきりその話は終った。
中々、ソフィア本人に訊ねるのはタイミングが難しいと思う。
そんな事を考えていると、ミネアとソフィアが戻ってきた。
ソフィアが落ち込んでいたので何かあったのかと訊ねると、砂漠越えに馬車を使えないかと持ち主に交渉したのだが断られたらしい。
そういえば、宿屋の隣に馬小屋もあった気がするが――あ!?
俺はぐるん!と、物凄い勢いでマーニャを見た。あの痴女は、俺がドキリとするような色っぽい笑みを浮かべた。


そうして、俺は馬小屋で寝ている。
明日には少し臭くなっているかもしれない。

PS
そういえば、道程でレベルが上がったようです。頭の中にメッセージがぐわんぐわん響いて死ぬかと思いました。
幸い、それだけだったので脳を破壊されずに済みました。
普通はちからとかかしこさとか上がるものじゃないかなあとも思いましたけど、まあ、しょうがないかなと思いました。

HP:18
MP:0

E:てつのまえかけ E:パンツ

165 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/07(木) 23:21:45 ID:Pbt91LrN
保守

166 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/08(金) 01:01:53 ID:eBzA3gBv
すごい良作だ
最後まで見守りたい

167 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/08(金) 02:06:04 ID:GOfJZbOr
>>166
禿同。

ソフィアの話を書いてる職人タソ応援してるからガンガッチー(つ∀`*)

168 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/08(金) 15:19:50 ID:fnkRkf71
みんなも妄想しようぜ

169 :>>164 裏切りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/04/09(土) 03:54:02 ID:6YT4HN6l
あのジプシー姉妹、誰に似てるって叶姉妹に似てるんだ。
別に顔は似てないがゴーマンな姉と少し控えめな妹というあたりが。
いやあ、納得がいったよね。(いかない?だったらゴメン!)
だけど俺は現状に納得がいかないんだ。
何がって?
藤岡弘ばりに洞窟の探検に赴いた俺たちを待っていたのは、いきなりの落とし穴だった事さ!そりゃテンションもおかしくなるYO!
ばか、ばか、まんこ!いきなり一人ぼっちとか無理すぎだろ!?最初のダンジョンにしては難易度高いじゃないか!!

きっかけはフジテレビだった。
違う、これは今はもう遥か遠い世界のキャッチフレーズだ。
そうきっかけは、あのホフマンとかいうDQNのせいだ。
あいつが素直に俺たちに馬車を献上していればこんな事には…って、まあ考えてみると、
譲ってくれって方が無理がある気がするんだが。
この『裏切りの洞窟』の中に、『しんじるこころ』という名の宝石があるらしい。
馬小屋で眼を覚まし、テンションの低いままぼーっとしている間にいつのまにかそれを取りに行く事になっていた。
今思い返せば、洞窟なんぞにこないで宿屋で待っていれば良かったのに…。
いや、それも叶わぬ願いか。どうせ荷物もちに担ぎ出されただろう。
兎に角、今は何とか脱出を目指さなければならない。
ひたり、ひたり。
己の足音がまるで自分のものである気がしない。
ぽたり、ぽたり。
何処かで水滴が落ちているのか。暗闇の中、松明の明かりで床を照らしてみると僅かに濡れているようである。
そういえば、洞窟に来るまでに橋を渡った気がする。
周りを水が走っているのだとしたら――嫌な感じだ。
水、というのにどうしてこうも不安になるのだろう。俺のゲーム知識では水は大抵優しいウンディーネの結晶だというのに。
溺死のイメージ。溺れるという事。何処かで記憶に刻み込まれているのだろうか。
俺は何気なく腰に手をやった。そこには、ソフィアのお下がりの銅製の剣がある。
それだけで、少しだけ気が楽になった。
手探りで進むうちに、やがて昇り階段らしきものを発見した。
俺は慎重に、気配と足音を俺なりに消した上で足を進める。

170 :裏切りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/04/09(土) 03:54:41 ID:6YT4HN6l
――キィン。

澄んだ音が響く。
階段を抜けた先の広間には、ソフィアと、叶姉妹が烈しい剣戟を響かせていた。

「――な!?」

溜まらず、驚きの声を上げてしまう。これが俺の経験の浅さだろうか。
切り結んでいたソフィアとミネアは直接俺の方を見ず、マーニャのみがその鋭い視線をちらりと俺に向けた。
えぇい、バレちまっちゃあしょうがない。

「何――やってんの」

その何とも間の抜けた問い。それに、まずマーニャが答えた。

「良かった、心配していたのよ。――それが、私たちにも解らないのよ。
あの後、ソフィアともはぐれてしまってようやく見つけたと思ったら、突然後ろから……」

心配?心配だと?胡散臭SEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!
ぷんぷん臭うぜええええええええええええええとまあジョジョっぽい感想を抱く。

「ソフィアさんは何者かに魔法をかけられているのかもしれません。
幻惑呪文か混乱呪文か…兎に角、動きを止めないことには調べることもままならなくて…」

と、ミネア。
妹の方は――電波ゆんゆんだが、受信している時以外はとても優しかった。
ソフィアの事を本当に心配しているように思える。

「――――――――……………………」


171 :裏切りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/04/09(土) 03:55:44 ID:6YT4HN6l
そして、彼女は喋らない。言葉を紡ぐ事ができない。
一瞬だけ視線が絡む。だが、彼女はすぐにそれを外し、今一度――大剣を構えた。
はがねのつるぎ。
エンドールで俺が家に帰る手段を模索していた時に、ボンモールへと足を伸ばした彼女が手に入れた剣呑な光を反射する武器。
そう、それは銅の剣などとは比べ物にならぬ程の『武器』であった。『武器』は、容易に全てを傷つけ犯し、殺す。
ソフィアはそんなものを――同じ人間に、共に行こうと言ってくれた仲間に、振るおうとしているのだ――。

そんな事は、させたくないと。胸の奥で感じた。

だから俺は腰に差した銅の剣を抜いた。鋼の剣と比べると、余りに脆弱な武器だったけれど。
だけど脆弱だから、少なくとも彼女を傷つけずに済むと思った。
一歩、二歩と足を進める。
彼女を傷つけずに済んだとしても、俺は傷ついてもしかすると死んじゃうかもなあとも考える。
恐怖に足が震えた。それでも、がくがくと震える足を無理やりに前に出した。
三歩、四歩。
俺は姉妹を背に、ソフィアと対峙する。
そうして、こんな事は止めてくれ、と頼んだ。
ソフィアが伏せていた顔を上げる。
瞳が、強烈な光を放っていた。俺の心身はその光芒に飲み込まれる。
涙を決して浮かべるものかという、彼女の決死の意思が俺を貫く。
唇が動く。少女のものにしては鮮やかに朱い。
彼女は言葉を紡げない。だけど、その時俺には何故か彼女の言葉が聴こえた気がした。
読唇術なんて気の利いた技術なんて持ち合わせている訳が無い。そんなものは漫画の中でしか出来なくて、俺は現実の通りに鬱になるくらい無力で。
だから俺が出来た事は唯(たった)一つ。――彼女にはきっと確信があるのだ。だからソフィアを、信じる。

172 :裏切りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/04/09(土) 04:07:51 ID:6YT4HN6l
ソフィアが身体を弓のように引き絞り、剣を突きの形に構える。
一足飛びで俺との距離が詰まる。俺の身体ごと貫かんとするかのように――だが刀身は俺の身体を避けて――体当たりをするかのように俺へと身体を浴びせかけた。
ドン、と俺の身体は弾かれる。その反動で、ソフィアもまた逆方向に身体を流す。
後ろからミネアが繰り出した槍の穂先は、今まで俺が居た空間を通過した。迷い無く繰り出された穂先は、本来ならば俺ごとソフィアを貫いていたのだろう。
――ズス、ン。
大剣がミネアの柔らかい身体を貫いた。それは、俺が今迄聞いてきたどんな音にも似ていなくて。
思ったよりも乾いた音だと思ったのも束の間、ぐちゅり、と臓腑が軋む音が響いた。

その時、既に俺の身体は動いていた。

ソフィアが剣を引き抜く前に、首を掻っ切ろうとマーニャが伸びた爪を閃かせる。
俺は無我夢中で剣を振るった。
スパッと、何かを薄く切り裂いたような、そんな手応え。
だがそれはそんな生易しいものではなく。
マーニャは首から噴水のように紅い水を撒き散らし、その場に崩れた。
……会心の一撃、というヤツだろうか?は、ハハ――。
バカな事を考えて意識を逸らそうとした努力も虚しく、俺は突如訪れた嘔吐感に従い胃の中のものを吐き出してしまう。

「――うぐっ、おぇぇぇぇ……」

ソフィアが背中を摩ってくれる。明らかに年下の娘に対して、余りに恥ずかしく情けない姿なのだが、そんな事を考えられる余裕はとても無かった。
殺した。殺してしまったのだ。人間を。仲間を――。
此処は、裏切りの洞窟。
こうやって、あのホフマンという男も…。
瞳に涙が浮かんできてしまう。だが、決してそれを零すまいと必死で堪えた。
どんなに人を嫌おうと、殺してしまいたいと思ったとしても、そんな事は絶対に実行してはならない事だと解っていた。
今でも昔と変わらず解っているのに、今の俺は解っているなんておこがましくてとても言えない。
どうして、と。何故、が。ぐるぐると渦巻く中で、それでもまだ神父に診せれば間に合うんじゃないかという考えに至ったのは僥倖なのだろうか。
慌てて身体を起こそうとした、その時。ソフィアが、俺の背で指を動かしているのが解った。
何度も何度も、同じ軌道を描く。少しして、彼女が何をしているのか理解した。

173 :裏切りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/04/09(土) 04:09:05 ID:6YT4HN6l
『大丈夫』

自然と、深い呼吸が為される。
そしてもう一度マーニャとミネアの死体を見てみると、そこには彼女たちの屍は無く。
恐ろしげな顔をした小鬼(と、言ってもホンモノの鬼を見た事は無いのだが、俺が持っていた鬼のイメージに近かった)のようなモノが二匹、斃れているだけだった。
考えてみれば、そうだ。俺の一撃なんかでマーニャが死んでしまう訳がない。
それもまた、それはそれで身震いが起きるし、この手で何かを殺した、という事実は変わらないのだが。

『信じて』

何を――何を信じろと言うのか。
ソフィアを信じろと言うのか。
マーニャとミネアはこんな簡単に斃れたりはしない。俺に斃されたりする彼女たちが本物である筈が無い。
それが、マーニャとミネアを信じるという事なのか。
だが、それらは余りに俺に都合が良すぎる――独善的な信頼のように感じられる。
信じるとは――なんなんだ?依存とは違うのか?
俺はさっき何を信じた?マーニャとミネアの言葉を聴いてソフィアと対峙し、そうしてソフィアの声無き声を聞き、彼女を信じた。
ソフィアを信じて、マーニャとミネアを信じなかった。
しかし、あのマーニャとミネアは本物の彼女たちじゃなかったんだ。
――だからといってマーニャとミネアを信じなかった訳じゃないなんて言うのは――卑怯じゃないのか。

答えは、無い。

ループしかける思考の渦を、頭を振ることで辺りに散らす。
こんなところで立ち止まっている訳にはいかない。今は、それに縋るしかなかった。
洞窟の探査を続ける中で、俺たちは再度、姉妹を見つけた。
彼女たちは俺たちの偽者に襲われたらしく警戒しており、ソフィアに質問を投げかけていた。
ソフィアは首を縦横に振り、危なげなく解答し、姉妹の信を得た。俺については、ソフィアが大丈夫だと言うのなら大丈夫だろう、という事らしい。
信頼したものである。だが、それは俺も同じで、ソフィアが大丈夫だと言うのなら、この姉妹は本物だと思えた。

174 :裏切りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/04/09(土) 04:10:23 ID:6YT4HN6l
俺は、ソフィアを信じたのだろう。そうして、マーニャとミネアも同じく。
――では、ソフィアは何を信じたのだろうか?
マーニャとミネアの姿をした魔物と迷い無く対峙したソフィア。
本物のマーニャとミネアを見つけた時は、姉妹とは対照的にまるで警戒した素振りも見せなかったソフィア。

洞窟の最深部にて。
俺たちは、『しんじるこころ』と呼ばれる宝石を手に入れた。
その宝石は確かに、視る者の心に優しく触れるような光を放っている気がした。

帰り道。
ミネアが荷物を少し持ってくれ、腰にホイミ(俺も習っている治療魔法)をかけてくれた。ミネアに言われて、マーニャもぶつくさ言いながら手伝ってくれた。
ソフィアは元より、手伝ってくれている。
彼女の胸元には、『しんじるこころ』が光っていた。
その光を見ていると、何かが頭に流れ込んでくる気がした。それは知識というよりも、理解そのものに近い。



175 :裏切りの洞窟  ◆gYINaOL2aE :2005/04/09(土) 04:24:46 ID:6YT4HN6l
きっと、どれもが真なのだ。
信じる、という行為。その在り方はそのどれもが正しいんだ。
マーニャとミネアの強さを信じるのも真ならば、彼女たちの言葉を信じるのも間違っていないんだ。
例えばそれが偽者の騙りで、その後悲劇が待っていたとしても、信じた行為そのものは究極的に偽である事は無い。
勿論、盲目的なのもダメだし嘘に騙されてしまってはダメだ。
だからこそ、常に客観的な視線を心がけなければならないし、騙されない為には相応の知識と齟齬を見抜く直感もまた必要になる。
俺はあの時マーニャへの違和感とソフィアの視線を受け理屈は解らずとも、ソフィアの意思と確信を信じた。
俺がそれ以上の確信を持てた時は、こちらが信じてもらう側に立つ。それが、盲目的な信頼や依存とは違う、信じるという行為。
そうしてそれと同時に発生する――覚悟、というものの存在をも『しんじるこころ』が照らしてくれたのだろうか。
……信じること自体は、既に出来ていた。足りなかったのは、ソレなのだろう。……いや、そう。俺に足りないのはきっと、その覚悟だけでは無い……。

俺はソフィアだけじゃなく少しずつでも、マーニャとミネアの事をより知る事で、より信じたいと思っている自分が居る事に気がついた。
そうしてそれこそが、『信じる』という事の始まりなのだとも。

HP:32
MP:5

Eてつのまえかけ Eパンツ Eどうのつるぎ

176 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/09(土) 10:18:45 ID:redecWxs
もう本だそうぜ

177 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/09(土) 11:38:32 ID:f2uGkWd+
段々感動的になってる
。゚・(ノД`)・゚。

楽しみで仕方ない。ラスボスまで頑張ってください

178 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/09(土) 23:19:49 ID:kPLROIXy
HPとMPが増えてる。
ってことは魔法使えるようになるのか?

179 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/10(日) 00:03:23 ID:dBq/kS80
ソフィアが話せない=呪文が唱えられない
ってことで、◆gYINaOL2aEが呪文担当になるんだとみた。

180 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:28:40 ID:rtNruwFh
太陽がジリジリと情け容赦なく辺りを焦がす。
砂漠の真ん中で、天幕を張り日陰を作り、そこで俺たちは休んでいた。
暑い昼間をこうやってやり過ごし体力を温存し、夕方と明け方に移動するのだ。
って漫画で言ってました!提案自体はホフマンのものだがー。
しかし、砂漠の辛さは想像以上のものだった。日陰を作ったとしても、昼間は沸騰するような暑さの中をじっとしていなければならないのだ。
歩けば、砂に足を取られる。唯でさえ暑さで体力を奪われているのに、ここでも消耗してしまう。
極めつけは夜の冷え込み。
これが、また寒いのだ。服を数枚重ねないと間違いなく風邪をひいてしまうだろう。
マーニャなどは昼は殆ど素っ裸の格好で、それでも暑い暑いと不平を漏らし、
夜になるとショールを胸の前で合わせ、ぶるぶると震える始末である。
まさか本当にこんな行程を進む事が俺の人生の中であるとは思わなかった。
溜まった疲労にぐったりとしていると、ホフマンが水を持って来てくれた。
『しんじるこころ』を手にしたホフマンは、まるで人が違ったような青年へと変貌していた。
不思議なもので、顔に浮かんでいた険も綺麗に消えてしまった。
そうして、彼は馬車と一緒に旅の同行を願い出た。
最初、ミネアは迷うような表情をしていたが慣れない砂漠越えの為か、俺という前例の存在故か。
ソフィアの快諾に、異を唱える事は無かった。
俺はというとそんな事はどうでもいいから馬車が欲しかった。
願いは叶い、ようやく大量の荷物から解放された事は特筆するべき出来事であり、
俺は自分史にこの日を『荷物地獄の解放』と名づける事にする。これが革命の第一歩なのだろう。
毎日の業務に馬の世話という項目も追加されたが、殆どホフマンがやってくれるので楽なものである。
その分、彼女たちに師事を仰ぐ時間が増えたのだが。

「大丈夫ですか?ああ、余り一気に飲まないでくださいね。湿らせる感じで」

手渡された水筒から零れる水を口に含む。
くぁー五臓六腑に染み渡るねぇ!
俺はありがとう、と礼を言う。基本がヘタレな俺は知り合って日が浅い相手には丁寧語や敬語を使う事の方が多い。
たまに例外もあるが(主に導かれてるらしい電波たち相手に)

181 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:29:35 ID:rtNruwFh
「頑張ってください。この砂漠を越えた所にアネイルという街があります。
そこには温泉もありますから。砂埃も落とせますよ」

「詳しく」

俺のシンプル且つ身を乗り出しながらの物凄い喰い付きに一寸気圧されたかのような表情を浮かべるホフマン。
今の何を詳しく言えと言うのか解らないといった感じだ。

「え?ええ、ですから、アネイルという街があって、そこの名物は温泉なんです。
露天風呂もあるんですよ」

エロイベントキタ━(゚∀゚)━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━(゚∀゚)━ !!
天に向かって拳を衝き上げる。我が生涯に一片の悔い無し!!
いや、ちょっと早いか。
しかし…しかしですよ…くそ、たまらん!
    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J
俺は我慢できず突き上げた手を振り始める。
この動作には何か神性力すら感じるのか、ホフマンは痛い人を見る眼をし始めていた。



アネイルの町。
南にある港町コナンベリーに比べると小さな町だが、湧き出している温泉のお陰でちょっとした観光地になっている、らしい。
しかしそもそも旅人いう概念が存在しているのかどうかも怪しいと思う。
今は丁度魔物が暗躍しているという噂のせいもあるのだろうか。
やれ、子供が攫われたとか、やれ、船が沈められたとか。そういった噂話はエンドールでもブランカでもよく聞いた。
それでも町の中に入ってしまえばそこは平和である。


182 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:30:12 ID:rtNruwFh
町の入り口でとりあえず宿を探そうかと相談していた所に、突然、頭から角を生やした男が話しかけてきた。
すわ、ミノタウルスか何かか!?と思いきや、そういう帽子らしい。そういえば別の町でも見かけたか。流行っているのだろうか?
どうやら男は観光地案内を生業としているらしい。きっと、いつも暇なんだろうな…と考えると、
何かの力が発動したか、公園でスーツを着てブランコに座ってる自分の姿が思い浮かんだ。
涙無くして語れない物語を男の角に見た俺も、皆と一緒に男の案内を受ける事にする。
ありがちな店屋紹介から始まり、墓場まで連れて行かれる。
墓場!?アホかこいつ――何でも、リバストとかいう戦士が眠っているらしい。
そんな事言われても――あー、函館が土方歳三の記念館とか作るのと同じノリなのか…。
けど、土方とか楠正成とか織田信長とかでもない限り墓を紹介されてもなあ…どうせ、村勇者レベルなんだろうし…テンション下がるわぁ。
続いて、教会へ入る。
此処には、例のリバストが使ったと言う鎧が展示されていた。
なんとも豪奢で立派な鎧に俺には見えたのだが、ミネアの眉間に皺が寄っている。
教会を出た所でこそっと訊いてみると、彼女は少し驚いてから、小さな声で教えてくれた。

「あの鎧は、恐らく模造品です。何の力も感じませんから…」

うはwww電波きてるwwwいやきてないのかwwwまあ、直感、なんかなあ?うーん……。
しかし、あの鎧が本物だったとしたらどうしたんだろうか。
……世界を救うために、譲ってくださいか貸してくださいかくらいは言いそうな気がする。
殆ど強盗だよな……いや、そういう場合俺が止めるべきなのか?常識ありそうなのが俺しかいないってどうよ。いや、ホフマンも大丈夫か。
角の男が最後に案内した場所。そここそが本日のメインこと温泉だった。

「やった〜温泉よ温泉!これはもう、絶対入っていくしかないわよね!」
「私は温泉ってちょっと苦手なんですけどね。どうしてもこの臭いが好きになれなくて…とはいえ、背に腹は変えられません」

姉さんたち乗り気ですよ!みwなwぎwってwくwるwwwwww
よーしパパ頑張って今日の業務をこなすぞー。
異常にやる気を出している俺に、もう見てらんない、と言った感じのホフマンだった。

183 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:38:56 ID:rtNruwFh



「んー。そう、そういう感じ。ああ、いや違うなあ。こう、もっと、ぶわーっと」

マーニャの指示が飛ぶ。解るかそんなもん!とは口が裂けても言えない。
決して口答えせず、物を投げられても泣かない。それがマーニャに師事する際のたしなみ。
だが、時として彼女は理不尽な怒りをも向けてくる事があるので口論も多い。
大抵最後には俺がはいはいと従うのだが。
今日はそれでも機嫌が良い方だったようで、何も飛んでこなかった。

「ま、最初の頃よりはマシになってきたかな」

今は、魔法を扱う際の基礎の基礎、魔力の充填、という作業をやっている、らしい。
らしいというのは、俺にその実感が無いからである。やっている事はありがちな精神統一の真似事だ。
なんというか、軽くカルトだよなあ、とも考える。だけど、少なくとも彼女たちは犯罪を助長する事は無いと思う。
…時々、非常識な事も言うけど、多分。
マーニャやミネアに言わせると、微々たるものだが魔力が生まれてきているらしいのだが。
いずれにしても、魔法を扱うレベルにはなく、ようやくスタートラインに立ったと言った所のようだ。

「あんたみたいなのは珍しいのよねぇ。私たちは基本的に、生まれた時から――先天的に僅かながらも魔力を持っているのに。
中にはほんの少しも持たないで生まれてくるのもいるわ。だけどそういう人は結構良い身体能力を持ってたりするのよね。
持たざるが、逆に持つ事の証になる筈なのに――あんたは何なのかしらね。中途半端?」

ぐさぐさと俺の心にナイフを突き立てるマーニャ。俺の繊細なハートはレンコンのようになってしまっている。
俺的には魔法を使えるようになるのはこのまま30歳まで童貞を守った時だけなんじゃないかと思うのだが。
その際に使える魔法の一覧が確かこんなもんである。

184 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:40:36 ID:rtNruwFh
○マホカンタ : 自分に向けられた「キモイ」等の罵声をそのまま相手に返す
○凍てつく波動 : つまらんギャグを飛ばして周辺を凍らせる
○コンフュ: 意味不明な発言で周囲を混乱させる
○メガンテ:自虐ネタで周りを巻き込みます
○サイレス: 空気を読めないとんちんかんな発言で周囲を絶句させる
○臭い息: 周囲の人間をことごとく不愉快な気分にさせる
○マヌーサ: 自分自身に幻影を見せ、現実に対する命中率を下げる
○グラビデ: 重苦しい雰囲気や嫌われオーラで周囲の人間を疲れさせ、体力を削り取る
○ラスピル: 周囲の人間を精神的に疲れさせ、精神力を削り取る
○バイキルト: 周囲の人間に不快感を与える力が倍増する
○トラマナ: クリスマス等にカップルだらけの街を一人で歩いてもダメージを受けない
○トヘロス: 自分の周囲に人が近寄ってこなくなる
○アストロン: 自分の殻に閉じこもる
○テレポ: 飲み会などの喪男が苦手な場から脱出する
○スカラ: 周囲の「キモイ」等の罵声や嫌がらせに対する忍耐力アップ
○フバーハ: 世間の恋愛至上主義の風から身を守ります
○メテオ: 高層ビルから飛び降りる 
○ザラキ: 周囲の人間を練炭自殺に巻き込む
○死のルーレット: 練炭自殺する仲間を周囲の人間の中から無作為に選ぶ
○死の宣告: 練炭自殺する仲間として指名する
○レムオル: 周りから注目されません。空気のようにいないと認識されます。
○ルーラ: 仕事が嫌になるとバックレ、自宅にひきこもる  唯一の安息の地である家にまっすぐ帰る
○ラリホー: 昼間なのに自分を眠らせる
○ラナルータ: 自分だけ昼と夜を逆転させる
○メガザル: 合コンに行くことで周りの男の評価を相対的に上げます
○バシルーラ: バイト先などで人がどんどんやめていきます。もしくは、自分を転勤で地方に飛ばします。
○ドラゴラム: ネット上では竜のようになります
○エナジードレイン: 貯金が減っていき、生活レベルが下がる。
○リレイズ: 高額生命保険

うはー夢が広がりんぐwwwwww


185 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:41:33 ID:rtNruwFh
「ま、少しでも得られるものがある以上鍛えるとしても…はー。出来の悪い生徒は面白くない。
今日はもういいや。ミネアん所に行きなさい」

しっしっと邪険に追い払われる。
俺はとぼとぼと宿の庭を目指した。ちなみにマーニャの鶴の一声で安宿ではなく高い方の宿になっている。
そこでは、相変わらず元気にソフィアとミネアが動き回っていた。
旅の中でソフィアの強さは素人目にもはっきりと解るほどに成長している。
ミネアも、はっきり言ってかなり強いのだ。そこらの魔物には引けを取らない。
だが、それ以上に――ソフィアが強くなってしまっている。
やって来た俺に気づいたのか、一旦二人は剣を納めた。
ここから、剣術の基本的な講義に入るのが最近の俺たちのスタンダードである。
ソフィアは村に居た頃、剣の師匠が居た為に、一通りの事は知っているのだがミネアのより実践的な講義は得るものがあるらしい。
俺はこっちに来るまで剣を振るった事など一度も無かった為、これも一から学んでいる状況である。

「うん、中々筋が良いですよ」

講義が終れば即実践。
ミネアの台詞だから少なからずお世辞は入っているのだろうが、褒められて悪い気はしない。
これでも、スポーツはそこそこ良い成績を納めてきたプライドもある。
腰が悪いから長時間は耐えられないが、電撃戦専用になれば良いかもしれない。シャア専用みたいで格好良いし。
とはいえ。こっちもとても実用レベルに達しているとは言えないのだが。
スコンと木刀が頭に打ち込まれる。俺は呻きながら庭をごろごろと転がった。ソフィアが、それを見て笑っていた。

186 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:49:38 ID:rtNruwFh



日が暮れる。今日は都合により晩餐は省く。
何故なら、温泉の事で頭が一杯で何も覚えていないからだ。
俺は男部屋(マーニャが珍しくも男女に分けて部屋を取ってくれた。考えてみると馬車の所有者ホフマンがいるからかもしれないが)に戻った後、
壁に耳を当ててじっと身じろぎ一つしない。
ホフマンはそんな俺を傷ましそうな眼で見ている。
俺はどうでもいいような場合の他人の視線は異常に気にするが、気にした方が良い所では妙に(゚3゚)キニシナイ!!困った人間であった。
マーニャのはしゃぐ声が聞こえる。それを、ミネアが嗜めている。
そうして、扉が開く音がして、無音。
ミッションスタートだ!

こちらスネーク。脱衣場に到着した。大佐。指示をくれ。
今回はスニーキングミッションであるというのに高性能ぬるぽBOXならぬダンボールが無いことが不満であり不安だが、
世界の平穏の為に何としてでも成功させなければならない――ホフマン、そこでガッて言ってよ。
一通り辺りを窺う。ぬお!?あれは――脱いだ服か!?
性欲を持て余す――いやまてまて。まだ早い。
そもそも脱衣場に来たのが間違っていた。俺は、服をつまんだり、着てみたり、匂いを嗅いだりという変態的な事はしたくない。
脱衣場を脱出し、本丸こと露天風呂の裏に回る事にする。
途中、ホフマンが(どうやら脱衣場には入らず外で待っていたらしい)不安そうな声で訊いてきた。

「あのぅ…やっぱり止めた方が…」

何を言うのかな君は。
俺たちは、仲間なんだ。だけど、仲間だと言葉で言ったからそうなるもんじゃない。
信じるって言うのは、お互いを知る事じゃないか。俺たちはもっと知り合わないとならないんだよ!!
秘密の時間を持っていたりしたら、そこから疑念が浮かんできてしまうものだからね…。

俺の説得に、ホフマンは大分感銘を受けたようである。しめしめ。

187 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:50:14 ID:rtNruwFh
こそこそと忍び足で裏手へと回る。
ホフマンは結局ヘタレたのか、先に宿に帰っていった。
実の所、俺もどうも慣れない事をしている気がする。
覗きは犯罪だし、本来の俺ならこんな事はしないと思うのだが。
しかし何故か――大いなる意思というか、それとも普遍的無意識とでも言うのか――そういったものに操られている?
うーん、ミネアの電波が移ったか?
無理やりこじつけるとするならこれは――修学旅行で風呂を覗く、ような。そういった、ネタ的な感じがしている。
昼間定めたポイントに来る。露天風呂は大小様々な石で囲まれていたが、大きな隙間には薄い木で壁が作られていた。
俺はゆっくりと調合したドーピングコンソメスープを服用する。

                 
     _
   ( ゚∀゚)x"⌒''ヽ、         さあ、空けよう。
   (|     ...::   Y-.、    
    |  イ、     ! :ヽ       トルネコという大商人がエンドール〜ブランカ間のトンネルを開通させたように。
    U U `ー=i;;::..   .:ト、
          ゝ;;::ヽ  :`i      俺は栄光への架け橋となる扉を開く。
            >゙::.   .,)
           /:::.  /;ノ
     ゞヽ、ゝヽ、_/::   /   
     `ヾミ :: :.  ゙  _/            
       `ー--‐''゙~

※表現に誇張有り

鍛えた腕に剣を持ち、全身全霊を籠めそぉっと穴を空ける。否、開ける。
ゆっくりと中を窺う。湯煙が酷いが、どうにか目を凝らし……。

――そこは確かに、一つの理想郷。
――多くの男たちが目指すエルドラドの形であった。

188 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 03:50:48 ID:rtNruwFh
風呂から立ち昇る煙で、見えるようで見えないと言った按配なのだがそれ以上に俺は見惚れてしまっていた。
真雪のように白い肌。お湯に濡れて光るうなじに、緑色の髪が張り付いている。
普段はあれは天然パーマなのか、くるくるっとした髪が元気な印象を与えていた少女だったが、
濡れた為にか、髪の毛が肩から背にまで落ちてきている。
香り立つような爽やかな色気。決して濃密では無いのに、確かに神経をくすぐる。

「私は戦士リバスト。私の鎧は天空のよろいと呼ばれていた。
しかし、何者かが我が鎧を盗みいずこかへと持ち去ったのだ」

突然、後ろから声が聞こえた。
だが人の気配はしないので、振り向くまでもなく幻聴だろう。というか、今は振り向けんよ?
白い少女に、褐色の肌を持った女が抱きついた。
成熟した肢体が現界する。膨らんだ胸。くびれた腰。締まった尻が、見事な曲線美を描いていた。
心臓の鼓動が早くなる。先ほどの少女を見た時は何故か儚い気分になって、これは幻想かと思わせる何かがあったのだが、
女は非常に肉感的で、現実的だった。

「旅の者よ。どうか我が失われし鎧を見つけ出して欲しい…」

まあ墓場が比較的近いし、心霊現象も起き易いんだろう。そんな事には構っていられないが。
二人から少し離れたところに、一人の女が居た。
彼女ははしゃぐ二人を見つめている。その表情は解らなかったが、優しそうな雰囲気を感じた。
まるで、慈母。聖母のような、緩やかで、穏やかな空気。
程よい女らしさを持った身体に泡を纏わせ、ゆっくりとお湯で洗い落とす。
――お湯が、胸から腰へ、腰から脚へと滑り落ちていく――。

189 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 04:00:41 ID:rtNruwFh
「――娘たちよ。此処に覗きがいるぞ!」

突然、後ろから大声が響いた。
俺が驚いて振り返ると、そこには壮年の男が立っていた。
男はにやりと笑うとすーっとその姿を消してしまった。
眼をこしこしと擦り、改めて見てみるがやはりそこには誰もいない。
なんだったのだろうか――やはり、幻か。今の声も。
ほっと安堵の息を吐き、俺は再度穴を覗く。
と、突然バシャっという音と共に眼に水が飛び込んできた。

「ぬおおっ!?」

溜まらず呻いて眼から異物を取り除く。
回復した視力が俺に伝えた者は――タオルで身体を隠した二匹の、夜叉の存在だった。

「…………あんたねえ…………」
「…………姉さん。止めないわ。いえ、私も…………」

いやいやまてまて。これはだな。こう、お互いをより深く知る事で強い絆を生もうという俺なりのレクリエーションと言うか何と言うかここに二人がいるという事はさっきの水はソフィアなわけk


190 :砂漠〜アネイル  ◆gYINaOL2aE :2005/04/10(日) 04:01:28 ID:rtNruwFh
    _, ,_  パーン
 ( ‘д‘)<ただ見は許さないって言ったでしょ
  ⊂彡☆))Д´) >>俺

        ┼─┐─┼─  /  ,.          `゙''‐、_\ | / /
        │  │─┼─ /| _,.イ,,.ィ'    ─────‐‐‐‐ゝ;。←俺
        │  |  │     |  |  | イン ,'´ ̄`ヘ、   // | \
                          __{_从 ノ}ノ/ / ./  |  \
                    ..__/}ノ  `ノく゚((/  ./   |
        /,  -‐===≡==‐-`つ/ ,.イ  ̄ ̄// ))  /   ;∵|:・.
     _,,,...//〃ー,_/(.      / /ミノ__  /´('´   /   .∴・|∵’
  ,,イ';;^;;;;;;;:::::""""'''''''' ::"〃,,__∠_/ ,∠∠_/゙〈ミ、、
/;;::◎'''::; );_____       @巛 く(. (  ゙Y} ゙
≧_ノ  __ノ))三=    _..、'、"^^^     \ !  }'        2HITS!!
  ~''''ー< ___、-~\(          ,'  /         GOOD!!
      \(                 ,'.. /

ミネアに見事にホムーランを打たれた俺は綺麗な星空を漂う。
夜空を見たら、思い出して欲しい。
あの、最も薄く輝いている星が俺かもしれないという事を……。



ちなみに、身体のラインや肌の色なんかは見えたが肝心な部分は何も見えなかった。
鬱だ…orz

HP:2
MP:5

Eてつのまえかけ Eどうのつるぎ Eパンツ

191 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/10(日) 11:08:12 ID:UOzet5+s
HP減ってるよww

192 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/10(日) 15:01:08 ID:LH1gY9U4
すげww
ギャグと文才が凄い
ガンバレ

193 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/10(日) 20:41:28 ID:oJAVIDKa
まじグッジョブw
そこでリバストの台詞を登場させる辺りセンス最高!
文章も面白いし、最後まで言ったら泣くわ、俺w

194 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/10(日) 22:38:13 ID:00I4ZKxh
なぜか既に泣いてる俺がいる。

195 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/11(月) 22:37:08 ID:x8jFvdjM
続きまだ?

196 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/11(月) 22:45:09 ID:LY0+Y1fa
>>195
まぁ書いて貰ってるんだから気長に待とうや。

197 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/11(月) 23:21:59 ID:9Nz62urA
他の人はどうなってるんだろう。

198 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:14:37 ID:EiAPlCEj
アネイルを更に南下するソフィアと愉快な仲間たちは港町コナンベリーに辿り着く。
今までの旅の道のりは、主にソフィアが決めている。姉妹が相談に乗るのは稀で、もっぱら俺と二人で打ち合わせている。
ミネアとマーニャはソフィアに導かれているらしいのだ。
勇者であるソフィアに導かれる者たち。少なくともミネアはそう解釈しているようだった。
しかし、俺にはそれが引っかかる。
まだ10代後半の少女に少し背負わせ過ぎでは無いか、と。
マーニャたちは悪い人間では無いし、出会った頃よりかは少しは打ち解けてきた気もするのだが、
どうも時々首を捻らざるを得ない事がある。これも、その一つだ。
いや…ひょっとすると、彼女たちにも余裕が無いのかもしれない。
普段は明るいマーニャが、時折沈み込む事があるという事実に気づいたのも最近だ。
ソフィアに優しく朗らかに接するミネアが、瞬間だけソフィアに縋るような視線を送るのも。
俺の視界が広くなっているのか。…そうかもしれない。俺も、今迄余裕があったかと問われたなら否定せざるをえないのだから。
日々の業務に追われているから不安を感じる暇も無いのだが、
それでも新しい町や村では、元の世界に戻る法を探している。
その度に失望し、やるせない気分になりはするのだが――それでも、自暴自棄にならずに済んでいるのは、
マーニャにミネア、ホフマン、そしてソフィア――彼女たちのお陰であろう事は自明であった。
現状はまるで良くなっていないけれど、それでもこの連中と共に在る時間が増える分だけ、余裕ができているのかもしれない。

ソフィアとの相談の結果、とりあえずはコナンベリーまで出よう、というのがエンドールを出る時の方針だった。
勿論それには理由があって、

・ボンモール以北には田舎村が一つしかない事。
・北西にはサントハイムへの道があるらしいのだが、現在サントハイムは情勢が不安定である事。
・エンドールから出るハバリア行きの船は、あちらの港が封鎖された為に暫く出る予定が立たない事。
・コナンベリーなら船が一番安く手に入ると思われた事。大陸間移動や未開の地に行く可能性を考慮すると船は必要不可欠である事。

199 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:15:43 ID:EiAPlCEj
などである。
まあ何が言いたいかと言うと、こっちしか道が無かったという。
しかし、魔物と呼ばれる化け物達もさるもので。此処にも勢力を置いていたらしい。

「さて。これから灯台に向かう訳だけど。
んー。私たち以外は初めてよね。魔物の巣に向かうの」

マーニャの言葉に俺たちは顔を見合わせる。
言われてみれば、確かにそうだ。裏切りの洞窟はこっちの姿に化けるヤツラだけだったし、
草原や砂漠などといった所謂町の外は、化け物達の巣と言った感じでは無かった。

「今日はゆっくり休みましょう。
準備だけは怠らないようにしてくださいね」

女部屋での打ち合わせの後、部屋を出た所でマーニャとミネアに呼び止められた。

「あんたは無理に行かなくてもいいわよ?」

マーニャが少し、突き放した感じでそう言った。
確かに考えてみると、わざわざ魔物の巣の中に入ろうなんてのはかなり酔狂な話だ。
なんでも、港を照らす灯台が魔物に占拠された為に、海が完全に支配され船が出せないそうな。
コナンベリーに来た目的は船の入手でもあったから、このままでは面倒だと言う事で俺たちが灯台の解放に向かうという筋書きである。
ソフィア、ミネア、マーニャは言うに及ばず、ホフマンがこれまた強いのだ。
彼は所謂魔力を持たない人間で、その分身体的に優れた才能を持っているタイプであり、
攻撃の力や防御の技術こそソフィアに及ばないものの、体力は一行の中でかなり抜きん出ていた。
戦力外は、詰まる所俺だけなのである。
俺の存在が戦局を有利にする事は無いだろうし、逆に不利になるケースはあるかもしれない。
結局の所、足手まといなのだ。
だが――マーニャの言葉には、それ以外の意味もあるような気がした。
勘違いだろうか。そうかもしれない。他人の機微を悟るのは苦手で、友達も多いタイプでは無かったので。

200 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:17:08 ID:EiAPlCEj
「いずれにしても、船を手に入れる為にはどうやっても港に戻ってきますし、今更貴方を置いて行こうとは私も思いません。
勇者様…ソフィアさんもホフマンさんも、良い顔はされないでしょうし」

此処で待つ。きっとそれが賢い選択だ。
だというのに。それだというのに――俺は、つまらない意地を張っているのだろうか。
もしくは、仲間外れにされるのが嫌だから?
子供の頃、かくれんぼで必死に隠れていたらいつの間にか皆帰ってしまって、一人で家に帰った記憶が蘇る。
あの時、俺は出迎えてくれた母親にどのような顔をしたのだったろう。
それは思い出せなかったが、唯――悲しかった思い出。
理由はそれで良いだろうか?いい大人が…バカにも程があるが。
今の俺に、命を張ってでもついていく理由は無い。
だが、もし此処で彼女たちを見送ってしまったらもう二度と――そんな、予感がするから。
俺は、俺の意思を伝えた。ミネアは黙って頷いてくれ、マーニャはいきなり背伸びをして、俺の頭を撫ぜた。



それは、想像を遥かに超えて巨大だった。
人々が大灯台と呼ぶに相応しい偉容を放っている。
俺たちはゆっくりと前進を始める。
先頭には初めてミネアでなくソフィアが立った。次いで、ミネア、俺、マーニャ、殿にホフマンである。
大抵の、知能の足りない魔物は大概前から順に狙ってくる事が多いのだが、
これを逆手に取るヤツラもいるらしい。
壁伝いに進むうちに、やがて昇り階段が見えた。

「――」

ソフィアがさっと手を振る。それに反応し、俺たちは皆身構えた。
階段の前に何かが居る――その、何かもまた俺たちに気づく――やいなや、何やらごむまりのような挙動でこちらに近づいてきた。

201 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:18:24 ID:EiAPlCEj
「おお!何方かは知りませんが丁度良い所へきてくれました!
この灯台にともっている邪悪な炎を消すつもりでここまで来たのですが、
魔物たちが強くてこれ以上進めなかったのです。
お願いです!私に代わって、邪悪な炎を消してきてくれませんか?」

転がるようにしてこちらの懐に飛び込んできた男は、一気にまくしたてながらソフィアの手を取って懇願している。
見た目は中々鈍重そうなガタイなのに侮れないおっさんだ。

「ええ。私たちもそのつもりで来ましたから。貴方は、ひょっとしてトルネコさんですか?町の皆さんが心配していましたよ」

「なんと!?それは心強い!いやあ、町の人には大見得を切った手前戻りにくいですがそうも言ってられませんな。
それでは、私は一足先に戻ってます!」

言うだけ言って、突き出た腹をぼよんぼよん揺らしながら場を立ち去ろうとする。
だが、これは――つまり、あの有名な商人トルネコが此処に向かった、というのは――町で聞き込みを行った俺にとっては想定内の出来事だったので。
それとなく彼の前に立ち塞がり、こう言った。

「トルネコさん。貴方は武器商人だって聞いたんすけど、何か良い武器は持ってませんか?」

「武器、ですか?ふぅむ、そうですなあ――天空の剣には及びませんが、中々の業物ならありますよ。
勿論、値は張りますが……」

天空の云々は何処かで聞いた気がしたのだが、思い出せないのでとりあえず今は置いておく。
現在、金はまとめてソフィアが管理している。確か、数千Gはあった筈だが――。
そこまで考えたとき、ミネアに耳打ちされたマーニャがずいっと俺の前に出た。

「良いわ。譲ってちょうだいな」

「ふむ、ふむ――そうですな。私には、このそろばんがありますし…それに、この灯台の魔物を何とかしなければどうしようもない。
私は、人を見る眼はあるつもりです。あなた方に託す意味も込めて、勉強しますよ」

202 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:23:39 ID:EiAPlCEj
その位なら、タダで譲ってくれても良いのになあと思ったものだが、
マーニャが機嫌よく金を払っているので何も言わない事にする。
こうして、俺たちは一振りの剣を手に入れた。トルネコが、最後に一つお辞儀をして、脱兎の如く塔から出て行った。
逃げて行った、が正しいかもしれないが。

「――はじゃのつるぎ、ですね。確かにこれは良い剣です」

くくっと刀身を水平に掲げ、改めてその業物を見定めるミネア。
そうして、ソフィアに手渡す。
ひゅっひゅっと二度、素振りをしたソフィアはその剣が気に入ったのかにっこりと笑って見せた。

「けど、良かったのか?今のは結構な出費だと思うんだけど…」

俺はトルネコを呼び止めた責任を感じていた。
確かあの金は、コナンベリーで船を買う為に貯めていたものだった筈である。

「良いんですよ。――何故なら、トルネコさんも導かれし者ですから」

ミネアの台詞が一寸、要領を得ず俺は小首を傾げる。

「導かれし者は、ソフィアさんと出会えば何かをするまでもなく集うものです。
ですから――結局の所同じ事なんですよ。幾らで買ったとしても。お金などは共有するのが私たちのルールでしょう?
今建造中のトルネコさんの船も」

軽く背筋に悪寒が走るのを感じる。
ミネアは、ぺろっと小さく舌を出して見せた。
そうか、あの時マーニャに耳打ちしていたのはそういう事だったのか。
最初から道を共にする事を解っていたから――恐ろしい。大商人と呼ばれる男をペテンにかけるとは。
いや、トルネコ自身も決して損をする訳でもないのだからペテンでも無いのか……。
トルネコ自身の意思で、ソフィアの元に集うというのならそれは彼の責任だから。
それにしても、何かをするまでもなく集うと言い切るミネアの自信には舌を巻いてしまう。

203 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:27:48 ID:EiAPlCEj
ソフィアが今迄使っていた鋼の剣が不要になった為俺に回される事になった。ゆるやかに力を込め剣を握り、軽く振ってみる。
道中で一度試しに持った時は構えることすらままならなかったが、
今はかろうじて装備できるようだった。すぐに腕が震えてきそうだが。

「ま、それもこれもあんたがあそこで引き止めたからだし、これで少し楽になるわね。
珍しくグッドジョブじゃない」

マーニャがぐりぐりと肘を当ててくる。俺は照れ笑いを浮かべていた。
俺が成そうと思っている事。喋れないソフィアの手助けをする。それが、有り金をはたいてまで俺を生き返らせてくれた彼女への、
せめてもの礼であり償いだから。
今迄の道中もそうだし、現在、そしてその先も――いつまでかは、解らないが。



ソフィアの先導が良いのか、探査は順調に行われた。
途中、天井に頭をぶつけて気絶した魔物の額に『にく』と書いてみたり、安置されていた種火を手に入れてみたり。
…いやあ、前者のようなアホな魔物がいる以上思ったより大した事なさそうだ。
種火も普通に置いてあったし。
最後の階段を上る途中、壁にゆらゆらと影が映っているのが見えた。
ソフィアがまず最初に昇り切り、手招きをする。
そこには、不気味な黒い炎を囲んで踊る虎がいた。
しかも二足歩行だ。
俺たちはその奇妙で、陽気な宴に僅かに眼を奪われた。
それまでが順調だった為に、油断もあったろう。


204 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:32:09 ID:EiAPlCEj
「けけけ。ケケケ。燃えろ、もえろ。邪悪な炎よ。その光で全ての船を、沈めてしまえ」

あの魔物を倒して、先ほど手に入れた種火を投げ込めばイエス!ミッションコンプリィィィ!!だ。
ソフィアが駆け出す。それに倣い、俺たちも散会しながら前に出る。
絶妙なタイミングだった。
二足歩行の虎が、躊躇なく黒炎の中に手を突っ込み、こちら目掛けてその炎を投げつけてきた。
二筋の火炎が縦に走り、散会していた俺たちを分断する。
いや、分断するて。思ったより冷静だな。いや、ついていけてないのか?
左右に視線を走らせると、それぞれ炎の壁の向こう側で、ソフィアとミネアが、マーニャとホフマンが、
炎が人を真似たような姿をした化け物と対峙している。
そして、俺の目の前には。
あの、二足歩行の虎がいた。

「けけけけ。此処までやってくるとはバカな人間だ。
丁度良い!この、炎の中に投げ込んで、焚き付けにしてやるわ!けけけけ」

間の抜けた笑いをあげる二足歩行の虎を前に俺は――思ったよりも落ち着いていた。
あの笑い方が余り恐怖を煽らないのもあるが。
どさりと背負っていた荷物を床に降ろし、腰に下げていた鋼の剣を構える。
ソフィアによって使い込まれた剣は、実によく馴染むのだ。
新品を使うより、お下がりにした方が良い、というのは何も金をケチった訳ではなく理に適ったものだった。
…ミネアはともかくマーニャはどうか知らないが。
剣を腰ダメに構え、一歩、踏み出したその瞬間――。

「グオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!」

――何が、起こったのか。
理解できずに頭が真っ白になる。視界の隅で、ミネアとマーニャが何か叫んでいた気がするけれど。
二足歩行の虎が、遅々とした動きで俺に近づいてくる。
それなのに、それなのに、頭では理解しているのに身体が動かない。
眼前にまで迫ったソレは、俺より頭一つ分大きく、その爪は見るからに剣呑な光を湛えている。
動かない、動けない俺を目掛けて、虎はなんの躊躇いも無く圧倒的で凶悪な膂力を振るった。

205 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:35:01 ID:EiAPlCEj


「く、退きなさい! 炎熱(ギラ)!」

パン!と、勢い良く開かれる鉄扇が合図のように、放たれた炎が扇型に広がる。
だが、橙色の炎はあっさりと人を模った黒い炎――ほのおの戦士に飲み込まれてしまった。

「くぅ〜!私の魔法が効かないなんて…」
「マーニャさん!ほのおの戦士を幾ら倒しても、あの炎がある限り何度でも出てくるかもしれない!
何とかあの虎を…!」
「そんな事言ったって――」

マーニャの目の前には、黒い壁が立ち塞がっている。
今の様子では、此処から虎めがけて魔法を放ったところで、結果は目に見えている。

「氷結呪文なんて、覚えてないわよ…!」

きりりと歯軋りの音が響いた。

206 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:37:33 ID:EiAPlCEj


「―――――!」

嵐のような剣戟が、炎を吹き散らす。
だが、炎はゆらゆらと揺らめいたかと思うと、すぐに再び人を模った。

「ダメです、ソフィアさん!焦ってはダメ!攻撃が荒く――」

ミネアの喚起は今一歩の所で届かず、ほのおの戦士の右拳がソフィアの腹にめり込んだ。
盛大に弾き飛ばされ、床を滑る。ミネアが慌てて駆け寄り、治療呪文(ホイミ)を施した。
剣を杖に立ち上がるソフィアを見て、ミネアはどちらの提案をしようかと迷う。
即ち、犠牲を強いて勝利を得るか否か。
彼女とて、できる事なら全員無事に全ての戦いを終わらせたかった。
だが、現実は時に厳しくて、それがままならない事はこれから幾度あるか解らない。
誰かが嫌な役を引き受けなければならないのなら、自分がやるべきだとミネアはそう思う。
――しかし。
やはり、それは最後の最後であるべきだ。決断を誤れば大惨事になる事であったとしても。

「ソフィアさん。あの黒炎の壁とほのおの戦士は私が引き受けます。ソフィアさんは――」

207 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:40:41 ID:EiAPlCEj


どれだけの時間、気を失っていたのだろう。
此処はまだあの灯台のようで、少し離れたところにはあの虎がいて。ほんの僅かな意識の喪失だったのか。
ずきんずきんと痛む胸に無造作に手をやると、そこにはある筈の鉄のまえかけが無く、生暖かい感触と共にべったりと、真っ赤な鮮血が彩った。
痛い。
先ほどのは、あの虎の雄叫びだったのだろう。身の毛がよだつとはまさにこの事で、
俺は丸っきり身動きが取れなくなってしまった。
怖い。
今迄、自分がどれだけ庇護されていたかを思い知らされた。
この世界で俺はそれなりに頑張ってきたつもりだったけど、それでも俺の傍には常にソフィアが居た。
マーニャが、ミネアが、ホフマンがいた世界で、魔物との戦いを殆ど彼女らに任せっぱなしで来ていた。
そのつけが、回ってきているのだ。
俺はどうしてこうなのか。元の世界でも、俺は人並みに苦労していると思っていた。
こっちの世界に来てからも、荷物持ちに日々の修練と、それなりに大変な思いをし、努力もしてきたと考えた。
それなのに――何のことは無い。俺は常に庇護されていて、それが無くなった途端――痛みを嘆いて、恐怖に震える始末だ。
左手で身体を起こしながら、右手で床を探る。――あった。俺の、剣。
傷は痛いし、魔物は怖い。目の前には俺の身体を傷つける為に存在する、虎の爪。そして、退路も、無い。
それでも――それでも。いつかこうなる事は解っていたから。俺に足りないのは諸々の覚悟だという事をあの洞窟で知った時から。
俺は、敵を殺す。
そこには、魔物だとか人だとか、そういう区別は無い。
戦わなければならないんだ。戦わなければ生き残れない。それは、世界によっては命を奪う事や身体を傷つける事では無いかもしれないけれど。
何かを傷つける事には変わり無い。
痛いと思うことも、怖いと思うことも、止められないかもしれない。
だけど、それで情けなくうろたえる事だけは最後にしよう。無理かもしれない。それでも最後にしたいとそう想う。


208 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:43:34 ID:EiAPlCEj
身体を前に傾けて、一直線に虎目掛けて突貫する。
再び、ヤツの雄叫びが灯台内に響き渡る。だが――俺の足は止まらない。
右手から、強烈な火炎が吹き荒れたかと思うと黒炎を貫き、唸りを上げて虎へと襲い掛かった。
大炎熱(ベギラマ)――黒炎の向こうでマーニャがぱちり、とウィンクする。

「真空(バギ)!」

左手からはミネアの裂帛の気合が響き、巻き起こった真空の刃が黒炎を吹き散らし道を作る。
飛び出してくるのは碧の疾風だ。
まるで羽が生えているかのような跳躍で、人で言う所の鎖骨の辺りに破邪の剣を突き立てた。
痛みと苦悶の咆哮を上げながら、肩に乗るソフィアを弾き飛ばす虎。
――だが、その彼女に向けた意識が、致命。
俺が両手で突き出した鍛えられた鉄の刃は、吸い込まれるかのように虎の首を刺し貫いた。
ごぽり。
口から血泡を漏らしながら、ヤツが最後の爪を振るう。
俺の背中に三本の筋を残し、虎の巨体は床に沈んだ。

ソフィアが種火を黒炎の中心へと投げ入れる。
たったそれだけで、あれほど吹き荒れていた黒炎は散り散りになってしまった。
かろうじてほのおの戦士だけが実態を伴っていたが、ホフマンとミネアによってそれぞれ消滅の道を辿る。

「――やぁれやれ。なんとかなったわねぇ」

鉄扇でぱたぱたと扇ぎながらマーニャがぼやいた。
軽く生死の境をさ迷っていた俺はホフマンに肩を借りてかろうじて立っていた。ミネアが治療をしてくれる傍らで、ソフィアが鉄のまえかけを持って立っている。
虎の返り血に塗れた少女。その時の俺には彼女が美しく見えた。
手を、くるくると跳ねた髪の毛に埋めて頭を撫でると、少女は僅かに眼を細めた。

209 :大灯台  ◆gYINaOL2aE :2005/04/13(水) 02:46:03 ID:EiAPlCEj
「お前は……凄いよな」

俺の呟きに、ソフィアは要領を得ないといった顔をする。
ミネアなんかは、勇者に何を当たり前の事を言っているんだと言いたげにしていた。

「俺も……」

どうしようもなく照れてしまって、それ以上が言葉にならない。
鼻をこすってから、いつもの薄ら笑いを浮かべて誤魔化す事にする。
だがこの時、どういう訳か――俺自身も、そして誰もが気持ち悪いと感じるであろう薄ら笑いを見た筈なのに、ソフィアは力強く頷く事で肯定を現したのだった。

「今より強くなれますよ。きっと」

少女はホフマンの言葉に我が意を得たりといった風に笑うのだった。



HP:48
MP:12

Eてつのまえかけ Eはがねのつるぎ Eパンツ

210 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/13(水) 02:49:21 ID:5K4PLBtK
>◆gYINaOL2aE、乙。
いやーなんか…言葉が浮かばないわ…
これ本当に、最後まで読んだらオレ泣くかもしんない…

211 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/13(水) 10:57:08 ID:jUuDvGzt
いやー、すごいね。
たいへんだろうが、さいごまでがんばってくださいね。
つづき、きたいしてます。

212 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/13(水) 19:10:43 ID:wFvKq9aP
心の底からありがとう。
続き、楽しみにしてるけど、無理はしないで。応援してる。
なんて真面目に感動しちゃって全くこの歳にもなって俺何やってんだろwwww

………きっと、忘れられない物語になる。

213 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/13(水) 19:14:15 ID:vwzeOixo
一番最初に書いた人の続きを見たいんだが

214 : :2005/04/13(水) 19:44:07 ID:XSSVtv/B
俺も。

215 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/13(水) 21:09:59 ID:1rhsVexR
まとめてみました。補完よろ。


勇者7 >>7-11,34,42-43

勇者◆WVtRJmfCVI >>55,65-68,108-114,140-146

勇者◆nnvolY11AA >>75-76,85-92,115

勇者79 >>79-82

勇者◆.zipDxMVwg >>93-94,116-118

勇者119 >>119-122

勇者◆4c5D9CKRFI >>127-128

勇者◆gYINaOL2aE >>133-137,147-151,152-156,159-164,169-175,180-190,198-209


どの勇者さんもガンガレ!

216 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/13(水) 22:34:17 ID:Yrdh/ocX
>>215


しかし、まさかここがこんなに良スレになるとは思ってもみなかった

217 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/13(水) 23:02:07 ID:MYeKqe/h
>>215
乙。もちろん作者の皆様にも乙
>>216
良スレなんてそんなものさ。

そういやあ去年にもよその板でほんの少しスレタイが似た良スレを見たな。
みんな「目が覚める」とかにひきつけられるのか?w

218 : :2005/04/14(木) 02:54:40 ID:sEosDhqm
まぁ、俺としては家庭用ゲーム板の「もし自分の住んでる街がバイオの舞台になったら」の
パクってみただけなんだが…こういう妄想は誰でも一回はするよな…

219 :海〜ミントス  ◆gYINaOL2aE :2005/04/15(金) 00:48:04 ID:g3ssHpzA
広くて大きな母なる海。
美しい海原にゲロを撒き散らす俺。
なんかダメだ。折角決意も新たになったというのになんでこうダメなんだろう。
そもそも俺は船なんて殆ど乗った事が無いんだ。
精々が北海道〜東北間のフェリーくらいで、あの時も沿岸部をちょっと離れただけで酔ってしまった。
あまりの気分の悪さに船室に居る事もままならず、甲板に出てきたのだが、
案の定吐いてしまっていた。
まあ、吐くものさえ吐いてしまえばフェリーの時は多少楽になったので、今回もそれに期待したい。
船足は順調だった。スクリューのついていない帆船の為、風が重要になるらしい。
しかし…乗船してるのは俺たちのみというのはどうなのだろうか…せめて船員がいないと航行にも支障をきたすと思うのだが。

「あんたがやるのよあんたが。ま、全部とは言わないけど」

さいですか。はぁ。
そりゃ全部俺一人にやらせようものなら楽勝で転覆するわな。
暢気に日光浴をしているマーニャから視線を外し、ブリッジの方を見ると、ホフマンとトルネコが何か話している。
この二人、共に商人という事もあって、中々話が尽きないらしい。
特にホフマンにとってトルネコは敬意を払うべき相手のようだった。
まあ、俺やソフィアにしても彼がエンドール〜ブランカ間のトンネルを開通させていなければ、
今頃どうなっていたか解らないのだが。
奇妙な縁と言わざるを得ない。

「汚したら、自分で掃除してくださいね」

大量の洗濯物を抱えたミネアが俺の前を通り過ぎる。
大丈夫。ちゃんと海に全部吐いたから。甲板には漏らしておりません。
それにしても、潮風がウザイ。
情緒を感じるには今の俺のテンションは相応しくないらしい。
太陽は普通に照っているし、風も鬱陶しいくらいにびゅーびゅー吹いている。
まあこの分ならすぐに着くだろう。地図によればそう遠くない。
コナンベリーから南に舵を取り、ミントスの街へ。
処女航海という事もあり、近場の新たな大陸へ行ってみようという事になったのだ。

220 :海〜ミントス  ◆gYINaOL2aE :2005/04/15(金) 00:50:36 ID:g3ssHpzA
すとん、と。俺の眼前に急に現れるのは碧の少女だ。
いやお前は別にそれでも良いだろうがな俺の方はそういう現れ方をされるとびっくりする訳でこんな位置でのけぞったら船から落ちるだr

「――!」

何やら身振りで船の向かう先を指差している。
見張り台に登っていたソフィアのこのリアクション、此処はお約束の台詞を言えるチャンスか!

「陸がみえたどー!!」

違う、どじゃない。どじゃないんだ。肝心な所で噛む己に萎える。
そんなしょんぼりな出来事もあったけど、船は順調に接岸するのであった。
ちなみに船はそのまま放置である。良いのか…。いや、何も言うまい。



ホフマンが出て行った。

工エエェェ(´д`)ェェエエ工なんでやねん!
何やらこのミントスの町にいる爺の元で商人の修行をするらしい。
ちょっと待てと。お前パトリシアどうするんだと。

「可愛がってくださいね!」

俺がかよ!?アホかお前!?
俺はお前がこの一行の最後の良心だと思っていたのに――裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じに、裏切ったんだ!
某ロボットパイロット並に相手を一方的に責めてみるが、どうやらホフマンの決意は固いようだった。
一緒に風呂も入った仲のホフマンが去るというのはとても寂しいのだが、夢を叶えようとする友を止める訳にもいかないのか。
これからの旅路を思うと溜息しかでない。しぼむ〜〜。
飴をくれる年上なのに外見は幼いキャラがいれば和むのになと妄想しながら荷物を降ろす為、宿屋に行く。
一行の最後尾で廊下を歩いていると、途中の部屋のドアが僅かに開いていた。
特に意識を向けた訳では無いのだが何気なく、見る、というより視界に入ってしまった、が正しいだろう。

221 :海〜ミントス  ◆gYINaOL2aE :2005/04/15(金) 00:51:20 ID:g3ssHpzA
おまwwwちょ、まwww
俺は余りに動揺してしまってつい前を歩いていたマーニャの手を掴んでいた。
マーニャが何よ?と問うてくるのを、俺はぷるぷると震える指でドアの隙間を指差す。
そこには、とてつもない頭をした老人がいた。
うはwwwこれは久しぶりにクォリティ高いwww
あんな風に禿るってどんな遺伝子www
頭頂部が綺麗に禿げてる上に、髭と揉み上げと側頭部が繋がっている。
俺も最近、額が広くなってきているような気がするので頭に関して心無い事は言いたくない。
しかしあれは…側頭部の白髪が鬼の角のように、まるで意思を持っているかの如く重力に逆らっているのである。
ソフィアのとも違うのだ。彼女のはパーマっぽいのだが、あの老人は真っ直ぐだ。なんと骨のある髪の毛だろうか。
整髪しているのだとしても、老人の何と強き意思の顕現か。
俺とマーニャは二人でテラワロスwwwしていたのだが、その間に荷物を置いたソフィア達がやってきた。
笑いを押し殺している俺たちに怪訝な顔をした後、ミネアがこんな事を言い出した。
なんでも、この宿屋には重病人がいるらしいのだが、それがミネアは気になるらしい。
ソフィア、ミネア、トルネコの三人が目の前のドアに入っていくので、俺とマーニャはドアの入り口付近で待機する事にする。
それ以上近づくと笑いが堪えきれないかもしれないので。
ミネアが老人に話しかける。どうやら、老人の仲間がどんな病をも直ぐに治してしまうという薬を取りにいったらしい。
なんとも都合の良い物があるんだなとニヒリズムに浸りかけていた俺を、ある天啓が呼び戻した。
早速隣のマーニャに小声で話しかける。

222 :海〜ミントス  ◆gYINaOL2aE :2005/04/15(金) 00:52:35 ID:g3ssHpzA
(……もしや、あの頭は病気なんじゃ!?)

(ええ!?そんな…つまり、禿げは病気だって言うの?)

(そんな事はないよ。禿げは病気じゃない。童貞が病気じゃないように)

(それは病気なんじゃないの?)

(違うよ!?童貞だからって病人だとか社会不適応者とみなされるのは俺の世界だけで十分だ!)

((・∀・)ニヤニヤ。まあ良いけどね。後半は何のことか解らないけど)

(そうじゃなくて姐さん。禿げは病気じゃない。だけど、あの頭はちょっと凄すぎる。――そう、禿げこそ、健康な部位なんじゃないか?)

(――はっ、ま、まさか!)

(そう!きっとあの爺さんの仲間は、あの髪の毛をきちんと脱毛する為に神秘の秘薬を求めて旅立ったんだよ!!!)

223 :海〜ミントス  ◆gYINaOL2aE :2005/04/15(金) 00:54:00 ID:g3ssHpzA
俺の素晴らしい推理にマーニャは、な、なんだってーと驚いてくれた後ぷくくくと笑いを噛み殺していた。
そんなアホ話をしている間にもミネア達と老人――ブライの話は続いていたらしく、
どうやら本当の所は、ベッドで寝ている男が病で動けなくなった為にアリーナと言う娘が一人で薬を取りにいったらしい。
だが、その娘が中々戻って来ず、やきもきしていたようだ。
どうにか娘を探し出して手助けをしてもらえないかと懇願された所で、
俺はソフィアに近づき、2,3言葉を交わした後彼女の意志を伝えた。
ブライは喜んで、自分もお供すると言い出し、宿屋の者にベッドで寝ている男の事を頼みにいった。
…それなら最初からそのアリーナとかいう娘についていけば良かったのに。

都合よく、ホフマンが宿屋の番頭に立ち修行を始めたようだったので、
俺たちからも病の男――クリフトの事を宜しく頼み、翌日、俺たち6人は一路万能薬を求めて旅立つことになった。
とりあえず、笑いが堪えられない為にブライをまともに見る事ができない。新手の拷問かこれは。
ツボにはまるという事の恐ろしさを実感しつつ、道中今までとは別の意味で厳しい旅になるかもしれないなと思った。



HP:48/48
MP:12/12

E鉄のまえかけ Eはがねのつるぎ Eパンツ

224 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/15(金) 01:05:39 ID:GjHUF3NS
試演


225 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/15(金) 07:46:15 ID:qcVyr5jp
二人のアホ話にテラワロスww

226 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/16(土) 17:44:44 ID:ACW9K0bk
パンツが変わらない男、素晴らしい頭の悪さだw
マーニャがすげぇ身近な人種に思えてくるこの不思議。これからも頑張って下さい。
そしてトルネコ出番ねぇーw

227 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/17(日) 11:02:43 ID:x50lI8kS
そういやトルネコいたんだっけ
忘れてたw
まあ人質候補1だもんな

228 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/17(日) 18:24:22 ID:hcvZZE/t
age

229 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/17(日) 18:27:47 ID:qa+1hdz6
びっくりするよな!?人がみんな同じこと言って同じルート歩いて…

230 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/04/17(日) 18:39:09 ID:YJ35HqdW
とりあえず教会いってセーブする

231 :幕間 princess & knight ◆gYINaOL2aE :2005/04/18(月) 02:18:22 ID:TovaKWsu
従者の病を治す為、薬草を求めて出立したサントハイム王国王女、アリーナ。
これだけを聞くと中々感動的なストーリーだが、大体において伝わる話とその実態には齟齬がある事が多い。
今回のケースでは齟齬とまではいかないかもしれないが、
いずれにしても――彼女は、この旅を心から楽しんでいた。
彼女にとってみれば、随分と長い間待ち焦がれ、何度も無理やりにその手に掴み取ろうとして叶わなかった願い。
念願の一人旅、である。
ミントスの町から東へ進み、ソレッタの村へ。
道中で現れる魔物をたった一人で撃破し、見事に辿り着いて見せた。
彼女は美しいと言うよりはまだ愛らしい外見であったが、それよりなにより、生気に溢れたその姿が見る者を魅了して止まない。
サントハイム王家には代々、魔力の強い者、それだけに留まらず特殊な力を発揮する者が産まれて来たが、
残念ながらアリーナ姫に魔術の素養は皆無であった。
だが――はたまた、それ故にか。
ただひたすらに強かった。それに加えて未だ成長途中だというのがおかしいのだ。
人は、実のところそれほど無力な存在では無い。
子供や老人でなければ、例えミネアの言う導かれし者では無かったとしても、そこそこに戦えるものは少なからず居る。
しかし、人と魔物を比べた時に、どうしても超えられない壁があるのもまた、事実であった。
そしてアリーナ姫は――導かれし者達の中でも抜群の、それは時に勇者すら超えかねない――才と器を備えた少女なのだ。
現段階の実力で言うならば、噂に名高いバトランドの王宮戦士辺りならば互角かそれ以上の者もいるかもしれないが、
こと、身体的・肉体的な素質に関して言うならばアリーナに勝るものはいないと言っても過言では無い。

232 :幕間 princess & knight ◆gYINaOL2aE :2005/04/18(月) 02:19:21 ID:TovaKWsu
さて、そんなお姫様であったが、ソレッタの村で手に入る筈だったパデキアが既に絶滅して久しい、と言うのには少し困った。
幸いなことにこういう場合に備え、冷気の満ちる洞窟の奥深くに種を残してあるらしいのだが、
そこは現在魔物の巣になっており、村の人間では取りに行く事ができないらしい。
――なんとお誂え向きのシチュエーションだろう。
勇んだ彼女は早速、洞窟へ向かおうとしたのだが、珍しくも一つの思案をする。
果たして、己一人で目的を達成する事ができるだろうか、と。
これが『魔物の棲家になっている洞窟を探検する』だとか『洞窟に篭もって修行をする』だとかなら、
一人で行って戻ってくるという行為自体に意味も出てくるのだが、
今回はあくまでパデキアの種を入手するのが最優先、手段と目的が入れ替わることがあってはならない。
これはブライがいつも口を酸っぱくして語る教えの一つであった。老人がこの場にいたなら感激したかもしれない。
アリーナはブライに甘えている所があるのか、老人が居る場合だと事の外彼の教えを無視して無茶をしたがる傾向があったので。
さて、となるとやはり一人では難しいかもしれない。
事は一刻を争うので悠長に何度も赴く訳にはいかないし、そうなると治癒の術が使えるものは必須である。
魔物を蹴散らして進むのが探査する際に効率的である以上、戦士の頭数もあるに越した事は無い。
洞窟に入る必要があると事前に解っていればミントスで募る手もあったのだろうが――そうすると、今度は道中の速度が下がっただろうし、
いずれにしても過ぎてしまった事をごちゃごちゃと言っても仕方が無いと気持ちを切り替える。
そして、アリーナはたまたまソレッタに逗留していた世界を救う旅をしているらしい戦士一行の手を借りる事にした。
だが――。




233 :幕間 princess & knight ◆gYINaOL2aE :2005/04/18(月) 02:19:56 ID:TovaKWsu

「――逃げ足、速いわねぇ」

ふぅ、と軽くぼやく。
そもそも、鍵のかかった扉をアリーナが蹴破った時点でどうもビクビクしているようだった。
最初は若い娘の頼みだからかへらへらと二つ返事で同行を受けてくれた彼らであったが、
アリーナの予想外の実力と、洞窟内の魔物の強さとに完全に恐れ戦いてしまい――逃げ出してしまったのである。

「ま、良っか。こうなった以上は私が一人でパデキア手に入れてみせるわ…!」

逆境に燃えるタイプなのか、苦境に立たされた後でも彼女の炎は消える所かより燃え盛るばかりであった。


「あ〜!苛々する〜!なんなのこの床は〜!」

ダン!
余りに燃え盛ってしまった炎は捌け口を求め、今回は床に霧散する。
アリーナは洞窟の仕掛けに非常に苦労していた。
どうしても床が滑ってしまって目の前にある階段に辿り着けないのだ。
こういう場合はいつもクリフトやブライが彼女を宥めると共に、仕掛けを解いてきたものなのだが――。
つきん、と痛んだ拳を唇に当てる。
魔物との連戦の際に負った怪我だ。もう少しで、薬草も尽きてしまう――。
その焦燥が、隙を生んでしまう。
突如横合いから巻き起こった大気の変動にアリーナは対処し切れず身体中を切り刻まれた。

「うあ!?痛った〜って――ブライ!?」

いいや、それはコンジャラーである。
コンジャラーと間違えたなどとあの老人が聞いたら最早嘆き悲しむ所の騒ぎでは無いかもしれない。
この間違い自体は良くあるネタなのだが、少し今回は間が悪かった。
アリーナの一瞬の躊躇が、彼女の命を縮める――。

234 :幕間 princess & knight ◆gYINaOL2aE :2005/04/18(月) 02:27:28 ID:TovaKWsu
「せぁ!!」

鋭い剣撃がコンジャラーの首を跳ね飛ばす。
頭と泣き別れになった胴体は、ぐらぐらと揺らいだ後仰向けに倒れた。
アリーナは一瞬何が起こったのか理解できなかったが、目の前に立つ人影に対し反射的に構えを取っていた。

――その、禍々しきは鎧兜。

首から足の先までを覆う全身鎧(フル・プレート)に、顔はフルフェイスの兜を被っている為表情が見えない。
だが、さまよう鎧とも違う――確かに、肉体の気配がするのだ。
それは先ほどの気合の声であったり、息遣いであったり視線であったり。そういった有機的なものをアリーナは本能で感じ取った。
鎧は血のついた剣を横に払う。それが合図であったかのように、アリーナは飛び掛った。
顔を目掛けた飛び蹴り――そして、本命は首元への刺突。
彼女の手には無数の魔物を屠り続けてきた鉄製の鉤爪が光っている。
蹴りがかわされ、続く爪撃。手応えは――無い。いや、浅い。
鉄板の上を滑った感覚。避けられた――そう認識する前に、鎧はアリーナの足を掴み、軽々と放り投げていた。

「――くっ!」

空中で軽業師のような身軽さを発揮し体勢を立て直し着地する。
今一度――そう、アリーナが構え直したときには、鎧は剣を鞘に収めてしまっていた。

「待て。俺は、君と戦う気は無い」

鎧から男の声が漏れる。
アリーナは不服だった。今の攻防は、悔しいがあちらが一本取ったと言わざるを得ない。
身体がまだ動く、いや例え動かずとも、負けっ放しなど冗談では無い――。

235 :幕間 princess & knight ◆gYINaOL2aE :2005/04/18(月) 02:29:11 ID:TovaKWsu
「この洞窟にパデキアがあると聞いた。君は、知らないかな」

だが。目の前の男は、強い。
強者は強者を知るように、アリーナは心と身体、その両方で眼前の鎧――それは、まるで騎士のように見える――を認めていた。
この男と戦って勝てるだろうか。薬を手に入れクリフトに届ける事ができるだろうか。
――できない事は無い。だが難しい、と判ずる。

「解らないわ。私も、探しに来たんだけどね」

「そうか……」

手を口元にあて、思案する騎士。
その人間的な仕草を見て、アリーナはやはりこの男は魔物の類では無いなと感じた。
鎧兜は相変わらず嫌な気配を漂わせていたけれど。

「ね。物は相談なんだけど。私と一緒にパデキアを探さない?」

「君と?」

「そう。貴方、中々強いようだし。お互い、足手まといになる事は無いと思うわ」

「…さっきのは、俺を試したという事か?」

声に不愉快さが混ざる。
ソレに対し、アリーナはあっけらかんと答えた。

「それもなくは無いけど、とりあえず私は相手が強そうなら戦ってみたいのよ。それだけ――ううん、実はもう一つあるけど、それは秘密」

その鎧兜の余りの邪悪さに、つい手が出た。
だが、流石にこれは余計だと思ったし、それにどうしてだかこの男の声音は――暖かいのだ。
闇と光の両方を内包したアンバランスさ、いやそれは実はアンバランスなどでは無いかもしれないが――不可思議なモノを感じる。
そうして、興味を持ったというのが正解に近いかもしれない。

236 :幕間 princess & knight ◆gYINaOL2aE :2005/04/18(月) 02:30:16 ID:TovaKWsu
「……そう、だな。それも良いかもしれない」

逡巡の後、騎士の応えが返る。
こうして、姫君と騎士は共同戦線を張る事になったが、それはよくある英雄譚とはかけ離れたものだった。
洞窟の中を縦横無尽に駆け回り、身体で魔物を屠って行く姫君に、追随し彼女のフォローをいれながら、的確に障害を取り除く騎士。
それは傍目から見れば良いコンビに見えたかもしれないが、以前、滑る床には苦労していた。

「――待て。そこはさっき踏んだぞ」

「え?そうだっけ?じゃ、次はこっちね」

「だから待てと。そこは、見るからにダメそう――」

「え?あわわ…」

「えぇい、仕方の無い…」

意外と面倒見が良いのか苦労性なのか。
騎士もまた律儀に同じ床を滑る、が少し先ほどとは違うルートに焦りを見せた。
段々と近づいてくるのは、ぽっかりと口を空けた落とし穴だ。

「――!?」

騎士は落ちる瞬間、咄嗟に腕を伸ばしアリーナを抱え込む。
金属と床が烈しくぶつかり合う音。そして、無音。
アリーナは、恐る恐ると言った風に鎧の上で身体を起こした。

「……生きてる?私なら、着地できたのに……」

「……生きてはいるが、それを聞いて酷く落ち込みそうだ……」

237 :幕間 princess & knight ◆gYINaOL2aE :2005/04/18(月) 02:34:20 ID:TovaKWsu
ごほっと咳き込みながらも、ずるりと身体を引き摺り壁に寄りかかる。
アリーナも、その隣にちょこんとしゃがみ込んだ。

「少し、休憩させてくれ」

ふぅ、と軽く息を吐く。
そうして、暫しの沈黙が流れる。
居心地が悪い訳では無かったけれど、何かしら喋っても良いかしら、とアリーナは思った。

「ね。…デスピサロって、知ってる?」

――デスピサロ。
その名前を聞いた瞬間に、騎士の様子が豹変した。
手は握りこまれ、ぶるぶると身体が震えているのが解る。
憎悪。焦燥。無力感。それらがない交ぜになったような――。

「知ってるの!?なら、教えて!私は――私は、ヤツに会わないと……!」

「――何故、デスピサロに会わないとならないんだ?」

今度はアリーナが黙る番だった。
時間のみが過ぎて行く。それは大した長さでは無かった筈なのに、二人にとっては永劫にすら近く感じられた。

「…良いわ。全部教えてあげる。私の名前は――サントハイム王女、アリーナ――」


城を抜け出したこと、エンドールの武術大会で優勝したこと、蛻の殻のようになっていた城に凱旋したこと――。
王を含めた城内の皆を探す旅に出たこと、旅の途中で魔物が活発に動き出しているとの噂を耳にしたこと、遠くバトランドではピサロの手先と名乗るモノが子供狩りをしていたらしいこと――。
それが、エンドールの武術大会に出場し、参加者を殺しまわっていた不気味な男、デスピサロと符合したこと。



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